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失わぬように



ソータの背筋が凍る。異様な雰囲気と存在感。どうみてもあのスタッフと同じだが、どうみても印象が違う。


(……この、雰囲気……黒パーカー……)


「……まさか、お前が……バネ男!?」


長い前髪の隙間から覗く冷たい瞳。


「もう秋乃に構わないでもらえませんか?嫌がってるのわかりますよね?」


「……いや、そりゃ無理な話だ。こっちも事情がある……あいつはどうしても必要な人間なんだよ」


今日はっきりとソータは理解した。自分がギターを弾き続けることはバンドにとってマイナスであり、熱のないそれは自身の歌う事をも阻害している。だからこそ腕のいいギタリストが欲しかった。


「秋乃 深宙……頼む。今『rush blue』にはギタリストが必要なんだ。『yoseatume』のように一時的な加入でもいい。だから、頼む」


秋乃の怯えるような態度に、ソータは焦る。本能からくる身を護るような防御態勢。もはや自分を敵だと、危害を加えてくる相手だと断定している。目には嫌悪感が現れ、今にも泣きだしそうになっていた。


「……俺、は……違う、そんなつもりじゃ……」


やることが全て裏目に出てしまい、憤りを覚える。ライブでの失態、見下した相手に見下された今、絶望的な秋乃の勧誘。思わずソータは秋乃へ手を伸ばした。


「やめろよ」


その手を阻むように、バネ男が間に入った。


「さっきからなんなんだよ、てめえ。関係ねえだろーが!!」


「……あるよ。ウチのギタリストなんだから」


睨み返してくる春。ライブ前は少し強く言えば怯えていた彼だったが、今や別人のような雰囲気と態度で立ちはだかってくる。


(……な、なんなんだ、このバネ男の威圧感は……)


「『yoseatume』はもう終わりだろ。だったら、もうお前らには関係はない。さっさとそこどけよ」


「でも、秋乃のは僕のバンドのギタリストだ」


「……あ?」


「『yoseatume』じゃなく、僕のバンドのギタリストって意味だよ」


予想外の春の言葉にソータは目を見開き固まった。それは秋乃も同様で先ほどまでの恐怖心も忘れ、ぽかんとあっけに取られ立ち尽くす。

やがてその言葉がどういう意味なのかを反芻し、理解の追いついたソータ。秋乃を春に横取りされたという一方的で勝手な逆恨みで感情があふれ出し、怒りと悔しさをにじませた目で春を睨みつけた。


「お前のバンドだと?」


「そう。だから、秋乃は渡さない。……行こう、秋乃」


そう言って春は秋乃の手を握った。少し冷たくて、柔らかく固い感触。小さなその手がしっかりと握り返し、応じるように歩き出す。


「おい!待てよ!!話は終わってねえぞ!!」


「……もう、終わったよ」


睨み返す春。これで終わりだというように語気を強められ、ソータは委縮する。そこにはもう自身の身を守ろうとするだけの姿はなく、誰かを守ろうとする男の姿があった。

何かしらの覚悟を秘める強い眼差しに、ソータはそれ以上言葉を発することができなかった。


春は黙ったソータににこりと微笑む。


「……ソータさん。あなたのバンド、メジャーデビュー決まってるんですよね?あんまり強引なことをして事を荒立てるのは良くないんじゃないですか?こっちは別にいいんですけど、そっちは変な噂になったりしたらまずいでしょ……ボーカルにストーカー疑惑が掛かるような噂とか」


その瞬間、ソータの脳裏に過るライブでの失敗。橘が見せた冷たい表情に、またなにか問題を起こせばただでは済まないという意思を感じた。更にこれはバンドメンバーにも止められていた勧誘行為。


(そ、それはまずい……!)


これが知られれば橘にもバンドメンバーからすらも見放されてしまうのではないか。その恐怖心でソータは返答をすることも動くことも出来ずにいた。


去っていく春と秋乃。二人の後ろ姿を何も出来ずに見送る。


歌には自信があった。自分の最大の武器であり、誰にも負けない誇れる部分だった。だからこそ普段、落ち込むことや苦しいことがあってもすぐに立ち直ることができた。俺には歌があるという揺るぎない自信があったからこそ。

しかし、今は違う。多くの観客の前でバネ男いう歌い手に完膚なきまでに打ち負かされてしまった。自身の得意とするライブで、己の支えであった歌う事で。


今のソータには、もう戦える武器は何もなかった。



――



「……ここら辺で、もういいかな」


僕は後方を確認し、ソータが追ってきいないことを確認する。控室手前。椅子と自販機の設置されている休憩スペースで繋いでいた手をはなす。


「秋乃、大丈夫だった?」


「うん、大丈夫。ありがと、春くん」


「っていうか助けに入るのちょっと遅かったな。ごめん、遅くなって」


「ううん。っていうか来てくれるとは思ってなかったし……ほら、あたしお手洗い行くなんて言ってなかったでしょ?なのになんで来てくれたの」


「秋乃が控室から出て行った後に『rush blue』の人たちが入ってきてさ。でもその中にソータの姿が無くて、もしかしたらまた秋乃に接触するんじゃないかって思ったんだ。それで探し回っていたらトイレの側で秋乃に向かっていくソータを発見して……あのタイミングになったってわけ」


「そっか……あたしを、探してくれてたんだ」


どこか嬉しそうな秋乃。さっきまで怖い目に合っていたというのに。けどまあ、平気そうで何よりといったところだ。ソータにも何もされて無さそうだし。


「春くん、もう一つ聞いていい?」


「ん?」


「なんであんなに頑張ってくれたの?あの人の雰囲気普通じなかったし、もしかしたら暴力を振るわれてたかもしれない……多分、春くんも怖かったんでしょ?手をつないだ時、震えてたし。なのになんで、庇ってくれたの?」


流石にビビってったのはバレてたか。覚悟は決まっていたとはいえ、怖いものはやはり怖い。あんな目で睨まれたらそりゃ手も震えるさ。秋乃のいう通り逆上してぼこぼこにされていたとしても不思議じゃなかったからな。あいつの雰囲気からして。


……でも、逃げなかった。


「逃げたくなかったから。もう、大切なモノを失いたくなかったんだ」


それが答えだった。例え殴られ、ひどい目にあったとしても僕は秋乃を庇い守っただろう。失うということは肉体的苦痛よりも遥かに辛く、逃げるということはどうしようもなく悔しい。僕はそれを身に染みて知っている。だから覚悟を決めて庇った……結局のところただそれだけの話であり、決して大袈裟なことではない。


奪われたくないから守った。ただ、それだけだ。


「……そっか」


「うん」


――僕はもう、逃げることで失いたくない。


百合を、母さんを。


田中や、高橋、友達やファンを。


秋乃を……父さんのようには、失いたくない。


――だから戦う。もう何も失わないように。





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