第73話 月伏廃人 峰未雨vs血潮見 式部、劣等者が世界を歪める夜
ゲームのNPCと人間であるプレイヤーの意識が入れ替わった世界の話。ゲームマスターの思惑によって全ての仮NPCはダンジョンカジノでの命を賭けたスキルの能力勝負が始まった。レトファリックが勝利した頃、峰未雨はネガティブな月伏廃人とタッグを組んで対戦相手を殺さなければならなかった。月伏廃人は不運のカードの能力を得たのち峰未雨とともに対戦相手、獅子川一行の血潮見、式部と鉢合わせ勝負が始まった。対戦相手から弱いと評価された月伏廃人は血潮見、式部の技の応酬に戸惑うも峰未雨を傷つけないため刃を対戦相手に向ける。
「月伏廃人お前面白いな。血潮見に負けない青さを持ってるんじゃないか。筋肉はないくせに。」
血潮見も峰未雨を止めながら月伏に視線を向けた。
「一丁前にかっこつけやがって。お前にも俺の漫画みたいな夢があるんだな。良く伝わったよ。だけど俺らもこんなダンジョンカジノの序盤で負ける訳にはいかないんだ。」
血潮見は月伏の青ざめながら敵を追い詰めようとする矛盾した表情を見て思った事を言った。
「お前2重人格か。嫉妬とネガティブそして熱意が合わさったよくわからない顔をしてるな。面白いなお前。」
しかし月伏廃人は血潮見の発言を真に受けず呪いの剣を構えた。
「妬ましい。いいな正常な精神を保って世の中を渡り歩ける健常者は。俺は2重人格じゃありません。第2サーバーの電脳城を占拠した有名人、俺お前らに勝ってもっと自信を得たいんです。悪いけど倒させてもらいます。」
血潮見は月伏に攻撃を向けた。
「悪いけど残るのは俺らだ。血樹脈、糸絡み血。」
血潮見の技によって手から血の花弁を出しそれを糸状にして月伏の体を
捕縛した。月伏は瞬時に身をひるがえし糸を避けようと試みた。しかし糸の一部が彼の足と手に当たり膝や腕から血が出ていた。月伏は相手の強烈な捕縛攻撃に対して弱音を吐いた。
「なんて素早い攻撃だ。俺のカードスキルより有用なんじゃないか。くそ羨ましい。」
しかし月伏は相手の強力な攻撃に呼応するように自分のスキルの技の中でもとっておきを使った。
「ゴーストテレポート。」
月伏は転送能力を使用し血潮見の式部の背後を取り技を使った。
「振動停止。」
しかし相手は見知った技を見て瞬時に対応した。
「血樹脈、紅蓮の抱擁。まずは己を守らないと。この技、電脳城、雲上貝ビルでもよく出てきたやつだ。うっひゃー。」
血潮見は血の花弁で己の周りにバリアを敷き月伏の攻撃から身を守った。
式部も自身の体を骨で守り不運のカードの振動停止が効かないように注意した。
「こりゃあのビルで何度も相手にしたスキルだこりゃおもしれえ。カードのスキルを超えられるか見ものだな。」
血潮見は笑みをこぼしながら月伏に興味を持ち声をかけた。
「月伏廃人。獅子川から聞いた話なんだけど、不運のカードは強力な転送能力、捕縛能力、剣による攻撃能力を授かるかわりにデメリットもあるらしい。自分のアイデンティティや体力が奪われさらに技が当たらなかった時自分自身に降りかかるらしいってね。君大丈夫かな身動きがとれなくなったんじゃないかな。」
血潮見の予測は正しく月伏にはデメリットとしてアイデンティティの喪失、技で自分を攻撃してしまうはずだった。しかし月伏のアイデンティティとは妬みやネガティブな感情なため特に影響はなく、振動停止は自分があまりにもネガティブなためゲームバランスによって自分が喰らっても無意味となっていた。
血潮見は技をよけたはずなのにデメリットを受けずに呪いの剣を持ち突っ込んでくる月伏に驚いていた。
「変だ。なぜ自身の振動停止の攻撃を食らっても走っていられる。」
式部は彼の性格からなんとなく真相を読み解こうとしていた。
「血潮見。おそらく奴のアイデンティティはネガティブさだ。剣を持ったら急に自信をもって攻撃してきてただろ。」
しかし血潮見は現状を分析してもやはり辻褄が合わないことに気づいた。
「たとえネガティブでも技を食らわない、DESSQのゲームシステムを変えるほどになりえるか。」
彼の予想は月伏という男の全貌に近づいていた。
とにかく血潮見の糸絡み血を避け再び距離を取り今度は自分のスキルで勝負をしかけてきた月伏に対して血潮見は峰未雨が食虫植物の植物網から抜け出し自由な身になるのを避けようと技を使った。
「血樹脈、血槐障壁。」
血を植物化させ、トゲ付きの槐の壁を瞬時に生成。攻撃を防ぐと同時に触れた敵を毒状態にする防御を峰未雨の周りそして自分たちの周りに張った。
式部も血潮見の動きに合わせるように骨と食虫植物そして強靭な筋肉を生かした攻撃をした。
「骨筋肉、全身スケルトン。骨華槍」
骨と植物を合わせた巨大な槍を腕から生成。突き刺した相手に根が侵入し、内部から破壊する。
骨華槍をかわしながら剣峰未雨の捕縛を解こうと試みるも失敗、動きが強くなっているとはいえ相手のスキルの熟練度の方が一枚上手だった。
そして骨華槍の攻撃と血潮見の紅蓮華咲の技によって月伏は逃げるしか選択肢がなくなってしまう。
式部が月伏に言葉を投げ掛けた。
「月伏廃人、チームメンバーの峰未雨を守れないまま逃げ回っていいのか。体力もたないしジリ貧だろ。いっその事諦めたらどうだ。お前のカードスキルは見知ったものでな、攻撃は効かないと考えろよ。」
しかし月伏廃人は何度でも転送能力を使って相手をかく乱しながら攻撃を避け峰未雨を助けようとしていた。
「ゴーストテレポート。」
一時的に距離を取った月伏廃人は式部の言葉に答えた。
「駄目なんだ。ネガティブで根暗でチー牛で弱くてなさけない自分でも勝たなくちゃいけない。相手がどんなに手強くても必ずぶっ倒して峰未雨さんと付き合いたいんだ。一緒に遊園地に行ってアイス食べてジェットコースター乗って、一緒に映画館見て感動をわかちあってそんな青春を俺も送りたいんだああああ。」
血潮見は月伏廃人の言葉に少し胸を撃たれた。
「いいじゃねえか。そういう自分のやりたいこと夢に向かって必死にもがく時期が俺にもあった。大半は諦めてしまう、誰かに言っても笑われる夢。月伏、人生楽しんでいいなあお前は。だがその夢は俺が阻む。」
しかし血潮見は月伏の様子を見てあることに気づいた。
「ちょっと待て。お前剣を持つとアイデンティティを失うんだよな。じゃあなぜ妬
みやネガティブさが言葉に残っている。」
血潮見の違和感は正しかった。実は月伏廃人の周りには気体のモンスターが集まっていた。そのモンスターたちはネガティブで妬みの多い月伏廃人を見て助けなくちゃと考え彼の周りで彼の身を守っていた。そしてその気体のモンスターがこの戦闘で成長した月伏を見て未練はないと思い安心して能力を授けた。
[スキル獲得:劣等者の威圧]
――コンプレックスを糧に相手の精神と肉体を圧迫する特殊能力。羨望・嫉妬・妬心が高まるほど効果は増大する。またスキルの不運な効果もコンプレックスがあればあるほど効力を失う。
「……なんだよこれ。俺の……力?」
月伏は目の前のスキルに身覚えはなかったが能力を見てすぐに使うべきだと判断した。
「劣等者の威圧」
その瞬間、彼の体から黒い圧が放たれ、峰未雨すら後退させるほどの気配が走った。
捕縛されていた峰未雨はカードのスキルよりも禍々しい月伏新しいスキルに驚いていた。
「ちょ、ちょっと……! 本当に威圧感がやばいんだけど!」
血潮見と式部も彼の本当の潜在能力におののいていた。
「なんだこの力、カードのスキルよりも強力で圧倒的な気迫。」
「あり得ねえ。自分のコンプレックスがあればあるほど強くなるなんて。信じらんねえ。」
画面が再び浮かび上がる。
[インフェリア・プレッシャーが強化条件を満たしました。強化しますか?]
峰未雨は思わず叫んだ。
「いや、なんか怖い月伏君のスキル、強化させたら危険でしょ! やめときなって!」
血潮見もスキルの上位能力があることを初めて知り驚いた。
「スキルが強化する、そんなのゲームバランスが壊れるじゃないか。まさか本当に月伏廃人はゲームシステムやバランスを覆す力を秘めているということか。」
しかし月伏廃人は画面を見つめ、ゆっくりと指を伸ばし峰未雨さんに向かって叫ん
だ。
「……も!もし僕がもっと強くなったら!……君は、僕を見てくれる!?」
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