第69話 ESLYとバノムロッジの過去βテスター混沌の時代、レトファリックvsバノムロッジ決着
ゲームのNPCと人間であるプレイヤーの意識が入れ替わった話。ゲームマスターの思惑で第3サーバーダンジョンカジノでの生き残りを賭けた勝負が始まった。レトファリックとツキレニー、バノムロッジとRozESLYの対決は妖精の加護やレトファリックの寄生能力によって単純な魔法の撃ち合いに発展した。その後レトファリックの虎の魔法がバノムロッジの馬の魔法を呑み込みロッジはその場に倒れた。命が消えゆく中バノムロッジとRozESLYの過去が明かされる。
RozESLYはその場に倒れた。バノムロッジは倒れながらもRozESLYの方に向き人生の最期を共に生きようとしていた。
「RozESLYよ。私を慕ってくれたから自分の名前にロッジのRozを入れたままでいてくれたのだろう。ESLY、貴方のように忠誠心の高い優秀な仲間に恵まれて本当に幸せだった。」
RozESLYもバノムロッジの言葉に優しく寄り添うように丁寧に答えた。
「ええ。全てはあなたのための人生でした。このゲームに参加して右も左も分からない私を従者として招いてくださったおかげでこの世界の様々な事を知ることができました。あなたに仕える中で、私は生きる意味を知りました。」
バノムロッジがβテスターとして名を馳せ、誰もがその名を恐れと憧れをもって語っていた頃、ESLYはまだこの世界に足を踏み入れたばかりの初心者だった。
βテスト時代――それは、まだこの世界が未完成で、誰もが「神の視点」を持とうとしていた混沌の時代だった。
その中心にいたのが、伝説の男――バノムロッジ。
開発者が想定しなかったバグを見つけ尽くし、レベル1の初期装備でボスを倒し、三日で国家の経済システムを作り変え、そして戦闘では膨大なデータを瞬時に分析し、敵の弱点を突く戦術を組み立てるため、数的不利な戦いでも勝利を収めることができる力を持つという、まさに“異端の支配者”だった。
ESLYが初めて「バノムロッジ」という名を耳にしたのは、まだこの世界に足を踏み入れて間もない頃だった。
当時の彼女はただの初心者プレイヤーにすぎず、チュートリアルの草原でスライムに苦戦するような存在だった。
だが、世界の片隅ではすでに一人の男が伝説を築き上げていた。βテスター、バノムロッジ。
彼の名は神話のように語られていた。開発者が想定しなかったバグを見抜き、それを戦術として昇華する異端の王。
レベル1の初期装備でボスを撃破し、三日で国の経済システムを書き換え、NPCの妻を百人娶る。
もはや「プレイヤー」という枠を越え、世界そのものを“再定義”していた。
ESLYはそんな彼に強く惹かれた。
最初はただの好奇心だった。掲示板で見た彼の戦闘動画に感動し、バグ武器を生成する様を見て心を奪われた。
この人のようになりたい。
だが、彼女の思いは次第に変化していく。
いつしかそれは「憧れ」ではなく、「仕えたい」という忠誠の念へと変わっていった。
ある日、運命のようにその機会が訪れる。
街の広場で行われたイベントバトル――そこに現れたのは、例の“バノムロッジ”本人だった。
「新参者か? その装備では風に当たれば砕けるぞ」
低く響く声に、ESLYは思わず姿勢を正した。
「わ、私はESLYと申します! あなたの戦いをずっと拝見してきました!」
「ふむ……物好きなやつだ。俺に惹かれるとは、破滅願望でもあるのか?」
「いえ! あなたの戦い方に、生き方に、心を動かされたんです!」
バノムロッジは口角を上げ、ゆっくりと武器を構えた。
「ならば証明してみろ。俺を倒せるなら、好きに名乗るがいい」
周囲がざわめいた。
βテスター最強の男と、名もなき初心者との決闘。
誰もが結果は明白だと思っていた。
――だが、その瞬間からESLYの人生は狂い始めた。
戦いは惨憺たるものだった。
ESLYの剣は弾かれ、魔法は無効化され、回復する暇もなく地面に叩きつけられた。
それでも彼女は立ち上がった。何度倒れても、再び剣を握り、立ち向かった。
「もうやめろ。お前では俺に届かん」
「いいえ……あなたに届かなくても、あなたの足跡のそばを歩けるなら、それでいい!」
バノムロッジの瞳が一瞬だけ揺れた。
「いい目をしている。俺が見たいのは“強さ”じゃない、“可能性”だ。」
その後、彼は攻撃を止め、ゆっくりと手を差し伸べた。
「……面白い。ならば俺に仕えろ。俺の影となり、この世界を共に歩め」
「はい……! この身すべてをあなたに捧げます」
こうして、ESLYはバノムロッジの従者となった。
それからの日々は混沌と創造の連続だった。
バノムロッジは新たなバグを発見しては世界の構造を揺るがし、ESLYはその記録と修正、後始末を担った。
時に彼の暴走を止め、時に彼の理不尽な挑戦に付き合った。
「ESLY、見ろ。このNPC、結婚フラグを重ね書きできるらしい」
「ま、またそんな……! データ壊れますよ!」
「構わん。試してみる価値はある」
「だからそういう価値観やめてください!!」
結果、彼はNPC百人と結婚するという前代未聞の実績を打ち立てた。
開発チームは慌てて修正パッチを配布したが、プレイヤーたちはその奇跡を「愛の王国」と呼び称えた。
やがて二人は“統治者”となった。
バノムロッジが築いた国家は、ゲーム内経済の中心地となり、数万のプレイヤーが集う巨大都市へと発展する。
ESLYはその宰相として行政と記録を担当し、彼の暴走を裏から支えた。
「お前がいなければ、この国は三日で崩壊するな」
「その三日で経済システムを変えたのはあなたですけどね」
「……お前が止めなければ、一日だったかもしれん」
「それは誇ることではありません!」
二人の関係は、主従でありながら戦友でもあった。
どんなに混乱しても、ESLYは常にバノムロッジの隣に立ち続けた。
しかし、βテストの終わりが近づくにつれ、世界の崩壊が始まる。
サーバーの停止が告げられ、データのすべてが消えるその日――バノムロッジは静かに呟いた。
「この世界は消える。だが、俺たちが見た景色は消えはしない」
「……あなたは、また新しい世界に行くのですか?」
「ああ。正式版では別の姿で戻るだろう。だが、俺は俺だ。名を忘れても、心は残
る」
ESLYは涙をこらえ、彼の手を握った。
「なら、私は探します。世界が変わっても、あなたを探し続けます」
「愚かだな。そんな約束、果たせるはずがない」
「それでも、私は従者ですから」
サーバーが落ちる瞬間、ESLYの視界は白く染まった。
だが、彼女の心には確かな熱が残っていた。
――この人と共に生きたい。この人の世界の続きを見たい。
そして今、正式サービスの時代。
バノムロッジは再びその名を轟かせていた。
β時代の伝説は形を変え、神話として新たなプレイヤーたちに語られている。
ESLYもまた、彼の傍らにいる。
かつてよりも成熟した表情で、しかし変わらぬ忠誠を宿して。
「マスター、また新しい国を建てるつもりですか?」
「ああ。だが今回は壊さない。お前がいる限り、俺は少しは“理性”を持てる」
バノムロッジは自身のを握りしめ言葉を自分で噛みしめていた。ESLYはバノムロッジの話を聞いてほっとしていた。
「それを聞いて少し安心しました」
バノムロッジはESLYの言葉を聞いて自分の心の内に隠した秘密を打ち明ける事に決めた。
「……ESLY」
ESLYはバノムロッジの声色が変わったことに気づき少し緊張していた。
「はい?」
「お前の名に“Roz”を入れた意味、まだ知らんだろう」
ESLYはバノムロッジの突然の発言に普段の無表情な顔が変わるほど驚いていた。
「え……?」
バノムロッジはESLYの顔を見て久しぶりの感情を表に出した姿を見て少し笑った。
「驚きが顔に出ているぞ。やはりよく見ればお前は感情が声や顔に出るタイプみたいだな。」
バノムロッジの言葉にESLYは顔を赤らめ氷の表情が溶けていた。
「茶化すのはおやめください。バノムロッジ様。」
バノムロッジは怒らせてしまっては話したいことも話せないと思い素直に謝罪した。
「すまんRozESLY従者である君に嫌われては責任ある立場としてよくないな。」
バノムロッジは打ち明けようとしていたことについて話を続けた。
「“Roz”は“Rogue Zero”――俺の最初のコードネームだ。俺の原点をお前に託したんだ」
ESLYの瞳が揺れた。
それは、かつて彼女が彼に忠誠を誓ったあの日と同じ光だった。
「……やはり、あなたに仕えてよかった」
「ふん。感傷は似合わんぞ、従者ESLY」
二人の笑い声が響く。
かつての伝説も、過去の戦いも、今はただ新たな物語の序章にすぎない。
ESLYは剣を握り、再び彼の隣に立つ。
その瞳には、βテスト時代から変わらぬ忠誠と、未来への決意が宿っていた。
――この世界がいくつ変わろうとも、私はあなたの従者であり続けます。
二人の視線が重なったとき、戦火の喧騒は遠く消え、ただ静かな安らぎだけがそこにあった。二人を見たレトファリックは彼らに向けて自分の思いを述べた。
「僕が復活のカードかNON PLAYER CROWNを手に入れてゲームマスターを超えた権限を手に入れて必ず皆さんを復活させてみせます。それまでせめて安らかに眠っていてください。」
バノムロッジはレトファリックの言葉に顔を隠しながら笑いそして頷いた。
最後にレトファリックと剣、杖を交えたことを誇るような笑顔を彼に向けた。
バノムロッジ、RozESLYの二人は光とともに消滅した。
するとツキレニーとレトファリックの前に画面が表示された。
[レトファリック、ツキレニーvsバノムロッジ、RozESLY、勝者、レトファリック&ツキレニー。]
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