65話 第2支部のみんな
玲央戦から1週間。
かなりゆっくり体を休めることができた。
今日から久しぶりに第2支部へ出勤する。
たしか昼頃に事務所来いって久後さんから連絡が入っていた。
俺が疲れていると思い、気を遣ってくれたのだろうか。
結局本部の研修も3週間くらい居たかな?
だけど色んなことが起こりすぎて、何年も働いていたような錯覚にも襲われるし、むしろあっという間すぎてめちゃくちゃ短時間にも感じる。
要は俺の中で訳が分からなくなっているのだ。
俺は事務所へ到着した。
そして目の前のドアをくぐり、すりガラス状のパーテーションを越すと皆の姿が見えるはず……。
「緊張するな」
ガチャッ――
そう声を漏らしながらドアを開けた。
パーンッ――
銃撃か……っ!?
と思い一瞬でしゃがみ込んだ俺の目の前に広がるのは、いつもの事務所と違う景色。
いつも視界を遮るパーテーションはなく、入室した途端に部屋を一望できるようになっている。
部屋全体には妙にポップな飾り付け、子供の頃のお誕生日会を想起させるようなものが施されていた。
それから事務所の机に並べられたオードブルやお持ち帰り用のお寿司。
すでに全員出勤しておりいつも通りの格好をしている中、違和感マックスであるお誕生日用コーンハットを全員かぶっている。
「海成くんっ!」
「海成さんっ!」
「………………」
「「研修お疲れ様でした――っ!!!」」
なるほど。
これは俺の研修お疲れ様会をしてくれるってことだ。
よく見ると事務所の壁にも『海成くんお疲れ様でした』と書いてある横断幕なんかも貼られている。
俺にとってみんなに祝ってもらえるほど嬉しいことなんてない。
今、猛烈に感動しているのだ。
「うう……っ! みんな本当に……ありがと……って2人は何してるんですか?」
俺が感動しそうになったところで言葉を押し留めたのは、久後さんとねるさんの存在。
「何って飯食ってんだが?」
久後さんはもうすでに並んだ食事を食い漁っている。
「私はお前が帰ってこようがどっちでも良い。実験に協力してくれるのならば話は別だが」
ねるさんはいつも遠り本を読んでいる。
「ちょっと、久後さんっ! 食べるの早いですよ! これは海成くんのお疲れ様会なんですから!」
「もう本人きたんだから食べて良いじゃねーか! おい、海成くるのおせーよ!」
「いや、この時間に来いって言ったのアンタですよね……っ!?」
俺の反論にピクリとも反応せず、飯を貪っている。
「ねるセンパイも本は置いてこっちくるっす!」
凛太郎は無理やり彼女を引っ張ってくる。
どれでも表情変えず、本を読み進めるねるさん。
あぁ、そうだ。
この人達は自由だった。
久しぶりに第2支部の空気を思い出したな。
そんな物思いに耽っていた俺の顔をひょこっと下から紗夜さんが覗き込んでくる。
「おお、紗夜さん……っ!?」
近い……っ!
久しぶりの彼女がこんな近くにいる。
「ささっ! 海成くんもこっちおいでっ!」
意識か無意識か彼女は俺の手を握り、テーブルまで引いていく。
そして海成くんお疲れ様パーティーは始まったのだった。
凛太郎に『今日の主役っ!』と書かれた斜め掛けのタスキをつけられ、久後さんに一口じゃ入らんだろっていう量のケーキを素手で突っ込まれたり、ねるさんにパーティー中熱い眼差し(実験動物を見るような目)で終始見つめられ、そんな慌ただしくも楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
パーティ中、楽しみながらもちょこちょこと紗夜さんが片付けも並行して下さっていたので、終わるのも一瞬だった。
久後さんは自分のデスクに戻りゲームをし始め、ねるさんは読書再開、凛太郎は「お腹いっぱい……っ!」と言ってソファで横たわっている。
みんな解散する時も自由だな。
まぁそういう人が多いから俺もここにいる時は気が楽なんだ。
「ちょっとは気分転換になった……?」
後ろから紗夜さんに声をかけられた。
「うおっ!? びっくりした!」
「ちょっと海成くん、私にびっくりしすぎだよ〜」
そう言って紗夜さんはぷくりと頬を膨らます。
そんなところが可愛くて堪らないんですよ。
「す、すみませんっ!」
「ふふっ! ……海成くん、今日時間ある? 話したいことがあって」
紗夜さんは少し真面目な口調に切り替えた。
普段なら「こ、これは告白……っ!?」なんて思ったりするが、今の状況じゃ他にも思い当たる節がある。
おそらく弟、相羽玲央について。
俺もあの後のことが気になっていた。
「はい、俺も聞きたいことがあったんです」
紗夜さんはちょうど今からダンジョン攻略が一件入っているらしい。
その後になるとちょうど夕方になるので『村一番』で集合ということになった。
紗夜さん、前一緒に行った居酒屋、相当気に入ったのかな。
なんて思いながら、今日の俺のお仕事は終わりとのことなので、一旦お家に帰ったのだった。
そしてあっという間に時間が過ぎ、集合時間となったのだ。