61話 玲央との賭け
玲央はヨウスケに大剣を振り下ろそうとしている。
「ヨウスケ――――ッ!!」
全速力で向かうが、あのまま剣を打たれてしまえば間に合わないだろう。
どうする、何か手はないか……。
俺の叫びに玲央は一瞬こちらを見たがすぐ視線をヨウスケへ戻し、再び自分の役割を遂げようとする。
「剣の威力に耐えられたら相当のものだぞ」
彼は放った言葉を合図にそのまま剣を打ち込む。
仕方ないっ!
これは使いたくなかったけど。
「スキル【 雷狼刃 】!!」
バチバチッ――
俺の手から巨大な狼の形をした雷エネルギーが放たれた。
そいつはまるで生きているかのように玲央の元へ軽やかに駆けていく。
そう、これは池上の魔法を魔力吸収したものだ。
スキル【 貯蔵 】により俺は魔力消費なしに吸収した魔法を再現できる。
もちろん威力もそのままに。
「なんだ!?」
いよいよ無視できなくなったのか、ようやく俺へ体を向けた。
雷狼刃は玲央、ヨウスケのいる位置からやや上方向を走り抜け、彼らを過ぎた先の壁に激突した。
俺としては玲央の注意を引くため放ったに過ぎない。
だからあえて照準を外したのだ。
「戸波海成……といったか。お前、何者だ?」
玲央が放った一言、やつは俺の名前は疎か今の一撃が明らかに違和感のあるものだということも分かっているようだ。
つまり俺を一個人として把握していたことになる。
「俺は第2支部所属のE級冒険者だよ」
「ただのE級冒険者が魔道士の上位職【 アークメイジ 】の専用スキルを使えるかよ。今視えているステータスも隠蔽してるな?」
まじか。
どうりで雷狼刃強いなって思ってたら専用スキルだったのかよ。
そりゃ疑われるわけだ。
俺がなんと答えようか考えていると、
「まぁいい。戸波海成、俺と賭けをしないか?」
「か、賭け!?」
あまりに予想外な言葉だったため、少し動揺してしまった。
「あぁ。お前と俺、この戦い勝った方が言うことなんでも聞く……ってのはどうだ?」
なるほど。
これで俺が勝てばヨウスケに手出ししないよう釘を打てる。
それにあの地下5階、立ち入り禁止エリアのことだって聞けるかもしれない。
俺が受け入れることが分かっての提案なのか?
「玲央、お前は俺に何を願うんだ?」
「それを先に言っちゃ面白くないだろ?」
そう言って玲央はニヤリと笑む。
あいつが何を考えているか分からないが、ここは俺にもメリットがある。
この提案を呑まないわけにはいかないな。
「分かった。その代わり俺が勝ったらヨウスケにもう手出しするな。それともう一つ、俺の質問に答えろ」
「おいおい、二つも要件を聞かなきゃいけねぇのか?」
「いいだろ? 俺はE級冒険者なんだぞ!」
「ふん、まぁいいだろう。始めるか?」
「……あぁ。いいよ」
少し間をとってから答える。
俺は今作った数秒の間でスキル【 鑑定眼 】を使用したのだ。
名前 相羽 玲央
階級 A級冒険者
職業 魔導剣聖
レベル 84
HP 930/930
MP 251/251
攻撃力 301
防御力 103
速度 93
魔攻 300
魔防 103
マナポイント 0
▼ 通常パッシブスキル
【 鑑定Lv5 】【 自動回復 Lv5 】【 思考加速 】
専用パッシブスキル
【 マジックシールド Lv 3⠀】【 マナ回復⠀】【 剣聖の加護 】【 魔道士の加護 】【 強者の威圧 】
専用攻撃スキル
【 重力魔法 】 【 氷上級魔法 】【 幻影魔法 】【 剣聖 】
勝つために少しでも情報が欲しいとは思ったけど、これじゃ戦う気力がなくなりそうな実力差。
それになんだよ、魔導剣聖って。
魔法剣士の上位職ってことか?
知らないスキルもいっぱいあるし。
それに引き換え、俺のステータスはどうよ。
名前 戸波 海成
階級 E級冒険者
職業 マジックブレイカー
レベル 43
HP 520/520
MP 52/52
攻撃力 227
防御力 106
速度 106
魔攻 52
魔坊 52
マナポイント 0
▼ 通常パッシブスキル(残りポイント1350)
【 身体強化 Lv 7 】 【 隠蔽 Lv 10 】
専用パッシブスキル
【 不屈の闘志 】 【 自動反撃 】【 鑑定眼 Lv 1 】
【 魔力吸収 】 【 貯蔵 Lv 1 】
通常攻撃スキル
【 疾風烈波 】【 正拳突き 】【 氷雪波動拳 】
専用攻撃スキル
【 アークスマッシュ 】【 炎帝の拳 】
貯蔵スキル
【 咆哮 】
勝っているところで言えば、防御と速度のみか。
しかしこの世界、ステータス数値が全てではないことは池上、浦岡と戦った時に分かっている。
きっと勝ち筋はあるはず。
「……その顔、俺を鑑定して勝つ気が失せでもしたか?」
「うっ……」
そんな顔に出てたか、と思うほど鋭い指摘に不意を突かれた。
「思ったよりも小物そうで安心したよ」
意識的なのか分からないが、嫌味な言葉をぶつけてくる。
「なっ! お前紗夜さんの弟だか知らないけど、あんまり調子乗んなよ!」
つい玲央に買い言葉してしまった。
それを聞いた彼は少し表情が変わって、
「紗夜……ねーさんとはどんな関係なんだ?」
「どんなって、そりゃ先輩と後輩……かな。お世話になってんだよ」
「ふん、そうか。まぁいい。邪魔が入る前にかかってこいよ」
玲央はそう言って周りをぐるりと見渡した。
俺も同じように視線をやると、結界内の様子が慌ただしくなっている。
おそらく今の隔離状況をどうにかしようとしているに違いない。
俺としてもこの戦いを邪魔されては困る。
こいつには言うことを聞いてもらわないといけないことが多い。
「分かった。なら俺から行くぞっ!!」
玲央は手のひらを上に向け、指をクイクイと曲げる。
「さっさとこいよ」と言わんばかりのえらく余裕そうな態度。
このやろう。
最初から全力でいく。
もう貯蔵スキルも使っちゃったし、出し惜しみなしだ。