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42話 伝説の冒険者になった覚えはない



 あれから1ヶ月後と少しが経ち、仕事にも少しずつ慣れてきた。


 にしてもあの時は大変だったな。


 しかし俺達の探索だけでは完全攻略とはいかなかった。

 まぁダンジョン内の探索な主な目的だったから結果としては良かったのだろう。


 結局この1ヶ月、何度も本部からの冒険者部隊があのダンジョンの攻略に向かい、最近ようやくクリアしたそうだ。

 初めに久後さんが倒した……と言っていいのか、あの遺跡ごと燃やし尽くしたヤツを含めて5体の中ボスと2体の大型ボスがいたらしい。


 大型ダンジョンどんだけ大変なのよ……。


 それで池上と浦岡はどうなったかって?


 実は冒険者界隈での犯罪自体が初めてで、未だに対応を検討中とのことだ。

 そもそも冒険者という仕事自体、地球に普及されて10年前後。

 更にいえば第2支部や独立ギルドなどの括りができたのなんてここ1年の話らしい。


 つまり今までは本部のみでの冒険者活動だったことで、結果それが犯罪の抑止力になっていたんだろう。


 今は2人とも本部地下に収容されているようだ。

 かなり厳重にされているらしいから、さすがに脱獄ってことはないだろう。


 大型ダンジョンではこのようにある程度成果を残し、それから1ヶ月間、久後さんから司令があったダンジョン攻略に励み、俺は一生懸命頑張った。


 なのにだっ!

 

「あ、海成! お前しばらくここ来なくていいよ? 」


「へっ!? 」


 いつも通り事務所でゲームをしている久後さんからそんな一言が飛んできた。


 急すぎて変な声出ちゃった。

  

 あれー俺、首になるようなことしたっけ?

 いや、断じてしてない……はずだ。


 ならどうして……。

 待てよ、しばらくって言ったよな?


「明日から1ヶ月、君は本部の冒険者だっ!! 」


「ん!? ちょっと意味が分かりませんっ!! 」


 ハツラツな様子で言ってきた久後さんに対して、俺は同じテンションで返答した。


 ちょっと久後さん、海成くんを1人で行かせるんですか? 私は絶対に反対です!


 紗夜さんがいたらこう言ってくれただろうに。

 残念ながら彼女はダンジョン攻略中だ。


 ついでに凛太郎もダンジョン、ねるさんは相変わらず部屋に閉じこもって何かをしている。


「この第2支部ができてちょうど1年、お前の部下はちゃんとやってんのかと、そー言われちゃあ行くしかねーじゃん? 」


「ねーじゃん? じゃないですよっ! 別に俺じゃなくても凛太郎もいるじゃないですか 」


「格上であるB級冒険者を倒した謎のE級冒険者。今本部でウワサになってる。つーことで海成っ!! 『ボクは久後さんに育てられました! 』って広めてこいっ!! 」


「それが目的かっ!! コノヤロー!!! 」


 ……なんて言っても断れるわけもなく。


 くそ、この感情……紗夜さんにグチってやろう。

 そう思って夕方まで事務所で時間を潰したが、紗夜さんどころか凛太郎も帰ってこなかった。


「おい、海成。明日早いんだからさっさと家帰れ! 」


「えーっ! 明日から1ヶ月帰って来れないんだから最後に会っときたいんですけど 」


 俺がそうゴネると、


「いや、たった1ヶ月だろ 」


 久後さんに真顔でそう言われた。


 まぁ……そう言われたらそうだな。


 彼の言葉に腑に落ちてしまった俺は、静かに事務所を後にした。



 帰り道。


 ピロン――


 この着信音、メッセージだ。

 しかし今は自転車に乗っている。

 そんな急ぎでもないようだし、家に帰って開こう。

 ……なんて思っている間に家に着いた。

 マジで近いって最高だわ。


 自宅に入ってから俺はスマホを開いた。

 そこには名前とメッセージ内容が記載されている。


 瑠璃〈明日からよろしくお願いしますねっ! 先輩♡ 〉


 やっぱり瑠璃も知ってたか。

 まさか今回の件、彼女も関わってたりするんじゃ?


 ま、色々考えても仕方ない。

 明日になったら分かるか。



 ◇



 そしてやってきた次の日。


 レベルアップコーポレーション。

 俺の家からここまでは最寄り駅まで徒歩10分、2駅先で降りてからさらに徒歩5分のところにある。


「久しぶりに見たけど、相変わらずでかいビルっ! 」


 本社にきたのは1ヶ月半ぶりくらいだが、このビルの大きさはなかなか見慣れるものではない。


 そしてビル前の道路沿いには明らかに見たことのあるセダン型の黒い車。


 いいなぁ、羨ましい。

 でもただのE級冒険者には送迎なんてつかないだろうな。


 そんなことを思っていると、


「せんぱ~いっ!! 」


 車から西奈 瑠璃が降りてきてこちらへ走ってくる。

 あぁ、やっぱり。

 車見た時からそうかなと思っていた。


 俺に向かって美女が胸を揺らしながら走ってくる。

 なんて素敵な光景なんだ。


「先輩? 先輩ってばっ! 」


 彼女は正面に立ち、俺の両肩を揺すってくる。


「あ、あぁごめん。ボーっとしてた 」


 ウソだ。

 ただ見惚れていただけという。


「今日からですねっ!! 今本部の冒険者は先輩がくることできっと大騒ぎですよっ! 」


「大騒ぎ? なんで? 」


「えーそんなの決まってますよ〜! B級冒険者2人を仕留めたE級冒険者。今や先輩は伝説になってます 」


 瑠璃は人差し指を立てて自慢げに言ってくる。


「おいおい、それ広めたのってもしかして…… 」


 俺がジト目で見ると彼女は大きく首を横に振って、


「いえいえ、初めに広めたのは私じゃないですよ!? た、たしかに、少しウワサが流れ始めてもっと広まればいいなぁと思ってアレコレしたのは私ですけど…… 」


「やっぱりちょっとは関わってたんじゃねーか! 」


 まぁ予想通りではあった。

 けど、初めに広めた人がいるのか。

 一体誰なんだろう?


「あっ! 先輩っ! もう時間ですよっ!!! 」


 瑠璃は腕時計を見て焦り始めた。


 と思って俺もつられて時計を見ると、針は8時50分を指していた。


 たしか集合時間は……。


「9時だっ!! 」


「ほら、先輩行きますよっ!! 」


 俺は瑠璃に手を引かれながら社内へ入った。


 この光景は、後に鑑定科の西奈 瑠璃が見知らぬ男と手を繋いで出勤していたと社内で話題になるのだが、それはまた別のお話である。

 

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