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3話 今日から俺は冒険者らしい


 その空間を通った記憶は全くない。


 俺は気づけば、だだっ広く照明もないというのになぜか明るい洞窟内にいた。


「なんじゃここ…… 」


 もうこの一言に尽きる、そんな心境であったが、そんな俺にお構いなく西奈さんは話を進めてくる。


「はい、じゃあこの擬似ダンジョンで『冒険者』になる適性試験を始めますっ! 」


「あ? 冒険者ってのがやべぇ職業かよ!? なんだそのくだらなそうな仕事は! 」


 すると西奈さんはさっきまでの笑顔とは打って変わって、


「えっと……じゃあ帰りますか? 」


 彼女はそうおじさんに答えたんだと思う。

 そう確信していないのは、彼女の目線がどこを見ているか分からないからだ。


 俺に話しかける時はあんなに直視してくるのにも関わらず、今のこの反応。

 どれほどまで対応が違うんだ。

 俺がそうされたら心折れるな、うん。


「い、いや受けるに決まってんだろっ! 」


「じゃあ試験内容について説明しますね 」


 そして彼女はさっきまでの会話がなかったかのように、そのまま説明に入った。


「まずあそこにいるウサギは視えますか〜? 」


 西奈さんの指差す方には、ウサギの入ったゲージが置かれている。


 ……あのゲージいつからあった?

 さっきなかった気がするんだけど。

 しばらく俺とおじさんが唖然としていたからか、


「……視えますか〜? 」


 2回同じように問いかけてきた。

 この会話、進行するためにそんな大事なの?


「あぁ……視えますけど 」


「よいしょっと 」


 気づけば西奈さんはゲージを開けウサギをこの洞窟に放っている。

 この人俺が返事する前にそうしてなかったか?

 じゃあ全然あのくだりいらなかったじゃん。


「このウサギはレベルラビットという激レアモンスターです! おそらくもう出会うことはないでしょう。そんなこの子には人を冒険者にする能力があるのです! 戸波さん、このウサギを捕まえたら君も立派な『冒険者』ですよっ! 」


 彼女はまっすぐ立てた親指を俺に向け、満面の笑みを浮かべている。


 うーん、西奈さん可愛いんだけどね。

 俺、冒険者についてまだ何も分からないから全然意欲が湧かないよ?

てか人を冒険者にするってどんなウサギだよ。


「おっしゃ! あのウサギ捕まえたら俺も冒険者になれんだな? 先に行くぜっ!  」


 おじさんは俺が呆然と立ち尽くしている姿を見て、これ見よがしにウサギの元へ駆けて行った。


「戸波さんっ! このままじゃあいつが冒険者になっちゃいますよ?  早くっ! 」


「え!? わ、分かりました! 」


 よく分からないが、今西奈さんが応援していくれている。

 冒険者のことは置いておいて、俺はそれに応えたい。


 とは言うものの、おじさんは目の前のウサギに飛びつこうとしている。


「へへっ!! ウサギもらったぜ――っ! 」


 ヤバいっ! 捕まえられるっ!


 すると、そのウサギは普通であればできるはずもない横飛びをありえない速度で行い、おじさんを華麗に避けた。


「グエ――ッ! 」 


 気づけばおじさんは地面に直撃している。


 うわぁ……。痛そ……。


 あ、彼に気を取られてウサギのことを忘れていた。

 どこだ? ダンジョン内どこを探してもあのウサギはどこにもいない。


「フンッ! フンッ! 」


 何やら足元から鼻を鳴らすような音が聞こえてきた。

 下を向いてみるとあら不思議、さっきのウサギが小さなしっぽを振ってこちらを見上げている。


「え? これ抱っこすりゃいいんですか? 」


「おっ! やっぱり戸波さん……。 レベルラビットに懐かれるなんて初めて見ましたっ! だ、抱っこしてあげてください 」


 なんだか彼女の視線からは、憧憬の念というか憧れのようなものをさっき以上に強く感じる。

 俺、なんかそんなに変わったことしたっけな?


 いや、考えるのは後。

 まずはこのウサギだ。

 

「よしよし。 抱っこしてやろう 」


 そう思い抱き抱えた瞬間、目を疑ったがそのウサギはポリゴン状となって空に消えていったのである。


 そして同時に目の前にウィンドウが出現し、眼前に浮かんできたある文字をAI音声のようなものが読み上げる。


 《職業:武闘家になりました。》


 武闘家?

 なんだそれ、ゲームの設定か?

 しかしこの目の前の画面をどう説明する……。

 これは正真正銘、現実に現れたものだ。

 いや、そもそもこの空間に移動した時から全て現実からかけ離れている。

 もうすでに驚き疲れたわ。


「これで戸波さんは立派な冒険者ですねっ! 」


「とりあえず、外に出てからその冒険者っての教えてくれません? 俺なんも知らないので 」


「そうですね、そうしま―― 」


「おい待てよ! 俺はどうなんだ? 冒険者になれねーのか? 」


 西奈さんの言葉に被せてきたのは、あのおじさんだ。

 10mほど離れたところから叫んでいる。


「あの……この試験そんなに簡単じゃないので。 じゃあ戸波さん行きましょ? 」


 西奈さんはサラッと話を終わらせ、出口に向かおうとする。


「俺ァ落ちたんだな? どうせ冒険者なんざクソも興味ねぇ! 大した仕事でもねーだろうしまぁいいわ。試験落ちたんならそこのクソ女、最後にお前のこと散々殴り倒して、その後でゆっくり犯してやるよっ! へへへっ! 」


 おじさんが向こうから走ってきた。

 横で俺の服の裾をつまんできた西奈さんからは、微細な震えが伝わってくる。


「さて、どうしようか…… 」


 今の俺に彼女を守るほどの力があるだろうか。

 そう思っていると、突然目の前にウインドウが現れ、またもさっきの文字と声だ。


 《パッシブスキル【 不屈の闘志 】を発動します》


 あれ、変だぞ?

 急に俺の本能があいつを許せないと訴えかけてくる。

 さらに不思議なことに、さっきまで怖かったあのおじさんのことをなんとも思わない。

 何なら倒す勝ち筋まで頭に浮かんでいる。


 すると気づけば俺はおじさんへ立ち向かっていた。


「あ? なんだお前、先にやられてぇのか? 」


 そう言って胸ぐらを掴もうとしてくるが、今の俺には大したことじゃない。

 軽くその手を払いのけた。


「てめぇ調子乗ってんなよっ! 」


 次は拳が向かってくるが、難なく躱せるレベル。

 何度も殴ってくるが、全て躱すか腕で防いでみせた。


「なんなんだよお前はっ! さっきまであんなに弱そうだった……ブフッ! 」


「悪い、ガラ空きだったからぶん殴っちまった 」


 今の一撃でかなりの距離飛んでいった。

 しかし彼はすぐに立ち上がる。

 意外とタフだな。


「ははっ! お前実は強かったのかよ。 でもな、いくら腕っぷしが強くてもこれには勝てねぇよな? 」


 おじさんは自分のポケットを探り、何かを出してきた。


 あれは……拳銃だな。

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