00.プロローグ
今代は歴史上最も平和な時代と言われ、現、星の統一者である「キング・プロテア」は世界中の誰からも愛されていた。
それは長年お側に仕えていた私も、心からそう思っている。
弱冠二十五歳にして統一者の座につき、世界を守ること三十年。
歴代のキングより早く、"星の統一者"の地位に就いたキングは、不慣れながらも信頼と愛を獲得し、謙虚な伴侶と三人の子に恵まれた。
しかし決して幸せなことばかりではなく、前キングの死、長男の病、星外部からの占領。他にも多くの悲しみや困難が、キングの人生に重くのしかかった。
それでも何一つ投げ出さず、前を向き続ける姿こそ、私の人生を捧げてもいいと思える星の統一者に違いなかった。
――そう、我がキングの激動の半生は、充実した日々は、当たり前のように続くと思っていた。
今までは――――
▽
重く大きな扉から伸びる赤いカーペット、大理石の柱、美しいが威厳のあるここは、紛れもなく玉座の間だ。
私はこの大広間にある、王の椅子の一歩後ろから、悲鳴や叫び声、金属のぶつかり合う音を聞いている。
我がキングは、金とレッドダイヤモンドが装飾された立派な椅子に深く腰かけ、もうすぐ来るであろう、乱闘の時を静かに待っていた。
「キング、今ならまだ逃げられます」
普段の明るい様子とは違う冷静な背中に、懇願ともとれる提案をする。勿論、意見を一蹴して前を見据えて。
前を向くキングは、予想通りのお言葉を口にした。
「ここは時期、奴らに乗っ取られるだろう。それでも私は統一者として最後まで残る」
「それならば共に、最後まで戦い続けます」
先ほどまで耳を掠めていた激しい音や声は、今も着実に近づいてくる。
「ルシアン、お前に頼みがある。息子を、クレタを、マシリー婆さんの元へ連れて行ってくれ」
背を向けたまま告げるキングに、これ以上何も言えなかった。
自分の意志を飲み込み、静かに拳を握る。
「……ッ、承知、しました。必ずクレタ様をお守りします」
「さぁ行け。奴らが来る前に」
長居するなという背中に、私は深々とお辞儀をした。そして踵を返し、キングに背を向けた。
振り返ってはいけないと思い、足早に去ろうとした時、いつもの溌剌な声で名前を呼ばれた。
「ルシアンよ、今まで大変世話になった」
私が最期に見たキングは、真っ直ぐで澄み切った眼差しをしていた。
* * *
新たな統一者が世を支配して七年。
今や世界の均衡は崩れ、統一者もとい支配者の手によって荒廃していた。
天候は淀み、それぞれの国の統一者も好き放題に国を荒らし、魔物が現れるはずのない場所に現れ、世界からは笑顔が消えた。
それでも人々は七年越しに、ある希望を見出していた。
反乱軍「ルシアン」
突出した身体能力や、特別なアビリティを持った彼らは、支配者達からの世界奪還を掲げ、支配者がいる幻想の星統一領地を目指す。
人口のたった何千万分の一、軍と呼ぶには少なすぎる少人数で、世界の悪に立ち向かう。
運命によって選ばれた彼らは、それぞれ大切にする誰か、何かの為に立ち上がる。