最終話 言わなかったさようなら
夏の終わりに最終話。
あれから二年が経ちました。
帰らなかった蓮梨の行方は……。
どうぞお楽しみください。
お盆の季節がやってきた。
この季節になると、一昨年の今頃をいやがうえにも思い出す。
亡き妻・蓮梨が、再婚しようとしない私に業を煮やして、自殺しようとしていた歌多を嫁にしろと連れてきた。
蓮梨以外を嫁にするなんてとんでもないと思っていたけど、蓮梨の強い押しと、歌多自身の魅力に、気が付けば結婚の運びとなっていた。
歌多に親族や友人がいない事から、結婚式は私の身内だけでこじんまりと行った。
しばらくして歌多の妊娠が判明。
今年二月に女の子が生まれた。
「あれから二年か……。あっという間だったなぁ……」
「ふふ、そうね」
愛娘・花菜を抱いて、歌多が私の隣に座る。
「蓮梨さんがいなかったら、私は今頃この世にいなかったし、本当に感謝してもしたりないわ」
「そうだな。私も再婚して、子どもまで持つ事になるなんて、思いもしなかった」
「蓮梨さんのおかげね」
「あぁ……」
私の顔を捉えた花菜が、顔をくしゃくしゃにして笑う。
蓮梨そっくりの笑顔。
「ご機嫌ね、花菜」
「あぶぅ」
「パパの事大好きだもんねー」
「あーう」
花菜は私に向かって小さい手を伸ばす。
何て愛おしいんだ。
「よーしこっちおいでー」
「うー」
まだ生まれて六ヶ月と少しの小さい身体。
そっと受け取ると、暖かさと柔らかさに、胸がじんとなる。
「花菜の笑い方、蓮梨さんそっくりよね」
「そうだな」
「まぁそれも当たり前よね」
「あぁ」
私は花菜の頭を撫でる。
『歌多さん、陽善さん、ミルクできたよー』
「ありがとう蓮梨さん」
「やっぱり世話してる人に似るよなぁ」
哺乳瓶を浮かせて持って来た蓮梨は、ふわりと私達の前に着地する。
蓮梨はお盆の後、あの世に帰らなかった。
歌多の自殺阻止、歌多を陥れた夜の店の経営者達の改心、そして海の幽霊大量成仏の功績を認められて、我が家の守護霊として留まる事を許されたそうだ。
閻魔様からは、私達夫婦の子どもに転生する案や、三人まとめて重婚のできる世界に異世界転移する案も出されたそうだけど、蓮梨は今の私達の側にいる事を望んでくれた。
……閻魔様の弱みでも握ってるんだろうか、蓮梨は……。
とりあえず、娘に転生されなくて良かった。
パパ大好きって言われる度に複雑な気持ちになっただろうから……。
『歌多さん、温度は大丈夫だと思うけど、確認してね。この力、ミルク作るのはできるけど、温度まではわからないから」
「ありがとう。……うん、大丈夫」
「ミルク作るためのものじゃないからなぁ、その物体を動かせる力……」
本来はこの世に残る霊が抵抗した時に使うよう与えられたそうだけど、墓場に居座る幽霊も廃病院に巣食う幽霊も、説得だけで成仏させる蓮梨は、もっぱら花菜の世話に使っている。
無重力高い高いは花菜のお気に入りだ。
「夜泣きも陽善さんと蓮梨さんとで交代で見てくれるから、本当に助かってる」
『二人の子は私の子も同然だからねー』
……正直無茶苦茶な関係だと思う。
元妻の幽霊と、連れて来られた嫁と、娘との共同生活。
それでも一緒にいられて、私はこの上なく幸せだ。
悲しい事も不幸な出来事もあったけど、この幸せにたどり着くために必要な事だったと今は思える。
『でさー、そろそろ二人目ほしくなーい? 花菜ちゃんは私が見てるから、今夜あたり……』
「え、いや、それは、何というか……」
「ありがとう蓮梨さん!」
蓮梨の顔がくしゃりと歪み、歌多さんの目が光る!
二人の妻のため、私は今日も頑張ります……!
読了ありがとうございます。
最後の最後まで、娘に転生ビターエンドと迷いましたが、やはり蓮梨も含めてハッピーで終わらせたいなと、こんなエンドになりました。
娘に転生してもされても辛いかな、と。
最後にキャラの名前ですが、羽枝田陽善と蓮梨は『比翼連理』からそれっぽい漢字を当てました。
そして長根歌多はその原典である『長恨歌』から。
自転車で綱渡りするような危うい連載でしたが、無事八月中に終わらせられました。
皆様の応援のお陰で無事完結できました。
ありがとうございます!
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。




