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第三十五話 結ばれた絆は固く

蓮梨の両親に出会い、再婚の意思を伝えた陽善。

蓮梨の気遣いを伝え、再会へと導いた歌多。

そしてお盆は終わりに近づき……。


どうぞお楽しみください。

『私、今日はお父さんお母さんと過ごすから。陽善はるよしさん、私がいなくてもちゃんと婚姻届出してね』


 そう言って蓮梨はすな建郷たてさとさんとすみれさんに着いていった。

 その後ろ姿が嬉しそうで、私と歌多さんは笑い合った。

 その後役所に向かい、婚姻届を受け取った。

 一度私の両親の元に戻り、証人の欄に記入してもらった。


蓮梨はすなちゃんの時は白鳥さんの夫婦に頼んでたからなー! 今回書けて俺は今猛烈に感動しているぅー!」


 父がうるさかった。

 それを持って役所に戻り、身分証と共に提出した。

 歌多さんが運転免許を持っていたのは意外だった。

 仕事に就く際に必要だからと取らせてもらったそうだ。

 ……一瞬良い職場だったのかなと思いかけたけど、夏の倉庫で休みなく働かせたり、夜の仕事の話だけで解雇したりした事を思い出す。

 車を使えたらよりこき使える、という事だったのでは……。

 やっぱりクビになって良かったと思う。


「はい、受理いたしました。これでお二人はご夫婦となりました。おめでとうございます」


 その言葉に歌多さんが、顔をぱあっと明るくして微笑む。

 つられて私の頬も緩む。


「どうぞ末長くお幸せに」


 そう言われて、嬉しくて、照れくさくて、蓮梨がここにいてくれたら、なんて考えた。


「蓮梨さんに、見てもらいたかったですね」


 歌多さんが同じ事を考えてくれていたのが嬉しかった。

 婚姻届受理証明書を受け取り、蓮梨が帰ってきたら見せようと話した。


「今日の夕食はデリバリーにしよう」

「え、でも……」

「お祝いだから。それにゆっくり歌多さんと話をしたい」

「……はい」


 車に乗るまでの間、私と歌多さんは自然と手をつないだ。

 自宅に戻った後も、車から降りる時に差し伸べたまま、ずっと手をつないでいた。

 ソファに座ると、歌多さんは今朝のように私の腕を抱きしめた。

 どきどきと安心が入り混じる不思議な気分だ。


「蓮梨がこれを見たら大騒ぎしただろうな」

「ふふっ、そうですね」

「全く蓮梨は押しが強すぎるんだ。私の事が心配なのはわかるんだけど……」

「でもそうじゃなかったら、きっとこんなに早く私と結婚する決意はできなかったですよね?」

「……まぁ、そうだけど」

「だったら蓮梨さんに感謝しないと」

「……そうだな。言ったら調子に乗るだろうけど」

「それでもちゃんと言わないとですよ」

「あぁ、わかってる」


 夫婦になって、こんなに密着しているというのに、私と歌多さんの話は蓮梨の事ばかりだ。

 もう私の中では、歌多さんと蓮梨との三人で一つの家族となっている。

 だからこそ明日が辛い。

 明日には蓮梨はあの世に帰ってしまうだろうから。


「明日でお盆も終わりか……」

「……寂しくなりますね」

「……あぁ」

「ずっと、こんな気持ちでいたんですね」

「……あぁ」


 歌多さんが腕から手を放し、私の頭を抱きかかえる。


「歌多さん?」

「……歌多、って呼んでください」

「……歌多」

「……はい」

「歌多」

「はい」

「君はずっと一緒にいてくれるか?」

「はい」

「私も命続く限り君と一緒にいる」

「はい」

「可能なら先に死んでしまっても、蓮梨のように会いに来る」


 歌多は私の頭を離し、私の顔をじっと見つめる。


「嬉しいですけど、再婚は勧めないでくださいね」

「……わからない。勧めたくはないが、歌多が辛そうなら考える」

「じゃあなるべく死なないでください。私も長生きしますから。……蓮梨さんを待たせるのだけが、心苦しいですけど……」

「そうだな。でも私が合コンを断ったりしてるのを見ていたみたいだから、意外と楽しんで過ごすかもしれないぞ?」

「私達が幸せでいれば、ですか」

「あぁ」

「でもお盆の前には、ちょっとだけ夫婦喧嘩、しましょうね」

「蓮梨が帰って来たくなるように?」

「はい」

「蓮梨が帰っても、来年のお盆にまた一緒に迎えたい」

「私もです」


 身体を預けてきた歌多をぎゅっと抱きしめる。

 運命の気まぐれで簡単になくなってしまう幸せを逃さないように。

 今ここにいない蓮梨の空白を埋めるように。


「明日は、笑顔で見送ってやろうな」

「……無理です。めちゃくちゃ泣いて引き留めると思います」

「……そうか。私もそうしようかな」

「それが良いと思います。陽善さんは我慢しすぎなんですよ」

「……かもな」


 泣いても笑っても、明日の別れは変えられない。

 ならば素直に、寂しさと、感謝と、蓮梨の幸福を願う気持ちを伝えよう。

 結局私達は、夕食もとらずに蓮梨の思い出話を続け、そのままソファで眠った。

 先に眠った歌多にタオルケットをかけながら、明日の朝、結婚初夜に何もしなかった事を蓮梨に責められるのを楽しみにしながら。




 しかし翌日。

 蓮梨は帰らなかった。

読了ありがとうございます。


ラスト一話です。

最後までお付き合いいただけましたら嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 甘々じゃないエンディングはエタにゃんじゃないやい(´;ω;`)
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