表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/36

第三十四話 涙の再会

道端でばったり蓮梨の両親と出会った三人。

その出会いがもたらすものとは……?


どうぞお楽しみください。

「……お久し振りです、建郷たてさとさん、菫さん……」

「あぁ、久し振り陽善はるよし君。元気そうで何よりだ。……で、そちらのお嬢さんは……」


 道端でばったり会った蓮梨はすなの父・建郷さんは、私の横にいる歌多うたさんに目を向ける。


「あの、初めまして。長根ながね歌多と申します」

「初めまして。私は白鳥しらとり建郷です。こっちは妻のすみれです」

「初めまして。うたさんって素敵な名前ね。字は歌うのうたさん?」

「あ、それに多いをつけて歌多です」

「そうなの。歌がいっぱいなのね。綺麗な名前だわぁ」

「あ、ありがとうございます」


 ……今のところはにこやかだ。

 でも内心ではどう思っているんだろうか。

 子どもの時から世話になっているし、良い人達なのは間違いない。

 蓮梨が亡くなってからは、自分達も辛いはずなのに、私を慰め、励ましてくれた。

 何度も再婚を勧めてくれていた。

 が、何の前情報もなく、歌多さんを連れていたら、どう思うのか……。

 とりあえず話を続けながら見極めよう。


「歌多さん、こちらが蓮梨のご両親なんだ」

「あ、そうなんですね。蓮梨さんの事は陽善さんから伺ってます」

「へぇ、歌多さんに蓮梨の事を話してくれているんだ」

「え、あ、まぁ、その……」


 これは、どっちだ……!?

 娘の事もちゃんと話してくれているって事か、許可なく娘の話してんじゃねぇぞコラなのか……!


「あらあら! って事はハルちゃんやっと再婚する気になったのね!?」

「おい菫。まだどうかわからないんだ。余計な事を言って二人が気まずくなったりしたら……!」

「あ、ご、ごめんなさい! おばさんの悪いクセねぇ」

『もう、お母さんったら……』

「……」


 ……何を怯えていたんだろう。

 子どもの頃から近所で親戚のように付き合ってきた建郷さんと菫さん。

 その関係は蓮梨と結婚してからも、蓮梨をうしなってからも変わらない。

 だからきちんと報告しよう。


「いえ、おっしゃる通りです。私は歌多さんと結婚するつもりでいます」

「ほう! そうか! いやー、良かった!」

「もうあなたったら! 私合ってたじゃないの! ハルちゃん良かったわねー! こんな美人さんと結婚だなんて!」


 手放しで喜んでくれている建郷さんと菫さん。

 蓮梨がああいう性格になるのがわかる気がする。


「それにしても歌多さん! 陽善君は手強かっただろう! 三回忌の時も、私の妻は蓮梨だけですから、なんて言ってて、どうしようかと思ってたんだよ!」

「えぇ、まぁ……」

「気持ちは嬉しかったけど、羽枝田はねえださんにも悪いなと思ってて……。あ! ご両親にはもう挨拶を!?」

「はい、今行ってきた帰りです」

「それはタイミングが良かった! 蓮梨の巡り合わせかな? はっはっは」

「きっと蓮梨も喜んでいるわ!」

『うん。ありがとう。お父さん、お母さん……』


 二人に不自然に思われないよう、ちらりと蓮梨を見る。

 蓮梨は、少し困ったような、それでいて嬉しいような、はにかんだ顔で建郷さん達を見ている。


「ちなみに二人はどうやって出会ったの?」

「え」

「あ、それ僕も聞きたいな。お父さんお母さんが、会社の人が合コンを設定しても断ったって言ってたから。あれかな? ネットとか?」


 どうしよう。

 蓮梨を見ると、大きくバツを作っている。

 まぁそうだよな。

 うちの両親に話したように、ドライブしていたら夜一人で具合が悪そうな歌多さんを見つけて保護したっていう事に……。


「私、蓮梨さんに助けてもらったんです」

『歌多さん!?』

「え、蓮梨に……?」

「歌多さん、どういう事!?」


 蓮梨の名前に、動揺した様子を見せる二人。

 これは歌多さんを止めて、フォローした方が……。


「っ」


 止めようと口を開いた時、歌多さんとふっと目が合った。

 信じてほしい、そう言っているようだった。


「……私は、家族を失い、仕事を失い、生きる目的も見失って死のうとしていました」

「え、う、歌多さん……?」

「陽善君、彼女は一体……?」

「聞いて、もらえますか」

『陽善さん!』


 うろたえる二人にも、泣きそうな声を上げる蓮梨にも動じた様子はなく、歌多さんは落ち着いた様子で続ける。


「そんな私に、お盆で陽善さんの元に戻ってきていた蓮梨さんが声をかけてくれました。身体を貸してほしいと。死ぬ気でいた私は、すぐに了承しました」

「蓮梨が、帰ってきている……?」

「そ、それで蓮梨は今、どこに!?」

『……』


 辛そうな顔をして目を逸らす蓮梨。

 だが歌多さんはしっかりと二人を見据えていた。


「蓮梨さんは、私の身体を使って陽善さんの元に戻る事もできました。でも私の境遇を聞いて、私の幸せも考えて、陽善さんと結婚できるよう、色々と取り計らってくれました」

「蓮梨がそんな事を……」

「いつもそうだったわね……。自分の事より他人の事ばかりで……」

『お父さん、お母さん……』


 不意に建郷さんが顔を上げた。


「蓮梨、ここにいるのか」

『!?』

「お前の事だ。私達の前に姿を現したら、私達が悲しんだり、未練を感じたりするんじゃないかと心配しているんだろう?」

「……蓮梨。確かにあなたが幽霊になっているのは悲しいし、顔を見たら想いがこみ上げるかもしれない。でも私達は親だから。大丈夫、子どもがどんな姿になったって、変わらず愛しているし、見たからって立ち上がれなくなるほどヤワでもないわ」


 二人の言葉が、じんと響いた。

 きっと、蓮梨にも。


『お父さん……! お母さん……!』

「蓮梨……!」

「蓮梨ぁ!」


 蓮梨の姿が見えた二人の目から、涙があふれる。

 蓮梨の目からも涙があふれる。

 勿論、私も、歌多さんも。

読了ありがとうございました。


たとえ辛い想いを思い出すとしても、取り戻せない事を突きつけられるのだとしても、故人との再会を願ってしまいますね。

だからきっとお盆という風習があるのでしょう。


陽善の両親にも、蓮梨の両親にもこれで報告は無事に済みました。

次話もどうぞお楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ