第三話 初めてのショッピングモール
さぁお買い物、という話にする予定だったのですが、つい脱線してしまうのが僕の悪い癖……。
洋服選びは次回。
まずはショッピングモールに不慣れな御一行のわちゃわちゃをお楽しみください。
「着いたぞ」
『ここがショッピングモール……!』
「私、初めて来ました……」
何やら感動している二人。
そうか、蓮梨は遠出できなかったし、長根さんは借金の返済のために働き詰めで、買い物どころじゃなかったんだろう。
「今日は好きなものを買ってくれ。カードで払うから金額は気にしなくていい」
「え、そ、そんな、申し訳ないです……」
『陽善さんがいいって言ってるから大丈夫! 思いっきりオシャレしよっ!』
「は、はい!」
はしゃぐ蓮梨を見ると心が和む。
幽霊になってからの方が生き生きしているというのは皮肉とも思えるが、気にするまい。
さて、どの店から回るか相談を……。
「……おいおい……」
まさかものの数分ではぐれるとは……。
『やー、ごめんごめん。ついテンションが上がっちゃって』
「すみません! 私も初めてで、それにこんなに人が多いとは思わなくて……」
「いや、無事合流できたから良かった」
『私が歌多さんの上で指差すの、わかりやすかったでしょ?』
「ゲームのチュートリアルみたいだったな」
『ここまで行ってみよう!的な?』
「ぶふっ」
意外と笑い上戸な長根さんに、まずは連絡手段を確保しよう。
就職活動をするにも携帯は必須だろう。
『陽善さん』
「何だ蓮梨」
『はぐれないように、歌多さんと手繋いでよ』
「……お前なぁ……」
蓮梨は隙あらば私と長根さんをくっつけようとしてくる。
結婚は蓮梨との一回で十分だというのに……。
「これから携帯を買うから、そうしたら離れても連絡ができるし問題ないだろう?」
『でもはぐれたら、さっきみたいに私は歌多さんと一緒にいるから、側にいれないよ? せっかくの外デート、三人で回りたいなぁ……』
……そう言えば私が断れないと思っているな、蓮梨め。
事実だけど。
「長根さん。とりあえず携帯を買いましょう」
「あ、はい! ありがとうございます!」
「すぐそこですが、はぐれるといけないので」
長根さんは私の顔と差し出した手とを何度も見比べ、
「……はい」
そっと握ってきた。
『さっすがハルちゃ、陽善さん! じゃあご褒美に両手に花だー!』
そう言うと蓮梨が反対の手を握ってきた。
感触はない。でも心は暖かくなる。
しかし。
「蓮梨。私と長根さんの間に来てくれ」
『何それー! 何か感じ悪いよそれー!』
「いや、お前がさっきからバンバン人にぶつかられてるから、あまり広がらないで歩いた方がいいと思ってな」
『え? あ、すり抜けるから気付かなかったー』
すり抜けるとはいえ、蓮梨が他人に無遠慮に通過されるのは何となく気に入らない。
蓮梨は素直に私と長根さんの肩を持つ位置に移動した。
『携帯、可愛いの買おうねー』
「あ、あの、一番安いもので……」
「安物買いの銭失いという言葉もある。必要な機能を見定めて選ぼう」
『デザインだよー』
「お、お値段で……」
「機能だ」
三者三様。これは簡単にまとまりそうにない。
だけどこんな時間が楽しく思える。
蓮梨を失ってから煩わしく思えていた人混みの喧騒も、今は少し心地よく感じていた。
読了ありがとうございます。
妻の立場を利用して夫と嫁の関係を深めようとする……。
何もおかしいところはないな(錯乱)。
次はいよいよ服選び。
ラブコメのにおいがプンプンするぜーッ!