第二十二話 つながる思い、伝わる想い
今回蓮梨の出番はありません。
そのためツッコミ不在で甘々に歯止めがかかりません。
お気をつけて、どうぞお楽しみください。
「……大丈夫?」
「……はい。すみません、急に泣いたりして」
「全然平気」
……人通りの多い街中で、泣いてる女と抱きしめる男。
散々好奇の目にはさらされたけど、大丈夫。
大丈夫だけど早く帰りたい。
「帰ろうか」
「……はい」
何となく手を出すと、歌多さんは自然とつないでくれた。
……しまった。
水族館では他にもカップルが多かったから、自分をごまかせていたけど、街中でこれはなかなかに恥ずかしい。
早く帰りたい。
「……タクシーで帰ろうか」
「え!? そ、そんな贅沢……! も、もしかして、私が寄りかかっていたから足を痛めたりしましたか!?」
「あ、いや、歌多さんが疲れてなければいいんだ、うん」
ですよねー。
駄目元で言ってみたけど、予想以上の反応。
これは、この、手を繋いだまま、駅に向かい、電車に乗り、また駅から家まで歩いて帰るという事……!
……割り切ろう。
歌多さんが離れていかないために必要な行為だと!
「……あの」
「な、何?」
「緊張、してます? その、手が……」
あ、思わず力を込めていた!
「ご、ごめん、痛かった?」
「いえ……。でも、大丈夫です。私、いなくなったりしませんから」
「ん……」
若い時から苦労をしてきたからだろうか。
歌多さんの洞察力はすごい。
……私が感情を出しすぎなのかもしれないけど。
「は、陽善さんと、蓮梨さんのいるあの家が、私の帰りたい場所です……」
「そう言ってもらえると嬉しいな」
だが歌多さんは、自分の望みが誰かの迷惑になると考えたら、きっとそれを捨ててしまう。
自分じゃない何かを優先する、面倒なところで蓮梨と似てる。
だから惹かれるのかもしれないけど。
……蓮梨がそこまで考えて歌多さんを連れて来たなら、我が嫁ながらちょっと怖い。
「な、何だか不思議、ですね」
「? 何が?」
「昨日まで、いえ、さっきまでは、陽善さんと手をつなぐと、どきどきしてたのに、今は、何だかすごく安心します……」
「……そ、そう……」
「ありがとう、ございます……」
「……どう、いたしまして……」
その割には顔真っ赤だけど。
気を遣わせてるなぁ……。
「と、とにかく帰ろう」
「あ、途中でご飯の材料、買わせてください!」
うあ! それもあったんだった!
地元で、しかもよく行くスーパーで手つなぎ……!
割り切れ、るかなぁ……。
「つ、着いた……」
「す、すみません! 重たいの持ってもらって……」
無事家に帰り着き、どさりと荷物を下ろす。
重かった……。
歌多さんにしては珍しく、あれも買いたいこれもほしいと随分買い込んだからなぁ。
どれも安かったり見切り品だったりしたのは、やっぱり歌多さんらしいけど。
「何だか色々買ったけど、何か作りたいものとかあるの?」
「いえ、その……」
何だかもじもじしている。
「これだけ買えば、明日も明後日も、ご飯作れますから……」
「う……」
そうか。
これが歌多さんなりのメッセージなんだ。
明日も明後日も、ここにいてご飯を作り続けてくれる。
いなくならないよ、のメッセージ。
私の不安を感じ取って、言葉では伝え切れない思いをこうして伝えてくれたのか。
「……ありがとう」
「どういたしまして」
あぁそうだ。もう一つ。
「……お帰り、歌多さん」
「……ただいま、陽善さん」
読了ありがとうございます。
いつの間にか、歌多がラブ、蓮梨がコメ担当になってました。
失って初めて気づく事……。
蓮梨ー! 早く来てくれー!
次話からは復帰します。
よろしくお願いいたします。




