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第十九話 デートの朝

昨日は仕事疲れで、「眠気には勝てなかったよ……」と布団に沈み、更新できなくて申し訳ありませんでした。


今日はタイトル通り、デートの朝の落ち着かない感じを楽しんでもらえたらと思います。

「……ん」


 目を開けると、部屋はすでに明るくなっていた。

 しかし時計を見ると七時前。

 ……早く起きすぎた。

 そうだ、朝食の準備をしておこうか。

 そうすればスムーズに水族館に出発できるだろう。


『あ、おはよう陽善はるよしさん』

「あぁ蓮梨はすな、おはよう。歌多うたさんはまだ寝てるか?」

『ううん。今張り切ってご飯作ってるよ』

「え?」


 台所に行くと、歌多さんがてきぱきと料理を進めていた。

 今始めた様子ではない。

 という事は、いったい何時に起きたのか……。


「おはよう歌多さん」

「あ、おはようございます、陽善さん」


 私が声をかけると、歌多さんは手を止めて振り返る。

 笑顔だ。良かった。

 昨日はかなり強引なやり方をしてしまったから、怖がられてたらどうしようかと思った。


「早いね。何時から準備してたの?」

「えっと、今さっきです」

『五時くらいからやってたよー。今日のお弁当も作ってくれてるー』

「蓮梨さーん!?」


 蓮梨の言葉に叫び、両手をわちゃわちゃと振り回す歌多さん。

 朝食に加えてお弁当まで作ってくれて、本当にありがたい。

 何を隠す事があるんだろう。


『隠す事ないじゃーん。楽しみすぎて早起きしちゃったからお弁当作るなんて、二重の意味で陽善さん喜ぶよ』

「わー! わー!」


 ……そんなに楽しみにしてくれているのか。

 無理矢理誘う形にしてしまった事による不安が、溶けるように消えていく。


「ありがとう。実は私も楽しみで目が覚めてしまったんだ」

「本当、ですか?」

「あぁ。支度ができたらすぐにでも出発しよう」

「はい!」

『んー! 正にデートって感じ! 服も気合入れようね!』

「はい!」

「何か手伝える事はあるか?」

「あ、じゃあテーブル拭いて、これ並べてもらっていいですか?」


 見ればもやしと夏野菜炒めの皿が三つ。

 歌多さんが当たり前のように蓮梨の分も用意してくれているのが嬉しい。


「後はお弁当詰めるだけですから、ご飯とお味噌汁もお願いします」

「わかった」


 温かな気持ちで、私は食卓の準備に取りかかった。




「今日も暑いですね」

「そうだな」


 支度を整えて駅に向かう道中、ちらりちらりと歌多さんの方に目をやってしまう。

 今日は茶色とベージュのワンピース。

 各所にフリルが施され、お腹の辺りに大きなリボンがあしらってある。

 ……買ったが一度も袖を通せなかった蓮梨の服だ。


『んふふー。見てますねー。そんなに歌多さんの事、気になっちゃうー?』

「……」


 蓮梨のからかいに、何と返していいかわからない。

 蓮梨に着せてやる事のできなかった無念。

 歌多さんが着てくれた事で起きる少し救われた気分。

 そして昨日までの凛とした姿とのギャップ。

 何を口に出せばいいのか……。


「う、歌多さん、帽子か日傘を買おうか? 直射日光キツイだろう」

「ありがとうございます。でも大丈夫です! もっと暑い倉庫で六時間在庫確認とかした事ありますから!」

『その会社、クビになって良かったんじゃない?』

「あはは……、今考えるとそうかもしれませんね……」


 駄目だ。服装のせいも相まってか、庇護欲が駆り立てられる。

 今までの辛さの分優しくしてあげたい。

 とりあえず荷物から、折り畳み傘を取り出して開く。


「陽善さん?」

「……とりあえずこれで……」

「……! あ、ありがとう、ございます……」


 戸惑いながらも、受け取ってくれる歌多さん。


「あ、涼しい……」

「直射日光が遮られるだけでも、随分違うからね」


 歌多さんの格好になら、白いレースの入ったような日傘が似合うのだろう。

 私が渡した黒い無骨な折り畳み傘は、何ともちぐはぐに見える。


「どこかでちゃんとしたのを買うから、それまでは」

「いえ、私、これがいいです。これが……」


 そう言って柄をきゅっと握るその手に、まるで胸の奥を掴まれたような痛みが走る。

 これは……。


『やっさしー! いっその事二人で入ったら?』

「日傘に二人で入ったら暑いだろう。私は日差しに強いし、大丈夫だ」


 蓮梨のからかいを今度はいなし、駅への道を進む。

 日差しのせいか、やたら顔が熱い気がした。

読了ありがとうございます。


陰膳の風習は、個人的にとても好きです。

元は旅や遠出をしている人の安全を願うものだったそうですが、転じて天国へ無事辿り着けるようにと、故人にも供えるようになったとか。

今ここにいない人を思って膳を用意する心遣い、何とも言えず好きです。


まぁ蓮梨はそこにいるんですが。


次話はいよいよ水族館! お楽しみに!

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