第十八話 それぞれの想い
いよいよ夕食!
丹精込めて作ったハンバーグ!
実食!
どうぞお楽しみください。
「お、美味しいです!」
「それは良かった」
ハンバーグを頬張った長根さんは、目を見開いて頬を押さえた。
「この大根おろしとポン酢が、さっぱりしていてすごく合いますね!」
「夏にはこれが一番だと思ってね」
「あと、ハンバーグの油で炒めたほうれん草! これもすごく美味しいです!」
「せっかくの肉の脂、もったいないからな」
にこにこ笑いながらハンバーグを食べる長根さん。
人と食事を作り、一緒に食べる、それがこんなに楽しい事だったなんて。
「ごちそうさまでした!」
「ごちそうさま」
「あ、洗い物は私やります」
「うん、お願いする」
さて、私はお茶でも用意しようかな。
『陽善さん』
「どうした蓮梨」
声に振り向くと、蓮梨は珍しく真剣な顔をしていた。
『歌多さんの態度、ちょっと変だと思わない?』
「は? どういう事だ?」
思わず台所に目を向ける。
食器を洗う姿におかしな様子は見られないが……。
『お昼の時はちょっと手が触れただけでも恥ずかしがってたのに、ハンバーグ作る辺りから全然普通になったでしょ?』
「……確かに」
『多分敬語がきっかけだと思う。歌多さん、勘がいいからなぁ。ごまかしきれなかったんだよ』
「う……」
うまくいったと思ってたのに、駄目だったか!
恥を押し殺して頑張ったのに!
『ここは陽善さんから、距離を詰めないと』
「距離を、詰める? どうやって?」
『男女の仲を深めると言ったら、デートでしょ!』
「デート?」
『そう! デート! お買い物で二人で出かける事への抵抗はないと思うから、ここで一つ特別なお出かけをするのよ!』
「うーん……」
そう言われても、私にはデートらしいデートの経験がない。
蓮梨も同じはずだ。
どうしたらいいのかわからないぞ。
『夏のデートと言えばプールだけど、今の歌多さんだと陽善さんの前で水着になるのには抵抗あるだろうしなぁ。お風呂の時に背中流してもらっておけば良かったのに』
「無茶を言うな無茶を」
『なら次善策としては水族館かな。暑い季節には屋内型の施設が涼しくていいし、ちょっと暗くて雰囲気もいいし!』
「水族館か……」
確か沿線の水族館が、テレビでCMをやっていたな。
あそこならそう遠くもないし、見た感じ綺麗だった。
蓮梨も長根さんも楽しんでもらえそうだな。
『多分歌多さん遠慮すると思うけど、負けないで頑張ってね!』
「勿論だ」
『甘く情熱的にね!』
「いや、それはわからん」
お、洗い物が終わりそうだ。
お茶を用意して、と。
「お疲れ様、お茶淹れたよ」
「ありがとうございます!」
「こちらこそ、洗い物やってくれて助かってる」
「……いえ、私にはこれくらいしかお役に立てませんから……」
うーん、蓮梨の言う通り、距離を感じる。
何とか水族館に誘って、距離を戻さないと……!
……何て誘えばいいんだ……?
「……歌多さん」
「は、はい!」
こ、ここは真っ直ぐそのままに!
「明日、私と水族館に行かないか?」
「……え……?」
目を見開く長根さん。
頬が赤くなって、顔が笑顔になって……。
……頬を押さえてうつむいてしまった……。
「……わ、私なんかと行くより、蓮梨さんと二人で、行った方が……」
……そうか。
このよそよそしさは、私の敬語だけが原因じゃなかったんだ。
蓮梨に遠慮して……。
自分の気持ちを押し殺して……。
歌多さんはずっとそうしてきたのかと思うと、胸が苦しく、そして熱くなる……!
「歌多さん!」
「ひゃっ!?」
「私はあなたと行きたいんです! お願いします! 一緒に行ってください!」
「あの、その、て……!」
「行きたくないのを無理に行かせたくはないです! でももし蓮梨に気を遣ってるならそんな必要はないです!」
「て、あ、あう……」
「私の伝え方が悪くて色々と気を遣わせてしまっていますが、歌多さんと仲良くなりたい、それは私の偽らざる本心です!」
「っ!」
「ですからどうか……、本心で行きたいか行きたくないか、教えてください!」
拝むように合わせた手に力を込める。
「……い、行きたい、です」
「!」
「……陽善さんと、水族館……、夢みたいです……!」
「あ、ありがとう! 本当にありがとう!」
「……あの、行きますから、その、この、手は一度、放してもらえますか……?」
手?
あ! 思わず歌多さんの手を握りしめていた!
慌てて放すと、手のひらが熱い!
身体中の血が集まってるみたいにドクドクしている!
「す、すみません! つい……!」
「い、いえ、その、嫌ではなくて、ちょっと、恥ずかしいだけで……」
『ふふー! やったー! デートの約束大成功! 情熱的なお誘い、陽善さんやるぅー!』
「……!」
「……」
『明日が楽しみだねー!』
「と、とりあえず、細かい事は、明日の朝食の後で……」
「は、はい、わかりました。……じゃ、じゃあ、あの、お風呂、入って、寝ますね……」
「あ、あぁ、うん……」
パタパタと部屋に戻る歌多さんを見送って、私も部屋に戻る。
『んふふー。陽善さん、顔真っ赤!』
「……よせ……」
蓮梨のからかいにもうまく返せない。
……今夜、ちゃんと眠れるだろうか。
手の熱はまだ引きそうにない……。
読了ありがとうございます!
デートのアイディアは、四月咲 香月様にいただいた別作品へのFAから頂戴しました!
ありがとうございます!
お陰で陽善もちょっと男を見せました!
次話もよろしくお願いいたします。




