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第十七話 はじめての共同作業

夜の投稿が続いております。

ちょっと飯テロもどきですが、お楽しみいただけたら嬉しいです。

 ……よし、日音ひおと門音かどねの小説を読んで、少し気持ちが落ち着いてきた。

 あまりに気持ちが沈むから、蓮梨はすなが本格的に具合悪くなってからは目につかないようしまっていたけど、捨てなくて良かった。


「さて、と……」


 蓮梨が何か仕掛けてくるかと思ったけど、何もなかったな。

 長根ながねさんと話でもしてるのだろうか。

 部屋を出てリビングに向かう。


『おっかえりー』

「あ、陽善はるよしさん……!」


 私に気付いて蓮梨が手を振り、長根さんが遠慮がちに私の名前を呼ぶ。

 顔を合わせると何とも気まずいが、ここで変な空気を出すと長根さんが居づらくなってしまうだろう。

 平常心平常心。

 料理の話で空気を変えよう。


「夕食、ハンバーグを作ろうと思うんですけど、手伝ってもらえますか?」

「あ……、は、はい……」

『陽善さん、敬語』

「あ……」


 蓮梨に言われて、口調が戻っている事に気が付いた。

 思った以上に緊張してるのか私は!?


『おやおや〜? 随分と動揺してるね陽善さ〜ん? 歌多うたさんの事、意識しちゃってるのかな〜?』

「ち、違」

『そういう事にしとかないと、無理してたのバレちゃうよ?』


 蓮梨のささやきに、否定の言葉が止まる。

 悔しいが蓮梨の言う通りだ。

 私が意識して敬語を崩していたと知れば、内心距離を取っていた事と、無理を強いていた事に、長根さんが今以上に気を遣うのは目に見えている。

 ……意識してる事に、するしかないのか……。


「……よせ蓮梨。そんな事言われても、歌多さんが困るだろう」

「こ、困るだなんてそんな……! 私は、その……」


 目を逸らして言った私の言葉に、赤くなってうつむく長根さん。

 よし。これで敬語の件は、意識したが故の言い間違いという事で収まるだろう。

 ……よしじゃないが、よし。


「じゃあ改めて、ハンバーグの仕込み、手伝ってもらえるか?」

「は、はい!」

『……! ……!』


 蓮梨がくしゃくしゃの笑顔で親指を立てているのをから目を逸らし、私は台所へと向かった。




「まずは玉ねぎをみじん切りにしよう」

「め、目に、しみます……!」

『女泣かせだねぇ……』


「軽く炒めて水分を飛ばすよ。こうしないとタネから水が出てまとまらなくなるんだ」

「いい匂い……」

『何で玉ねぎって、炒めるだけで美味しい匂いするんだろう』


「冷ましてる間にひき肉を出して、塩胡椒と合わせて練る。半分ずつにしたから、粘りが出るまで頑張って」

「わ、すごい、ねとねとしてきました……!」

『粘土みたーい! ハート作ろうハート!』


「粘りが出たら、卵と冷ました玉ねぎを加えて、さらに練る」

「あ、何かむにゅむにゅして気持ちいいです……」

『おー、まとまってきたねー』


「後は小判型にまとめて、手に打ちつけるようにして空気を抜く。これでタネは完成だ」

「夕食が楽しみです!」

『お疲れ様ー!』


 タネをバットに並べ、ラップをかけて冷蔵庫に入れる。

 よし、後は夕食の時間になったら焼くだけだ。


「ありがとうございます!」


 長根さんがお茶を淹れてくれた。

 うーん、本当に気が利くなぁ。


「こちらこそありがとう。私が手料理を振る舞いたい、なんて言いながら、結局手伝ってもらってしまった」

「いえ! 嬉しかったです! 今まで料理は一人でするものでしたから……」

「……っ」


 そう言えば私もそうだ。

 蓮梨が元気な時には一緒に作ったけど、具合が悪くなってからは私が作って食べさせるだけだった。

 それに不満があった訳じゃない。

 だけど二人の料理の思い出は、辛くなるからと無意識に避けていた気がする。

 日音門音の小説と同じだ。

 今はもう、辛くない。


『あれ? 陽善さん、何か吹っ切れた?』

「……さぁな」


 顔を覗き込んでくる蓮梨をかわしながら、私は茶をすすった。

読了ありがとうございます。


作中の『日音門音ひおとかどね』は、暗闇の漢字をバラしただけの架空の作家です。

一応調べましたが、もし同名の作家様がいらっしゃいましたらすぐ変更しますので、お知らせください。


あと読みに行きます。


それでは次話もよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] その昔、中学生の頃に学校行事で河原で芋煮会がありまして、生徒各自がそれぞれ材料を準備して行くことになり、私は豚肉スライスを切っていきました。 それが肉を切る初めての機会でした。 で、その…
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