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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

夏のホラー 短編

私をみつけて

作者: 空色

 私が小学生だった時、楓ちゃんというクラスメイトがいた。楓ちゃんは明るく活発な女の子でクラスでかくれんぼが一番上手かった。


「加代子ちゃんかくれんぼしよ!」

「いいよ!」


 快活な彼女は何時もそう言って私を誘ってくれた。

 私達の小学校の近くには小高い山があり、子供達の遊び場だった。その時の流行りはその山に行ってかくれんぼをする事だった。その日も楓ちゃんは結局最後まで見つからなかった。


「楓ちゃんもう出て来てー」

「かくれんぼは終わりだよー!」


 何時もなら呼ぶと何処からかひょっこり現れる楓ちゃんが何時まで経っても現れない。何処かで怪我をしたのではないか、何かあったのではないかと心配になった私達は泣きそうになりながら楓ちゃんを探した。それでも楓ちゃんは見つからなかった。

 その後、大人達を交えて大々的に捜索をしたが、楓ちゃんは見つからなかった。



 ✤✤✤



 ──それから数十年が過ぎた。

 私は大人になり、結婚をし、子供も産まれた。子供が当時の私くらいの年になった頃、私の父が倒れたという連絡が母から届いた。幸い父の病状は深刻なものではなく、暫く入院すれば大丈夫だという。時期も子供達の夏休みと重なっていた事から私は子供達を連れて慌ただしく実家に帰省した。


「──加代子? 加代子じゃない!」

「美和子?」


 実家に帰省し、病院と実家の往復という慌ただしい日々を過ごしていた時、小学生の頃クラスメイトだった美和子に偶然再会した。美和子は実家のあるこの田舎で結婚し、子供もいて、その子供は私の子供と同い年だ。久しぶりに会った美和子の顔は少しやつれているようだった。


「ねえ、加代子。楓ちゃんの事って覚えてる?」

「え? 覚えてるけど、どうしたの?」


 私が聞き返すと彼女は「ううん。何でもないの」と言ってそれ以上何も言わなかった。私は気になりつつも、私自身忙しかった事もあり、直ぐに忘れてしまっていた。


 ──とある夜、奇妙な夢を見た。



 ✤✤✤



「──もういいかい」


 私は無意識にそう言っていた。

 気付くと私は子供の姿で山の中にいる。子供の頃遊んだあの山だと直ぐに分かった。しかし、周りには誰の姿もなく、私は不安にかられた。

 ふと、自分がかくれんぼをしている事を思い出して、呼び掛けてみた。


「もういいかーい」

「まあだだよ」


 聞き慣れた声が帰ってきて私は安堵した。もう一度呼び掛ける。


「もういいかーい」

「もういいよー」


 私は声のした方に駆け出した。しかし、どんなに探しても誰も見つける事が出来なかった。途方に暮れている内に目が覚めた。



 ✤✤✤



 ──あれは()()()()だった。楓ちゃんの声だった。


 夢から覚めた私はそう確信した。私は急いで美和子に会いに行った。


「──そうなの……」


 美和子の顔色は先日会った頃より悪くなっていた。私の夢の話をすると、やはり美和子も同じ夢を見たという。


「やっぱり……」

「でもね、加代子。絶対に楓ちゃんを()()()()()()()よ」

「どうして?」


 私は眉を潜めた。楓ちゃんは見つけて欲しくて今もかくれんぼを続けているのかもしれない。ならば、探してあげるべきではないかと思ったのだ。そう伝えると、美和子は首を左右に振った。


「私の前に同じ夢を見た人がいるの。覚えてる? 加藤友樹君」

「ええ」


 私もその名前に覚えがあった。小学校の頃、何時も一緒にかくれんぼをしていたクラスメイトの一人だ。


「友樹君、亡くなったの」

「え……?」


 美和子の言葉に私は絶句した。寝耳に水だった。彼女によると葬儀は密かに行われたそうで、死因等は不明らしい。


「友樹君と亡くなる前に一度会ったの。その時に、楓ちゃんの夢の話を聞いてね。『見つけてあげなきゃ』って言ってたの。だから、もしかしたら……って」

「まさか! 偶然じゃないの?」


 つい、私は言葉を荒げてしまった。私はそんな筈は無いと思ったのだ。だって楓ちゃんは優しい子だったから。


「それからなの。楓ちゃんの夢を見るようになったのは」


 美和子の言葉に動揺を隠せないまま、その日はそのまま彼女と別れた。


 ──その夜また夢を見た。



 ✤✤✤



 私は子供の頃の姿で、また山の中に居た。周囲には勿論誰もいない。


「も……」


「もういいかい」と言おうとして、昼間の美和子の言葉が頭を過ぎり、そこで言葉を止めた。


「もういいよー」


 私は何も言っていないのに楓ちゃんの声が聞こえた。私は怖くなり、その場に蹲ってしまった。


「もういいよー」


 また、声が聞こえた。私は目をぎゅっと瞑り、耳を塞いだ。


「もういいよー」

「もういいよー」


 耳を塞いでいる筈なのに声が聞こえる。私は、そこでふと声の主が()()()()()()()()()()()()()事に気が付いた。男の子の声も聞こえてくる。


 ──もしかして、智樹君の声?


 私は恐ろしくて私は蹲り続けた。声は徐々に増え狂った様に続いた。


「もういいよもういいよもういいよもういいよもういいよもういいよもういいよもういいよもういいよもういいよもういいよもういいよ………」


 狂った様に繰り返す声がピタリと止んだ。私は恐る恐る目を開けた。そこにはやはり誰もいなかった。私が安堵してほっと息を吐いた時──。


「──ねえ、どうして探してくれないの?」


 私の耳の真後ろで声がした。私の全身が粟立った。


「もう止めて、楓ちゃん!!」


 私は思わず叫んでいた。



 ✤✤✤



 自分の声で私は目を覚ました。


「お母さん、どうしたの?」

「加代子、随分と魘されていたわよ?」


 目が覚めると母と娘の心配そうな顔があった。私は汗をびっしょりとかいたまま、暫く茫然としていた。


「大丈夫、なんでもないの……」


 私がどうにかそれだけ言うと母は「そう」と訝しそうに言った。


「ここの所、忙しかったから疲れてるんじゃない?」

「そうかも」


 ──疲れているだけ。


 母に心配をかけないというよりもそう自分に言い聞かせる様に私は言った。


 その後、父の病状は問題無く回復した。私は逃げる様に実家を後にした。実家を離れてから私はその夢を見ていない。美和子とは会っておらず、あれからどうなったのかも知らないままだ。

 ただ、今でもたまに楓ちゃんを思い出す。彼女は山の中でかくれんぼを続けているのだろうかと。

 そして、彼女を思い出す度、「私を見つけて」と願いながら、「もういいよ」と誰かを呼ぶ楓ちゃんの声が聞こえる気がするのだ。







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