その痛みが好きだった
君は、この世界を地獄だと言った。
救いたかった。
君にとって、僕の隣が楽園であればと思った。
君は何度も僕の手を振り払った。抱き締める僕を罵倒し、大声で泣いた。
よく、僕のことを試したね。「死んじゃったらどうする?」だとか、「浮気したらどうする?」だとか。
僕は「君が死ぬと悲しい」「浮気も許すよ。寂しい思いさせてごめん」と返す。それがお約束だった。
僕が耐えきれずに泣いた夜、君はどこかに消えた。
「もう耐えられない」「どうしていつもわがままばかり」……溜まったものが、濁流のように溢れ出した夜だった。
君はじっと僕を見下ろして、「ごめん」と言った。
どこにいるの?
一人で生きられるの?
他に、抱き締めてくれる人を見つけたの?
その人は手首を切った写真を送られても、一方的に罵倒されても、耐えてくれる?
僕がいなくても平気?
それとも、初めから僕じゃなくたって良かった?
独りになって気付く。
救われたかったのは、僕の方だった。