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キューピッドは振り返らない!  作者: 山下香織
第三章 愛の教団
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17・新たなる標的

「ねえママ、あとどれくらい愛の結晶集めたらいいの?」


 六畳一間のアパートの一室。

 エリスは畳に仰向けに寝転びながら、コンパクトミラー型のラブコン(LSCC)を天井に向けて開いている。

 女神アフロディーテと通信中だ。


「そうですねえ、とってもとっても頑張ってもらわないと、なかなか神界を救うまでには行かないですわ」

「え~、あたし頑張ってるよねえ? めっちゃ頑張ってると思うんだけどぉ……」


 仰向けのまま、両足を交互にバタバタと暴れさせるエリス。

 スカートは捲れ、いまだに下着をつけない下半身が丸見えになるが、この部屋にエリス以外、人は居ない。

 地球を滅ぼしかけ、今はエリスのペットと化したダークマタードラゴン――通称ドラちゃんは、部屋の片隅にあるダンボール箱の中で眠っているようだ。


「そうですわエリス、今現界専門家(スペシャリスト)たちに調査させているのですけど、もしかしたら効率の良い結晶の集め方が出来るかもしれませんよ」

「効率の良い集め方?」


 コンパクトに映るアフロディーテの横から、A四サイズの用紙を持った手が現れた。


「あ、たった今入った情報によりますと……」


 紙を受け取って一瞥すると、アフロディーテはニュースアナウンサーよろしく口を開く。


現界専門家(スペシャリスト)たちの調査の結果、ある山の奥深くに『愛の教団』という組織が存在する事が判明した模様です。この団体は一人の教祖に対して毎日愛を捧げる儀式をしているというのですが、実にその数――」


 報告書を読み上げるアフロディーテは、一旦間を置いた。


「その数?」

「ええ、実に四千人もの信者が毎日愛を捧げているようですわ、エリス」

「四千人も?」


 人間一人ひとりの愛の大きさは大小さまざまだ。

 だがたった一人の教祖を崇拝出来ると言う事は、その愛が偽りでない限り、巨大な愛の結晶になるかもしれない。

 そしてそれが四千人も居るのだとしたら、――四千人すべての愛が奪えるのだとしたら。


「これはとってもとってもチャンスですわ、エリス。この教団に接触して愛の結晶を集めてくるのですわ」

「わかったわ。ママ」


 通信を終えたコンパクトに、アフロディーテからのメールが届く。

 『愛の教団』の所在を示す地図だ。


「ここに行けばいいのね。よく分かんないからアテナに聞こう」




  ◇  ◇  ◇




「おまたせ~、エリスちゃん。来たよ~」


 エリスから連絡を受け、すぐにホテルのハイヤーで駆けつけたアテナは部屋の扉を開くと、そのまま土足で畳の上に上がる。

 

「やほー、いらっしゃ~い」


 迎えるエリスの足を見れば、やはり靴を履いたままだ。

 この二人にとっては、洋式も和式も関係ない。理解さえしていない。


「さっそくだけど、この地図の場所に行きたいんだけど分かる?」

「どれどれエリスちゃん。見せて見せて」


 コンパクトを開いてメールを見せる。

 同じ神界出身のアテナに、日本の地図が理解出来るのだろうか。


「うーん。この辺じゃない事だけは確かだね~。私もよく分からないから調べようか」


 言うや否や、モード・チェンジのワードを唱えるアテナ。


「チェンジ! モード・メティス!」


 キュイン! と甲高い音が弾けると、アテナの体を黄金の光が包み込む。

 

 収束した光がアテナの服を剥ぎ取って行くと、透明のベールが頭から包み込み、やがて全身を覆った。

 この瞬間、アテナは知恵の女神メティスの化身となり、その能力を授かる。

 シースルー・ベールのみの全身は、当然のように全裸だ。


 アテナはメティスの使用するアイテムでもある携帯端末(スマホ)を、掌に出現させる。


「今調べるね~、エリスちゃん」


 スマホの画面をいじりだすアテナ。


「ねえ、その作業って変身しないと駄目なの? 普通にスマホで検索じゃ駄目なの?」


 エリスらしくもない、まともな疑問をアテナにぶつける。

 一瞬、「え!?」という顔をするも、すぐに取り繕うアテナ。


「え、えっと。たぶん情報量とか色々違うと思うよ。だって、ほらメティスだし~」

「そっか。そうだよねー」


 適当に誤魔化すアテナだったが、正直自分でもよく分かっていなかった。

 この現実世界とは違う神界の事などは、メティスで調べないと分からないだろう。

 だが、ここ現界での調べものだったら、変身しなくてもよかったのでは? と、エリスの言葉で思い至ってしまったのだ。


「あ、分かったよー、エリスちゃん。えっとね、ここからだいぶ離れているみたいだよ」

「そっか~、どうやって移動しようか」


 いつもは移動手段が徒歩か電車なので、手っ取り早く動ける方法を模索する二人。


「やっぱりゼウス・モードで移動が早いかな~」

「そうだね~、そうしよう~」


 アテナの提案に否やはないエリス。 

 他に考えつく方法も無かった。


「じゃあ、いっくよ~。チェンジ! モード・ゼウス!」


 アテナの体に光が収束し、全身を眩く輝かせる。

 エリスがアテナの体に触れると、エリスもまたその光と同化を始めた。


 二人はその肉体を捨て、精神的存在へと昇華させた。

 生命としてのレベルを数段アップさせた二人は、今や宇宙の意識となり、地球を見下ろす精神体だ。


(じゃあ、ズームイン!)


 アテナがゼウスのスキルを使用した。

 目の前の地球がみるみるアップになり、やがて先ほど検索した場所へと景色が変わる。


(ここだね、エリスちゃん。えっと、どうやってここに降りればいいのかな)


 いまだにゼウスの能力を理解しきれていないアテナは、手探りでそのスキルを実行していた。


(ここに降りる、って意識したらいいんじゃない?)

(そうだね、エリスちゃん。じゃ、いっくよ~)


 精神体のアテナは自分の足に意識を集中して、「降りる」と念じた。

 すると下降する感覚が二人を包み込み、加速を始める。


(やったねアテナ、すぐに着きそうだよ)

(うんうん、エリスちゃん。成功だね~)


 あっという間に地表が見え始め、着地寸前でアテナはモードを解いた。


(チェンジ! モード・キャンセル!)


 着地の瞬間、実体化した二人。




 そして、割れる地球。


「「え!?」」


 宇宙から数秒で飛んできた二人の()()()に、どうやら地球が耐えられなかったようだ。


 神界の神の手|(足)によって、またもや地球が破壊されたのだった。

 


 

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