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キューピッドは振り返らない!  作者: 山下香織
第二章 天使と悪魔
15/17

15・EはいかにしてE軍団にCと共にM学園で戦いを挑んだか

 襲来した飛行物体は見渡す限りの空すべてを覆いつくし、地上に闇を作った。

 

「エリスとやらよ、妾の同胞が迎えに来たのじゃ。もはやこの星は終わりじゃ。観念するがよい」


 地球の終わりを告げて、カーミラは窓に手を掛け、飛び降りた。――ここは三階だ。

 べちゃっと校庭の固い地面に大の字に激突し、辺りに血を飛び散らせるがすぐに起き上がり、復活する不死の少女。

 そのまま校庭の中央へてくてくと歩んでゆくと両手を広げ、何やら唱えだした。


「VentolaーVentolaー……」


 大船団の中の一つの機体が校庭に下りてくる。百メートルはあろうかという巨大な円盤だ。


「なんか面白い事になってきたじゃん! アンタどうするのさ?」


 クローズがエリスに、興味津々で尋ねる。


「え? どうもしないよねー? アテナ。結晶持ってないだろうし」

「そうだねーエリスちゃん。でもこのまま大人しく帰るのかな? さっきカーミラさんがこの星は終わりだって言ってたよー」

「それって宣戦布告じゃね? やる気じゃね? ほらエリスも全裸んなって戦ってきたら?」


 クローズの瞳は期待にキラキラと輝く。


「なんであたしが戦うのよ! あなたがあそこに浮かんでる円盤を誘惑してくればいいでしょ!」

「円盤を誘惑って……」


 キトーも窓から身を乗り出して、空を眺めた。


「やべえ、お宝だ。お宝の匂いがする! どうにかして潜り込めねえかな」

「今下りて来てるやつに乗り込んだら?」

「確かに高度下げたやつが居るうちがチャンスだ!」


 キトーは制服を脱ぎ捨てると、その下には黒いウェットスーツのようなものを着ていた。


耐衝撃機構(S R M S)を備えた戦闘服は、五階程度の高さなら飛び降りても無傷で済ませるのだ! とうっ!」


 先程のカーミラと同じく、三階の窓から飛び降りたキトーは――

 先程のカーミラと同じように、大の字に地面に激突した。


「あれ? キトーのやつ動かないぞ」

「五階くらいの高さまでなら大丈夫なような事、言ってなかった?」

「エリスちゃん、あれじゃないかな? 服で覆われてない場所にダメージ負ってそうじゃない?」


 アテナの言う通り、高耐性のスーツを着た体は無事だったが何も着けない頭部はもろに衝撃を受け、そのまま気を失ったらしい。


「死んだ?」

「さすがランキング上位ね。地球と正乗位(・・)とか。既に()っちゃったかしら」

「いやいやキトーさん。いつも何もしてないですよねー」


 カーミラは円盤との交信を終えたのだろうか、広げた両手を下ろし唱える事を止めていた。

 だが円盤を見上げるその表情は、何故か戸惑っているように見える。


「あいつ何してるの?」

「あ、円盤が光りましたよー」

「細い光線が発射されてるね」

「あ、カーミラさんが燃えたー」

「攻撃されてんじゃん、あいつ! きゃはは!」


 カーミラは背中を燃え上がらせながら、校舎の中へと走って逃げだした。

 しばらくして教室へ戻って来たカーミラは、背中の火こそ消えていたものの全身真っ黒だ。


「なにやってんだ? お前」

「ひどいのじゃ! 妾が魔界で吸血姫化したせいで仲間と分かってくれなんだじゃ!」

「えー帰れないのですかー?」

「それどころか、攻撃してきたのじゃ! 妾はどうすればいいのじゃ!」


 その時、激しい衝撃音と共に教室が揺れる。

 一同が外を見れば校庭に大穴があいていた。円盤による攻撃が開始されたらしい。


「もしかして、お前のせいでこの星ピンチなんじゃないの?」

「わ、妾は悪くないのじゃ! 魔界から引っ張ってきた貴様らが悪いのじゃ!」

「どっちにしろ、このままじゃ地球は終わるんじゃない?」

「ゼウスいりますかー? まだいいですかー?」




  ◇  ◇  ◇




 アメリカはNY(ニューヨード)市にある某研究施設で、国分寺博士は自らの研究成果でもある、()の少年アントムを前に告げた。


「いいかアントムよ、よく聞くのだ。いま世界は未曽有の危機に陥っておる。空を見なさい――全世界を覆う謎の飛行物体が見えるだろう。それはついに日本で攻撃を開始したのだ。ここもいつ攻撃されるやも分からん。だがアントムよ。日本はワシとお前さんの故郷なのだ。そしてお前の兄が眠る地でもある。これを見捨てるという手はない。いいかアントム、お前はこれより日本に赴き、その危機を少しでも回避できるよう行動するのだ。わかったな?」

「ハイ、オトウサン、ボク、ニホンニイクヨ」


 人工声帯から機械的な音声を吐き出し、アントムは施設の屋上へと向かう。

 

「達者でな、アントム」

「ハイ、オトウサン、イッテキマス」


 アントムが少し膝を曲げて体勢を整えると、両足のブーツの底から煙がもうもうと吹き出し始めた。

 視線を空に向けた瞬間、アントムはその足のジェット噴射により空へと舞いあがる。

 推定百万馬力のその出力は、アントムの鉄の体を音速を超えて飛行させる。

 鉄の子アントムは、日本へと飛び立った。




  ◇  ◇  ◇




(ちょう)さん、本部から通信です」


 エジプトの砂漠で遺跡調査をしていた島村(しまむら)超はテントに設置された通信機へと向かう。


「はい、島村です」

「私だ、ギルモエ博士だ。そこにナンバーズは揃っているかね?」

「はい、九人揃っています」

「たった今、日本が異星人による攻撃を受けた。そこの空からも見えるだろう、その未確認飛行物体からだ」

「ついに動きがあったのですね」

「そこでお前たちナンバーズの出動だ。今から全員で日本へ向かいこの脅威に対処せよ」

「了解です、これよりナンバーズ九人は日本へ向かいます」

「うむ。健闘を祈る」


 島村はテントを出て仲間を集め、点呼する。


「みんな揃っているな? 本部からの指令でこれより日本へ向かう」


 言い終わると背後の砂漠の砂の下から、巨大な潜水艦がその姿を現した。《潜水艦・1001号》だ。

 全員が乗り込むと収納されていた主翼が展開され、『ジェット・モード』となる。

 ズズズと重低音を響かせながら、ゆっくりと宙に浮いた《潜水艦・1001号》の全長は九十八メートルにも及ぶ。


 島村超(ゼロゼロナイン)を含むナンバーズ――零零一(ゼロゼロワン)から零零九(ゼロゼロナイン)はギルモエ博士の手による改造手術を施された人造人間(サイボーグ)だ。

 彼らは世界の危機を救うべく、その身体に仕込まれた特殊能力を駆使し、日々戦っている。


「1001号、発進!」


 ここに九人の戦士たちは、()がために戦うべく日本へと飛び立った。




  ◇  ◇  ◇




「こいつ、動くぞ!?」


 偶然発見したMS(モビルシステム)に乗り込んだ安室 零(アムロレー)は、全高十八メートルの白い機体(例のアレ)を立ち上がらせた。

 超硬合金ルナ・チタニウムに覆われた機体は、四十三トンの重さを地面に食い込ませる。


 ピキィーン! と安室の脳内に閃光が走り、ニュータイプ(ちょっと感がいい)の安室は理解した。


「なんだって!? 日本が攻撃されてる!? シャアめ!」


 何を元に答えを導いたのか、安室はそれを宿敵(シャア)のせいとした。


 サムソニ・シム社製のフィールドモーターを唸らせ、白い機体(例のアレ)はビーム・ライフルを構えた。




 増えすぎた人口を抱えた地球を脱出し、宇宙空間に都市(コロニー)を建設した人類は、既に独立した国家を持っていた。

 安室はそのコロニーの住人である。

 

「見える……見えるよララア! ……そこだ!」


今、コロニーの玄関口となる(ゲート)に向かって桃色の閃光が放たれ、巨大な穴が穿(うが)たれた。


「安室! 行きまぁす!」


 半壊したゲートをくぐって宇宙空間へ飛び出した安室は、コロニーを振り返る。


「なんだ? おかしいぞ……何故コロニーの修復機能が働いていないんだ!?」


 通常なら外壁が破壊された場合、自動修復機能が働き、コロニー内の安全を確保する。

 それが機能していないのだ。


「しまった! ライフルの威力が大き過ぎたんだ!」


 あっという間に真空状態となったコロニーは、もはや巨大な棺桶と化した。


「ボクは……取り返しのつかない事を……してしまった」


 安室はその後、エネルギー切れをおこした白い機体(例のアレ)と共に、地球へ辿りつく事なく宇宙の藻屑となった。

 


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