15・EはいかにしてE軍団にCと共にM学園で戦いを挑んだか
襲来した飛行物体は見渡す限りの空すべてを覆いつくし、地上に闇を作った。
「エリスとやらよ、妾の同胞が迎えに来たのじゃ。もはやこの星は終わりじゃ。観念するがよい」
地球の終わりを告げて、カーミラは窓に手を掛け、飛び降りた。――ここは三階だ。
べちゃっと校庭の固い地面に大の字に激突し、辺りに血を飛び散らせるがすぐに起き上がり、復活する不死の少女。
そのまま校庭の中央へてくてくと歩んでゆくと両手を広げ、何やら唱えだした。
「VentolaーVentolaー……」
大船団の中の一つの機体が校庭に下りてくる。百メートルはあろうかという巨大な円盤だ。
「なんか面白い事になってきたじゃん! アンタどうするのさ?」
クローズがエリスに、興味津々で尋ねる。
「え? どうもしないよねー? アテナ。結晶持ってないだろうし」
「そうだねーエリスちゃん。でもこのまま大人しく帰るのかな? さっきカーミラさんがこの星は終わりだって言ってたよー」
「それって宣戦布告じゃね? やる気じゃね? ほらエリスも全裸んなって戦ってきたら?」
クローズの瞳は期待にキラキラと輝く。
「なんであたしが戦うのよ! あなたがあそこに浮かんでる円盤を誘惑してくればいいでしょ!」
「円盤を誘惑って……」
キトーも窓から身を乗り出して、空を眺めた。
「やべえ、お宝だ。お宝の匂いがする! どうにかして潜り込めねえかな」
「今下りて来てるやつに乗り込んだら?」
「確かに高度下げたやつが居るうちがチャンスだ!」
キトーは制服を脱ぎ捨てると、その下には黒いウェットスーツのようなものを着ていた。
「耐衝撃機構を備えた戦闘服は、五階程度の高さなら飛び降りても無傷で済ませるのだ! とうっ!」
先程のカーミラと同じく、三階の窓から飛び降りたキトーは――
先程のカーミラと同じように、大の字に地面に激突した。
「あれ? キトーのやつ動かないぞ」
「五階くらいの高さまでなら大丈夫なような事、言ってなかった?」
「エリスちゃん、あれじゃないかな? 服で覆われてない場所にダメージ負ってそうじゃない?」
アテナの言う通り、高耐性のスーツを着た体は無事だったが何も着けない頭部はもろに衝撃を受け、そのまま気を失ったらしい。
「死んだ?」
「さすがランキング上位ね。地球と正乗位とか。既に逝っちゃったかしら」
「いやいやキトーさん。いつも何もしてないですよねー」
カーミラは円盤との交信を終えたのだろうか、広げた両手を下ろし唱える事を止めていた。
だが円盤を見上げるその表情は、何故か戸惑っているように見える。
「あいつ何してるの?」
「あ、円盤が光りましたよー」
「細い光線が発射されてるね」
「あ、カーミラさんが燃えたー」
「攻撃されてんじゃん、あいつ! きゃはは!」
カーミラは背中を燃え上がらせながら、校舎の中へと走って逃げだした。
しばらくして教室へ戻って来たカーミラは、背中の火こそ消えていたものの全身真っ黒だ。
「なにやってんだ? お前」
「ひどいのじゃ! 妾が魔界で吸血姫化したせいで仲間と分かってくれなんだじゃ!」
「えー帰れないのですかー?」
「それどころか、攻撃してきたのじゃ! 妾はどうすればいいのじゃ!」
その時、激しい衝撃音と共に教室が揺れる。
一同が外を見れば校庭に大穴があいていた。円盤による攻撃が開始されたらしい。
「もしかして、お前のせいでこの星ピンチなんじゃないの?」
「わ、妾は悪くないのじゃ! 魔界から引っ張ってきた貴様らが悪いのじゃ!」
「どっちにしろ、このままじゃ地球は終わるんじゃない?」
「ゼウスいりますかー? まだいいですかー?」
◇ ◇ ◇
アメリカはNY市にある某研究施設で、国分寺博士は自らの研究成果でもある、鉄の少年アントムを前に告げた。
「いいかアントムよ、よく聞くのだ。いま世界は未曽有の危機に陥っておる。空を見なさい――全世界を覆う謎の飛行物体が見えるだろう。それはついに日本で攻撃を開始したのだ。ここもいつ攻撃されるやも分からん。だがアントムよ。日本はワシとお前さんの故郷なのだ。そしてお前の兄が眠る地でもある。これを見捨てるという手はない。いいかアントム、お前はこれより日本に赴き、その危機を少しでも回避できるよう行動するのだ。わかったな?」
「ハイ、オトウサン、ボク、ニホンニイクヨ」
人工声帯から機械的な音声を吐き出し、アントムは施設の屋上へと向かう。
「達者でな、アントム」
「ハイ、オトウサン、イッテキマス」
アントムが少し膝を曲げて体勢を整えると、両足のブーツの底から煙がもうもうと吹き出し始めた。
視線を空に向けた瞬間、アントムはその足のジェット噴射により空へと舞いあがる。
推定百万馬力のその出力は、アントムの鉄の体を音速を超えて飛行させる。
鉄の子アントムは、日本へと飛び立った。
◇ ◇ ◇
「超さん、本部から通信です」
エジプトの砂漠で遺跡調査をしていた島村超はテントに設置された通信機へと向かう。
「はい、島村です」
「私だ、ギルモエ博士だ。そこにナンバーズは揃っているかね?」
「はい、九人揃っています」
「たった今、日本が異星人による攻撃を受けた。そこの空からも見えるだろう、その未確認飛行物体からだ」
「ついに動きがあったのですね」
「そこでお前たちナンバーズの出動だ。今から全員で日本へ向かいこの脅威に対処せよ」
「了解です、これよりナンバーズ九人は日本へ向かいます」
「うむ。健闘を祈る」
島村はテントを出て仲間を集め、点呼する。
「みんな揃っているな? 本部からの指令でこれより日本へ向かう」
言い終わると背後の砂漠の砂の下から、巨大な潜水艦がその姿を現した。《潜水艦・1001号》だ。
全員が乗り込むと収納されていた主翼が展開され、『ジェット・モード』となる。
ズズズと重低音を響かせながら、ゆっくりと宙に浮いた《潜水艦・1001号》の全長は九十八メートルにも及ぶ。
島村超を含むナンバーズ――零零一から零零九はギルモエ博士の手による改造手術を施された人造人間だ。
彼らは世界の危機を救うべく、その身体に仕込まれた特殊能力を駆使し、日々戦っている。
「1001号、発進!」
ここに九人の戦士たちは、誰がために戦うべく日本へと飛び立った。
◇ ◇ ◇
「こいつ、動くぞ!?」
偶然発見したMSに乗り込んだ安室 零は、全高十八メートルの白い機体を立ち上がらせた。
超硬合金ルナ・チタニウムに覆われた機体は、四十三トンの重さを地面に食い込ませる。
ピキィーン! と安室の脳内に閃光が走り、ニュータイプの安室は理解した。
「なんだって!? 日本が攻撃されてる!? シャアめ!」
何を元に答えを導いたのか、安室はそれを宿敵のせいとした。
サムソニ・シム社製のフィールドモーターを唸らせ、白い機体はビーム・ライフルを構えた。
増えすぎた人口を抱えた地球を脱出し、宇宙空間に都市を建設した人類は、既に独立した国家を持っていた。
安室はそのコロニーの住人である。
「見える……見えるよララア! ……そこだ!」
今、コロニーの玄関口となる扉に向かって桃色の閃光が放たれ、巨大な穴が穿たれた。
「安室! 行きまぁす!」
半壊したゲートをくぐって宇宙空間へ飛び出した安室は、コロニーを振り返る。
「なんだ? おかしいぞ……何故コロニーの修復機能が働いていないんだ!?」
通常なら外壁が破壊された場合、自動修復機能が働き、コロニー内の安全を確保する。
それが機能していないのだ。
「しまった! ライフルの威力が大き過ぎたんだ!」
あっという間に真空状態となったコロニーは、もはや巨大な棺桶と化した。
「ボクは……取り返しのつかない事を……してしまった」
安室はその後、エネルギー切れをおこした白い機体と共に、地球へ辿りつく事なく宇宙の藻屑となった。




