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キューピッドは振り返らない!  作者: 山下香織
第二章 天使と悪魔
14/17

14・未知との遭遇

「ようしみんな! 転校生だぞ! 入って来なさい!」


 担任の仏田(ほとけだ)が教室の入り口の扉に向かって呼びかけると、小柄な制服姿の少女がしずしずと入ってくる。

 両手で鞄を前に持ち、俯き加減で前に少し垂れるウェーブのかかった長い金髪が、優雅に揺れていた。

 教壇の前に立ち、顔を上げるとその美貌が露わになり、薄く赤い唇が開いた。


九結(きゅうけつ)カーミラじゃ。なんじゃ若いのがたくさん()るの。遠慮なく妾に処女の血を差し出すがよい」


 (あーまたなんか痛いのが来た)

 (どう見ても小学生なんだが)

 (真正ロリきたーーーっ!)

 (もうロリコンでいいや)

 (㌔㍉コン)

 (ハアハア)


 途端に騒然となる教室だが、三人だけは冷ややかな視線を向けていた。


「学校の生徒にする必要あったの?」

  

 後ろの席のエリスに振り向き、カーミラを指差すクローズ。


「すべてママにまかせたから……まあいいんじゃないかしら。学校(ここ)なら食事にも困らないでしょ」

「だからって見た目十歳(ロ リ)を高校生にするか? 普通」


 仏田はクローズの隣に視線を向けると、カーミラに指示をする。


「じゃあ九結は三田の隣に座りなさい」


 クローズの隣の席が空いていた。――相変わらずエリスを取り巻く環境は良いように操作(・・)されているが、元からこの席に居た生徒はいったいどこへ消えたというのか。


「お前その制服……無理ないか?」


 クローズの、隣の席に来たカーミラを見た感想がそれだ。

 どう見ても小学生が、高校の制服を着ているように見える。――コスプレ状態だ。


「来てやったのじゃ。感謝するがよい。――ところで妾の朝食はまだかえ? 適当に選んでもいいのかの」

 

 吸血姫が朝食をご所望された時、教室の扉が勢いよく開かれた。


「こらあ! お前ら! 俺を見捨てただろう!?」


 亀頭大(きがしらだい)がエリスたちを睨んでいた。生きていたらしい。

 つかつかとエリスの前に来る彼の格好は、制服に着替えていた。


「誰?」


 エリスのその言葉に、愕然とするキトーは言い詰まる。


「お、おま、おま……」

「朝から卑猥な単語口にするなよ? キトー。いや、お前の名前が既に卑猥(エロ)だった! きゃはは!」


 ――クローズの絡みに顔をひきつらせるキトー。


「いやいやキトーさん。心配しましたよー」


 と、無表情のアテナ。


「お前も棒読みやめろ! 俺がどれだけ苦労して暗黒空間から抜けてきたかわからねえだろ!」

「てか生きてた事にびっくりだわ。アンタたいしたもんだよ、うん」

「俺だってなー、伊達に『|世界トレジャー・ハンター協会《I T H A》』の世界ランクキング上位の常連やってねえんだよ!」


 キトーが握りこぶしを作り力説した所で、カーミラが跳躍する。


「もうこいつでいいのじゃ。かぷ」

「アッ――」


 カーミラがキトーの背後からその首筋に牙を立て、朝食(・・)にありついた。


「ママに言われてると思うけど、眷属(・・)にしちゃダメよ?」


 くぴくぴと喉を鳴らし、口の端から血を滴らせるカーミラの瞳の赤は、光を増して輝く。


「おーい、お前ら。また先生困らす気かあ? 先生泣いちゃうぞー。いや、流血はまずいんじゃないかな?」


 キトーにおんぶする形でしがみ付き、首筋をちゅうちゅうさせていたカーミラだが、その抱き付いている身体(キトー)が干からび始めた。


「んぱっ」


 牙を抜き背中から飛び降りると、あはれ朝食の残飯と化したキトーは、顔面から床に倒れ込んだ。


「死んだんじゃないの?」

「大丈夫じゃ。この道二千年の妾に抜かりはないのじゃ」


 干し柿のようになったキトーはピクリともしない。


「おーい誰か保健室連れてけー。先生は何も見てないぞー、見てないからなー」


 終始無視される仏田は、もうエリスたちに係りたくないようだ。

 だがキトーは立ち上がった。――徐々に元の体を取り戻してゆく。


「おお……妾の分泌液(よだれ)を中和しおったのじゃ。こやつ、ニンゲンのくせにやりおる」


 ほぼ元通りになった体のキトーは、カーミラを睨んだ。


「てめー、俺が吸血対策を何もしてねえはずがねえだろ。『|世界トレジャー・ハンター協会《I T H A》』の世界ランクキング上位の常連の俺をなめるなよ」

「キトー、アンタさっきから上位上位って、いったいランキング何位なのさ」


 クローズの問いに、キトーは誇らしげに答える。


「俺のランクは――聞いて驚け―― 一万二千三百五十七位だ!」

「「「……」」」


 ――皆、突っ込んでいいのか迷っていた。


「それって凄いの?」

「あたりまえだ! なんてったって会員は五億人居るからな」

「「「……」」」


 世界人口のおよそ、十六分の一がトレジャー・ハンター会員らしい。

 自分の知らないうちに、会員にされている者も居そうな数値だ。

 それはもはや『宝探しごっこ』をしている子供たちも入っているに違いない。


「俺の凄さが分かって黙ってしまったか。――そうだ、お前たちが『悪魔公』を滅ぼしたおかげであの魔界は閉じたぞ。あの世界は同じ地球のどこかではあるんだが、『悪魔公』の支配により『魔界化』してしまっていた。この世界の何処にあったかは特定されていないが、今頃その地域は元通りになっていることだろう」


 『|世界トレジャー・ハンター協会《I T H A》』の世界ランクキング上位の彼はその手の情報に詳しかった。


 その時突然、教室が大きく揺れた。


「なんだ!?」

「地震だ!」


 騒然とする教室の中で、ほぼ窓際に固まっているエリスたちは外を見ていた。

 そこには――


 雲を割って現れた最初のそれを先頭に、次から次へと姿を見せる丸い塊たち。

 やがて空を埋め尽くしたその大群は動きを止め、停滞する。

 陽の光を反射させる表面は金属のようだ。


 ――未確認飛行物体(U F O)

 

「妾を迎えに来たか……なるほど、あの世界から出たせいじゃな」


 吸血姫カーミラが、ひとり呟いた。


 

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