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キューピッドは振り返らない!  作者: 山下香織
第二章 天使と悪魔
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12・エイリアン魔界学園・D(2)

 狭い穴の中をどれくらい進んだろうか。既に学校の外に出ていてもおかしくない距離をエリスたちは進んだはずだ。


「まだ出口見えないのー? エリスちゃん」

 

 四つんばいで前を行く、エリスの形の良いヒップを眺めながら、アテナが訊く。


「あ、この先になんか扉があるよ」


 エリスが扉を開くと、広大な空間が広がっていた。明らかに元居た学校の周辺ではなかった。


 ――目の前には城があった。――鬱蒼(うっそう)と茂る木々は森の形相を呈し、そこに忽然(こつぜん)と現れたかのような城の上空には暗雲が立ち込め、雷鳴が轟き、数多の(カラス)たちがグレーの空へと飛び立つ。


 エリスたちが出て来た場所は、切妻屋根を備えた小さな祠のような造りをしていた。観音開きの扉が左右に開ききっている。


「で、説明しなさいよ。キトー」


 最後尾からようようと這い出してきたキトーに、クローズは詰め寄る。


「さっきは無視したくせに。それにキトーじゃねえっつの・・・・・・」


 キトーは文句を言いつつも答える。


「……あの学校はある特異点の上に建っているんだよ。その特性は異世界に通じる空間がある事。俺が見つけただけで三か所違う空間に繋がる道があった。ここはそのひとつだ」


 鼻に詰めていた血の滲んだティッシュを捨てながら、顎をしゃくって城を指す。


「あの城は俺たちは『D城』と呼んでいる。……『ドラキュラ城』だ。中には不老不死の『悪魔公』が住んでいる。俺たちトレジャー・ハンターの狙いはその城にあるだろうと思われる『異世界の遺物(おたから)』だ」


「その口ぶりだと、まだ攻略出来てないって所かしらね」

「その通りだ。……中には無数のアンデッドモンスターと未知の生物が行く手を阻む。悪魔公はまだ一度しか見ていない。もっとも悪魔公を倒すのが目的ではないから、会いたいとも思わないがな」


「あたしたちはその悪魔公とやらがターゲットになるのかな? アテナ」

「そうだねー、エリスちゃん。不老不死の魔物さんに『愛』があるのかわからないけどねー」


 それを聞いたキトーは訝しげな表情だ。


「お前ら何もんだ? 怖くねえのか? 不老不死のバケモンだぞ、そんなもの相手にしてたら命がいくつあっても足りねえだろ」

「なんとかなるでしょ? ねえアテナ」


「そうだねーエリスちゃん。いざとなったらゼウス出すしー」

「アタシは魔物でも不老不死でも楽しめればいいから、さっさとあの城に行こうよ」


 そうだねと三人は緊張も何も感じさせずに歩き出した。


「まああの悪魔公を相手に出来るってのなら、俺も助かるけどな。その間にお宝ゲットだぜ」

「何言ってるのよキトー、アンタは道案内よ。さっさと前歩きなさい」

「まじかよ、俺は悪魔公となんか会いたくねえからな!」


 クローズの動きは速かった。キトーの言葉が言い終わるのと同時に彼の目の前に移動し、その唇を奪っていた。


「むむっ」


 途端に脱力したキトーは抗う事も出来ずに、クローズの口から滑り込む舌に、自分のそれを蹂躙されていた。


「んぱあ」 


 舌の先端を覗かせ細い糸を引きながら離れた唇は、まだ求めるかのように閉じられる事はない。

 キトーの頭を両手で挟み、顔がくっつきそうな距離で吐息を吹きかけながら、クローズは甘い言葉を紡ぐ。


「気持ち良かった? アタシの言う事聞けばもおっと気持ちよくなれるかもよ? いい子だから大人しくあの城を案内しなさい……わかった?」

「ふぁい……案内……しまふ」


 虚ろな目になり、サキュバスの虜にされたキトーは、もはや全肯定マシーンだ。クローズが何を言ってもそれに従うだろう。

 人間の男である限り、サキュバスの獲物になるしかないのだ。


「エグイわあ……サキュバス、エグイわあ」


 サキュバスの捕食の瞬間を見ていたエリスはドン引きだ。


「堕天したら真っ先に、サキュバスにジョブチェンジしそうなアンタに言われたくないわ!」


 


 その城は無数の墓碑に囲まれていた。――墓地だ。もはや城そのものが墓標と化している。

 城周辺の木々は腐ったようにしな垂れ、ねじくれて異形となり、葉の一葉(いちよう)も宿さずただ黒々と佇んでいた。


「なんか気味悪いねーエリスちゃん」

「そうねーいかにもボスキャラ居るぞ~って感じよね」


「ほらキトー、さっさと城に入んなさいよ。アンタが先頭だからね」

「ふぁい。クローズさま。えへへ」


 頭がクルッパーになったキトーを先頭に城に潜入した。


「そうだあ、クローズさまあ、最初に落とし穴があるから気を付け……」


 ――キトーが言いかけた途端、床が侵入者を飲み込まんと大きく口を開けて出迎えた。


「ふにゃああ!」


 先頭のキトーが真っ先に闇に飲まれ落下してゆく。他の三人は無事だ。

 キトーを飲み込んだ後、何事もなかったかのように床の巨大な口は閉じ、静寂が訪れる。


「さよなら……キトー。憎めないヤツだったよ。アンタ」

「いやいやキトーさん。死ぬの早すぎですってー」

「え? 今誰か落ちたの?」


 城の玄関とも言える最初のステージで、既にひとりが脱落した。

 案内役の居なくなったエリスたちは、果たしてこの先に進む事が出来るのだろうか。


「じゃ、行こうか」

「ですねー」

「あれ? もうひとり誰か居なかったっけ?」


 キトーは最初から居なかった事にされたようだ。



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