ファンタジーなな世界をさまよう女性
「素敵なお部屋ですこと」 「いや これは恥ずかしい これは息子の趣味でしてな。その息子夫婦も今は転勤
で北海道に行っておりますのじゃ 残されたわしら老夫婦にはちとハイカラ過ぎて気が引けますのじゃ」と
ニコニコしながら言った。「旦那様 お話は後にしてお部屋を出て下さいませ お嬢様の着替えができません」
「これはすまんことを 気が聞かなくてすまん。じゃあ下でお荼の用意でもしていよう」 「それがようございますわ、今日は暖かいとはいえ濡れていらしては冷えていらっしゃいますもの」言われて初めてチサは体中が
冷えきっているのに気付いた。「お嬢さんはコーヒーと紅茶どちらがお好きかな」 「私 どちらでも頂きます」 「では紅茶にしよう。ブランデーを落とすと身体が温まるからな」言いながら老人は部屋を出て行った。
「旦那様があんなにおしゃべりになるのは珍しいことですわ」きよという婆やは手早く着物を脱がせながら
言った。「いつもはそうじゃ無いのですか」 「ええ この広い家に奥様と私と旦那様の3人きりでそれは静かなものですよ。奥様ももの静かな方でしてね。2年前まではさっき言ってらした息子さんご夫婦がいらした
ものですから、とても賑やかだったのですが」 「今は北海道とか」 「ええ お仕事の都合らしゅうございますよ。結局 お二人共お寂しいんですね。今までよりずっと口数も少なくおなりで、時々話してられる事と
言ったら息子さんやお孫さんの事ばかりですよ」と言ってきよは小さくため息をついた。(この婆やさんも
寂しいんだな)チサはそう思った。 明日へ続く