フォンタジーな世界をさまよう女性
20世紀に生まれた女が怪しい機械にのみこまれ過去の世界へ送られる。
時は春3月 ある日の午後だった。今この閑静な住宅街を夢見心地で歩いている若い女性、名前は鈴木チサ
といい今日彼女は友人の結婚式に出席しての帰り道だった。(綺麗だったなぁ礼子 なんて幸せそうな顔を
してたのかしら 私も好きな人と結婚って時はあんなに美しく綺麗になれるのかなぁ)等ととりとめの無い
ことを考えながら、一人静かな舗道を歩いていた。つい10分ほど前まではもう一人の友達と一緒だったが
彼女とも別れて楽しく物思いにふけっている。ここからチサの家までは後2、30分歩かなければならない
振り袖を着ている事だし本来ならタクシーか電車で帰る所だが、ちょうどこちらの方角に帰る友達もいた事
だし早春とは言え今日はとても暖かで、心地良いそよ風に誘われ親友だった花嫁の思い出話などに花を
咲かせながら帰って来たのだった。この辺りを通るのは初めてだったが、広い庭の付いた大きな屋敷が
立ち並ぶ静かな街だった。どこかの家からなめらかな調子のピアノが風に乗って流れている。遠くの方では
小犬のじゃれつく声 チサは楽しげに歩いていた。今夜は嫁いでいる姉が久方振りに子供達を連れて里帰り
して来るはずだった。(あのおしゃまな里美ちゃんはいくつになったかなぁ もう3歳か それに1歳の
男の子 名前はえ~と海斗だっけ。姉さんも変わったなぁ 私子供なんて大っ嫌いなんて言ってたのが
今はもう凄い親バカ その上に今夜は婆バカ 爺バカが加わって賑やかだろうな)と その時突然シャーッ
激しい水音がして足元から水が噴きだして来た。「キヤーァ」叫んで飛びのいたがすでに遅く足袋はもちろん
華やかな振り袖 前裾の下部分がしたたか濡れてしまった。「あ~すみません。大丈夫ですか」と言う声と
共に横手の庭から顔を見せたのが70がらみの品の良さそうな老人だった。「あっ これはいけない ど
どうも大変なことをしてしまって」老人はチサの姿を見るなり慌てて玄関脇のくぐり戸から走り出して来た。
過去の世界 将軍家光の大奥へと来てしまったチサの奮闘を描く。