⑥
気を落ち着かせるために、俺は運転席のドリンクホルダーから、飲みかけのミネラルウォーターのボトルを出す。
キャップをひねって一口飲むも、動揺は収まりそうもない。
「佐々木君の何が問題なの?」
「いや、どこが気に入らないとかではなく、そもそも自分と同じ年の幼馴染が可愛い娘の夫になるっていうことが、生理的に無理っていうか……」
「そうね、確かに、年の差は少ない方がいいかもしれないわね。
颯太がそこまで気にするなら、予定より早めに生んであげた方がいいかもしれないわ。
今すぐ作り始めて、運命のアシストで先に女の子を授かることができたとして、来年に出産したら……
二人の年の差は、二十一歳で済むわ」
まゆらと初めて学食で話したとき、この子の突拍子もない発言に、俺は飲みかけの缶コーヒーを噴いた。
でも今回はそれ以上。
口に含んでいた水を、前回の二倍の飛距離で噴射した。
「作り始めるって――
意味わかって言ってるの!?」
「物理的にはなんとなく。
でも最低限の知識しかないかもしれない。
私、中高一貫の女子校だったんだけど、周りはさばけてるわりに、誰も私をその話題に入れてくれなくて。
保健体育の授業では、先生が『君たちには説明の必要はないので省きます』って言って、その部分を飛ばしたの。
行為に伴う妊娠と病気のリスクについてと、その対策については教わったけど」
生真面目な口調で説明するまゆらに、再び頭を抱える。
脳みそがオーバーヒート状態です。
KO寸前の俺に追い打ちをかけるように、まゆらが呟く。
「そういえば昔、ママに聞いたことがあったわ。
『子供はどうやって生まれて来るの?』って」
「す、すみれさんは、何て……?」
「そうね、確か――
『大きくなったら、《たちばな そうた》君に教えてもらいなさい』って」
……親子そろって、俺をどうする気ですか?
くしくも今日はクリスマス・イブ。
一体何組の恋人達が、今日の聖なる夜を思って胸を焦がしてるかな。
目の前には、まばたきもせずに俺を見つめる運命の恋人。
どこからともなく聞こえてくるクリスマス・ソングが、俺の欲望を後押しする。