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運命の恋人と恋に落ちないための俺と彼女の実証実験。  作者: 古矢永 塔子
宣誓です。『運命の恋人と恋に落ちないための実証実験』改め『運命の恋人と恋に落ちてからの永遠の証明』を始めます。末永く見守っていただけましたら幸いです。
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∞ ∞ ∞ ∞


「LA!? まじで!? 何で!?」


サブローの突拍子もない発言に、つい素っ頓狂な声を出してしまった。

ちなみに今は、披露宴が終わったばかりの親族控室。

姉貴と仁さん、うちの両親は、会場の出口でゲストのお見送りの真っ最中。


披露宴の間中ずっと、ゲストのお姉さま方の視線はサブローに釘付けだった。あのままあの場に留まっていれば、かつて天神橋通りのショットバーで繰り広げられたキャット・ファイトのゴングが再び鳴り兼ねなかった。


披露宴が終わりにさしかかり、最後の余興の演出で会場の照明が落ちた瞬間、俺は暗闇に乗じてサブローを外に連れ出したのだ。


サブローは俺のスーツを脱ぎ、ジーンズとライダーズジャケットに着替えている。

俺はというと、まゆらのお父さんのスーツのジャケットを脱ぎ、スラックスから片足だけを出した間抜けな状態だ。


「一カ月以上も音信不通で放浪してると思ったら、今度はLAって……

ワールドワイド過ぎるだろ!

それに学校は!? 後期試験、ほとんど全滅だろ?」


「辞める。つーかもう辞めた」


呆然として言葉も出ない俺を見て、サブローは眉を八の字にして笑った。


「北海道の網走あばしり辺りをうろついてたとき、どっかで見たような外国人のおっさんに声かけられたんだよな。

ハリウッドで映画撮ってる監督らしくて、

向こうで新作のオーディションやるから受けに来いって」


「いやいやいや! 明らかに怪しすぎるだろっ」


「まぁ多少はな。最初はしつこくて鬱陶しいと思ったけど、話してみると案外面白いおっさんでさ。あ、写真あったわ」


サブローが差し出すスマホには、不気味な色のソフトクリームを片手にビッグスマイルを決める無精髭の中年男が写っていた。


「マリモソフトクリームって…えげつな……


──いや、じゃなくて!!

え何コレ本物!? お前、この人が誰か知らねーの!?」


「知らん」


「昔、姉貴と三人で映画観に行っただろ! 黒スーツの男が相棒とタッグを組んで宇宙人の侵略から地球を守るやつ! その監督だよ!」


「知らねー。観てなかったし」


確かに。映画館でお前が観てたのは、スクリーンじゃなくて姉貴の横顔だったよな。


缶コーヒーからのハーレーダビットソンを上回る衝撃に、俺の手からスラックスが落ちた。



サブローはスマホをジーンズのポケットに突っ込むと、いつものように煙草に火を点けた。

相変わらず、ムカつくくらいに絵になる男だ。

着替えもままならないくらい動揺していたはずなのに、その姿を見て妙に納得した。


幼馴染の俺は慣れているが、こいつの殺人的なフェロモンをまともに浴びるのは、地球上の全メス(ときにオス)にとって、危険以外のなにものでもない。

スクリーン越しに拝むくらいがちょうどいいのかもしれない。



「オーディションって……お前、演技とかできるの?」


「さあ? でもポテンシャルあるかもな。

美咲の前では十七年間、無害な弟の仮面被ってきたわけだし。

ぶっちゃけ役者とか全然興味ねーけど、このタイミングでおっさんに会ったのも、なんかの縁かなって思ってさ。

ほらあれだ、『あてもない自分探し』ってやつ? ありがちだけどな」


「1ミリも共感できねー……。

『あてもない』って、滅茶苦茶『あて』あるじゃん!

監督の推薦って、超強力なコネだろ?」


「わかんねーけど、とりあえず受けて来るわ。

一番欲しいものは絶対に手に入らないってわかったし、無理矢理にでも他に生き甲斐見つけなきゃ、やってらんねーよ」


そう呟きながら、サブローは煙草を灰皿に落とした。

もう泣くまいと思ったのに涙腺がゆるみかけて、履き替えたスラックスのボタンを閉めるふりをして俯いた。


「颯太はやっと見つかったみたいだな」


「……まあな」


「照れるなよ気色悪い」


「実は今日もこれからデートなんだよな」


「空気読めコラ」


サブローはいつものように俺の横腹を蹴ると、シャツを掴んで強引に俺の顔をうわ向けた。


「泣くなよ」


「泣いてねーし」


「最後にもう一回、お別れのチューでもしとくか」


「遠慮しとく」


「忘れられない夜だったよな」


ふざけた調子で言いながら、サブローは俺の頭をはたいた。

じゃあな、と笑って片手を上げ、控室を出て行く。

いつも学校帰りに、曲がり角で別れる時と同じように。

 



サブローの背中がドアの向こうに消えても、部屋にはあいつの煙草の匂いが残っていた。

 



もしも、誰にでも《運命の恋人》がいるのなら

サブローが一刻も早く、その相手にめぐり会えますように。




そんなことを祈りながら、サブローが脱いだばかりのジャケットを羽織った。










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