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運命の恋人と恋に落ちないための俺と彼女の実証実験。  作者: 古矢永 塔子
宣誓です。『運命の恋人と恋に落ちないための実証実験』改め『運命の恋人と恋に落ちてからの永遠の証明』を始めます。末永く見守っていただけましたら幸いです。
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∞ ∞ ∞ ∞


披露宴は、教会に隣接する会場で行われた。

俺の隣に座っている父は、ずっと鼻をすすっていた。

俺はというと、お偉いさんの有難いスピーチも、陽二さんをはじめとする商店街のちょい悪オヤジチームが熱唱する『赤いスイートピー』も、全然頭に入って来なかった。


スピーチの原稿は用意していたものの、心のどこかで、サブローが現れる予感がしていた。だが、そろそろタイムリミットだ。


このあとは仁さんの高校時代の親友のスピーチのあと、姉と仁さんのお色直し、その後が俺の出番。


緊張のなかカンペを読み直そうとスーツの内ポケットを探ったとき、タイミングよくスマホが震えた。

LINEを開くと、まゆらからだった。


『今から少し出られる?』


まゆらには、今日が結婚式だと伝えてある。

よっぽどのことがない限り、こんなメッセージを送って来るはずがない。


スクリーンには姉と仁さんの子供の頃の映像が流れ始め、父さんが人目もはばからず号泣している。その隙に会場を出て、ロビーを抜けて会場の外に出た。


耳を澄ますと聞こえてくる、ブーツのヒールの音。


今日も最高に可愛い俺の《運命の恋人》が、息を切らして走って来る。

部屋着のようなスウェット素材のロングワンピースに、いつもの赤いダッフルコートを羽織っている。

まゆらにしては珍しくラフなスタイルだった。


「ごめんなさい、披露宴の最中に」


そう言いながら、俺に大きめの紙袋を手渡す。


「どうしたの、これ」


「パパのスーツを借りて来たの」


どういうこと、と問いかける俺の声は、突然現れた馬鹿デカいバイクのエンジン音に妨げられた。


ハーレーダビッドソンのFLTRXS ロードグライドスペシャル。それにまたがるのは、黒いレザーのライダーズジャケットと細身のジーンズ、ミドル丈のごついブーツを履いた男。

ヘルメットを外す前から、俺にはそいつの正体がわかっていた。


少しやつれた笑顔を見た瞬間、もう鼻の奥が熱くなっていた。


「遅いんだよ、馬鹿」


「その方が盛り上がるだろ?」


口ぶりは余裕ありげだったが、無理をしていることは明らかだった。


久しぶりに見るサブローは、高校球児のように髪を短く刈り上げていた。

野暮ったくなるどころか、生まれながらの凄まじい美貌が強調され、とんでもないことになっている。

あの寝癖だらけの髪型は、逆の意味での『髪型補正』だったのだと、改めて思い知った。


「傷心旅行の途中で北海道の山奥の寺に行ったんだよ。でも煩悩取り去ろうと思って弟子入りしたら、三日目くらいに坊主に襲われかけて脱走した」


相変わらず波乱万丈だな!


「そのハーレーは?」


「高速バスでこっちに戻る途中、サービスエリアで飲みかけの缶コーヒーと交換した」


「わらしべ長者かよ……ハイリターン過ぎるだろ!」


「しらねーよ。どうしても交換しろってうるせーから」


日常茶飯事ですか、そうですか。いろいろと規格外過ぎて頭が追い付かない。

混乱する俺をよそに、サブローは俺のネクタイを乱暴に掴んだ。

そのまま体ごと引き寄せられ、恐ろしいほどに整った顔との距離、わずか三センチ。

その至近距離で、サブローはいつもの低音ボイスで囁いた。


「――脱げよ」


何を?


完全に真っ白になっている俺にはお構いなしに、サブローはネクタイを引き抜くと、迷いのない手つきで俺のジャケットやシャツを脱がしていく。


「いやいやいや!

いくらなんでもそりゃないだろ!!」


必死の抵抗もむなしく、ホテルの玄関の前でパンいちになるまで剥かれる俺。


まゆらは、胸の前で紙袋を抱えたまま、怯えたように顔を強張らせていた。


サブローはライダーズジャケットを脱いで裸の俺に放ると、躊躇なく服を脱ぎ捨てて俺のスーツに着替えた。


世界遺産級のイケメンのストリップショー。

からの溜息が出そうなほどスタイリッシュなスーツ姿に、抗議の言葉すら忘れて見惚れてしまう。


「颯太、早く着て……みんなが見てる」


駆け寄って来たまゆらに囁かれ、我に返ると、騒ぎに気付いたスタッフが数人、遠巻きにこっちを見ていた。

勿論、半裸の村人Aではなく、正装して手櫛で髪を整えている王子の方を。




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