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運命の恋人と恋に落ちないための俺と彼女の実証実験。  作者: 古矢永 塔子
朗報です。完全に断ち切れたかに見えた『運命の赤い糸』ですが、現在かろうじて繋がっていることが確認されました。今後の展開をお見逃しなく。
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直感で、まゆらはこの町のどこかにいるような気がした。

もどかしい気持ちでワゴンを店の裏に停めていると、ビールケースをかついだ陽二さんに出くわした。


「颯太、合コンまだかよ」


口を開けばそればっかりだ。

生憎今日は、冗談に付き合っている暇はない。


「合コンが無理なら、坂の上のお城のお嬢様でもいいぜ。お前と同じ学校なんだろ?

さっき三浦の本屋の前でみかけたけど、やっぱり母親そっくりの美人、」


「三浦書店? 中に入って行った!?」


「いや、そこまでは……」


俺の勢いに気圧される陽二さんを置いて、店の手伝いを放棄して走り出す。


陽二さん、ナイスアシスト。

ご希望通り、今度まゆらを紹介する。

ただし、そのときは勿論『俺の恋人』として。


子供の頃から少年漫画誌を定期購読している三浦書店。息を切らして駆け込んでも、まゆらの姿は見つからなかった。


「おばさん、女の子を見なかった!?

小さくて、髪がこのくらいで、美人だけどツンとして気が強そうな……!」


「文庫本を一冊買って、ついさっき出て行ったけど」


子供の頃から慣れしたんだ小手毬商店街。運命のアシストがなかったとしても、俺には強力な味方がいる。


「赤いダッフルコートのお姉ちゃんならそっちに行ったよ!」


「あの別嬪さんなら、さっき『スプリング』で、リップクリームを買って行ったよ」


塚本の奥さん、骨董屋の川久保さん、ドラッグストアの春野さん。

魔法でもなんでもない、子供の頃から可愛がってくれた、大勢のサポーターの証言。



夕暮れに染まる商店街。まゆらの足取りを追いながら、俺の息が上がって来た頃──


「颯ちゃん、お願い、拾って!!」


しずさんの悲鳴が聞こえた。

振り返ると、まゆらと何度も歩いた坂道から、いくつもの夕日が、俺に向かって転がり落ちてくる。


次々に落ちてくるオレンジ色のネーブルをキャッチして、顔を上げる。


坂道の中ほどに、『八百商』の紙袋を抱えた静さんと、俺と同じようにネーブルを手にしたまゆらが立っていた。


これ以上ない、最高のタイミングでの運命のいたずら。

ベタ過ぎる出会いのシチュエーションが、きっと俺達の『運命の恋』のクライマックス。


「静さん頼む、その子、逃げないように捕まえて!」


すかさず逃げようとするまゆらに、静さんが俊敏な動きで跳びかかる。

まゆらはなすすべもなく、静さんの小さな体におさえこまえれた。


ようやく俺は『運命の恋人』を捕まえた。正確に言うと、俺ではなく静さんが。


「抵抗しても無駄だよ。静さん、五十年前は女子レスリングで国体に出たこともあるんだから」


まゆらの手からこぼれたネーブルを拾い上げ、笑いながら言う。


まゆらは観念したように「なんなの、この町は……」と呟いて、涙目で俺を睨んだ。








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