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運命の恋人と恋に落ちないための俺と彼女の実証実験。  作者: 古矢永 塔子
迷子のお知らせです。 僕の『運命の恋人』を探しています。心当たりの方は至急ご連絡下さい。
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テーブル上のエスプレッソは、手をつける前に冷め切っていた。

いつもと同じ、薄っぺらい苦み。


キャンパスの近くにあるカフェは、フレンチ・カントリー風の内装も、J-POPをボサノバ調にアレンジした音楽も、全てが早苗好みだった。

講義の空き時間に、デートの待ち合わせに、何度もこの店に通った。

でも正直言って、コーヒーの味は美味くない。きっともう二度と来ない。


いつも別れる前に言われる。


『優しいけど、それだけ。』


『颯太が好きなのは私じゃない。』


『思ってたより冷たい。』


『もっと大事にしてくれると思ってた。』


その通りだ。いつも後ろめたかった。


目の前にいる女の子と、まだ出会ってもいない《彼女》に対して、常に罪悪感がつきまとった。

見せかけの優しさでいつも本音も隠していた。

コーヒーの味が好みじゃないことすらも言い出せなかった。


だから俺の恋は、いつもこんな結末。



会計を済ませ、早苗の足取りをなぞるようにしてキャンパスに向かう。


空気が乾いているせいか、やけに空が透き通って見えた。

今朝、瑠璃唐草ネモフィラの種をプランターに植えたことを思い出す。


無事に冬を越せば、この空と同じ淡いブルーの花を咲かせるはずだ。

花言葉は『あなたを許す。』


俺は何を許されたいんだろう。 

いい加減な気持ちで早苗と付き合ったことを? いや、《彼女》を一途に待ち続けられなかったことを? 


多分、両方正解。



いっそのこと《彼女》を忘れてしまいたい。

『運命の恋』なんて都市伝説だ。

胡散臭い占い師や、恋愛アドバイザーが儲けるための戯言たわごとだ。


──なのにどうして俺は、それを笑い飛ばせないんだ?


リュックサックに入れたテキストを、やけに重たく感じる。

もうすぐ三限目が始まる頃だ。

今日の俺の講義は四限目から。

それまで図書館で、明日提出する予定のレポートを終わらせるつもりだ。


秋の乾いた空気と銀杏いちょう並木。

レトロな赤 煉瓦レンガのキャンパスの正門。

恋人に振られて肩を落として歩く大学生。


それが俺の──いや、俺と《彼女》のラブストーリーの、ファースト・シーン。


このとき、『運命の出会い』は猛スピードで俺に接近していた。


十九年間、俺を焦らし続けた《彼女》が、ようやく姿を現そうとしていたんだ。





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