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運命の恋人と恋に落ちないための俺と彼女の実証実験。  作者: 古矢永 塔子
ご報告です。このたび、運命の恋人と『恋に落ちないための実証実験』を開始するはこびとなりました。今後の経過をあたたかく見守っていただけましたら幸いです。
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「そもそも、男女の友情なんて存在しないと思うんだよねっ」


学食の売店コーナーで一番人気のクリームチーズあんぱんを食べながら、住谷さんがしたり顔で言う。

四限目のスペイン語の講義が始まるまで、あと二十分。

住谷さんに捕まった俺は、最近いつも一緒に過ごしている《彼女》との関係について突っ込まれている。


実験を開始した日から、今日でちょうど一週間が経過した。彼女と俺は順調に距離を縮めている。

LINEのIDを交換したし、講義の空き時間は学食や図書館で一緒に過ごす。


何しろ俺達は《運命》に選ばれしパートナー。

わざわざ待ち合わせなんてしなくても、大学の敷地内や町中で、ドラマチックな遭遇を繰り返す。


道端でハンカチを拾って顔を上げれば彼女がいるし、教授に頼まれた資料を探して書庫に入れば、彼女が目的のファイルを持っていたりする。

まさに運命的な出会いのオンパレード。


ただし、俺達の関係は『永遠に親友』。


それを住谷さんに伝えると、「ありえなーい」と、あからさまに不満そうに首を振る。


「でも住谷さん、性別に関係なく友達多いじゃん」


「あれはただの知り合い」


ちなみに、住谷さんを苦手なサブローは、俺の隣で机に顔を伏せて狸寝入りを決め込んでいる。


「でも橘君は友達だよ。あたしにとって、男じゃないから」


「どういう意味?」


「男として見てないし、完全に恋愛対象外ってこと。橘君を好きになるなんて絶対にありえないってこと」


「……なんだかすごく見下されてる気がするな」


「何言ってんの? 橘君、憧れの相手に自分のカッコ悪いところとか、汚いところをさらけ出せる? すべてをさらけ出せる相手にじゃないと、本物の友情は築けないよ。見下したところから真の友情が始まるんだよ」


そこまでいさぎよく断言されると、逆に清々しい。

隣にいるサブローの肩が、かすかに震えている。どうやら笑いを噛み殺しているようだ。


「住谷さん、サブローのことはどう思ってるの?」


「佐々木君もそういう対象じゃないな。わーすごいなー美しいなー圧倒的だなーとは思うけど、そんな気にはならない。橘君、パルテノン神殿とかアンコールワットとかに欲情する?」


するわけがない。

住谷さんは俺の体越しにサブローを覗き込みながら、澄ました顔で声をかける。サブローの寝たふりなんかお見通しのようだ。


「そういうわけで佐々木君、そんなに警戒しないで欲しいな。それにあたし、高校の時から付き合ってる彼氏がいるし、ひと筋だから。

……ちょっと橘君、驚き過ぎ」


「ごめん、なんか想像できなくて」


驚きのあまり変な声を洩らしてしまった俺を、住谷さんが不服そうに睨む。そんな俺達を見て、サブローはついに笑いをこらえきれなくなったのか、肩を揺らしながら顔を上げた。


「世界遺産と同じ扱いなんて光栄だよ。よろしく」


どうやらサブローの中で、『うるさい女』から『ちょっと面白い女』に格上げされたらしい。

流し目で微笑むサブローに、住谷さんは眩しそうに目を細めて一瞬 ひるんだ後──「やっぱり彼氏と別れようかな」と真顔で呟いた。決意 もろすぎるだろ。



「とにかく! もういい加減に認めちゃいなよ。付き合ってるんでしょ、宝生さんと」


好奇心丸出しの瞳が、ゴーグル眼鏡の奥で輝いている。


「……だったらいいんだけどね」


溜息と共に本音が洩れた。

距離が近づけば近づくほど、俺は彼女が好きになる。

時々カチンと来る言動や態度はあるものの、不意打ちで俺の心臓を串刺しする無自覚な言葉に、毎回俺は翻弄されっ放しだ。

知れば知るほど、可愛くてたまらない。寝ても覚めても頭から離れない。

なんだよ、《永遠に友達》って。何の拷問だ?何を吐いたら楽にしてもらえるんだろうか。

俺が一番吐き出したいのは、君を好きだってことなんだけど。


「颯太にしては、相当弱ってるな」


お前といい勝負だよ。


「告白しないの?」


それができたら苦労しない。でも、好きだと伝えた瞬間、俺達の実験は終了する。


そのあたりの事情は非常に説明しづらい。

『恋に落ちたら絶交』などというおかしなルールを白状したら、今以上に二人にいじられるに決まっている。




 


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