3150④
学校の最寄り駅から5駅先、自分の住んでいる田んぼが広がっていていて何も無い所ではなく、学校のある鉄の錆びたような鉄道街でもない。高層ビルが建ち並ぶ街。田んぼが雪に埋まって大雪原が広がっている田舎からひょっこり抜き出た街が見えてきた。俺から見ると、幸せと不幸せが入り混じり、雪からの反射光でライトアップされているように見えるのに黒くて暗いように見えた。
「間もなく終点〜。お出口は右側です」
気の抜けたアナウンスに少し苛立ちがあったが、何故か緊張感で胸の中をざわつかせた。
いつものホーム1番線、いつもと違って人混みはなかった。
電車を降りると凍てつく寒さと冬の匂い、冬の空気に胸が傷んだ、手がかじかんだ。あの街へ来ているが、地面が凍りつきアスファルトの感触さえなかった。やっと気付いた。こんなにも人を愛し、恋に焦がれることは初めてだった。自分にとってこれが本気だった。その心は何度も自分に問いても変わらないだろう。
俺は改札口にSuicaをタッチをしてホームを後にした。
1人で叫び、歌を歌い、嫌なことを忘れる。これが俺の中で描いていた今日の午後だった。が、こんな事になるとは100%中1%も思わなかった。なんと、あのカフェで俺より先に元カノといた奴がカラオケのフロントにいたのだ。そいつは俺を見るなり「2人で同じ部屋で」と、頭のおかしい事を言った。それに何も言えずにカウンターで生徒手帳を見せて2人で同じ部屋へ入った。会って2秒、初対面の奴と同じ部屋、しかも前に会った時に軽い口喧嘩を繰り広げた。これは世界初なんじゃないかと。
「俺たち、どうしてこんな事になったんだろうな」
いや、お前が「やっぱ2人で」って言ったせいだろうが。気付けよ。お前の記憶力は3歩歩いて忘れるニワトリか?と、心の中で叫んだ。
「ああ、確かにな」
とりあえず合わせてみる。
「お前どのくらい付き合ったん?」と、急にやつが話しかけてきた。
「1ヶ月ちょっとかな、本当に短かった」
「じゃー、俺の方がまだ長いな」
「何だよそれ」
「ただ、手すら繋げなかったな。付き合った意味あったのだろうかな」
「マジで?俺繋いだよ」
「は?俺より長く付き合ってないのに」
「ごめんな、これが男の魅力の違いってやつかな」
「本当の彼氏には負けたくせに」
「お前もな」
「けど、お泊まりしたぜ、何もなかったけど」
「何もなかったならそれは男として見られてないんだわ」
「じゃあ、LINEは?ブロックされたか?」
その時、俺のスマホから短い木琴の音がした。見てみると元カノから『でしょ』と、送られてきた。
「おいマジかよ、ありえねぇ」
奴が果てた。俺は笑いながら
「お前はブロックされたん?」
「返信が遅いからスタンプをプレゼントできるか試す方法でやってみたら送れなかったわ」
「やっぱお前男として見られてなかったんだわ」
面白くて仕方がなく、笑いが止まらなかった。
「お前、3150だな」
奴が暗号みたいな事を急に言ってきた。
「サンイチゴーゼロ?」
「そんなのも知らねーのかよ、最高って意味だよ」
「お前もしかしたらそんな事言ってたのかよ、だから泊まっても何も起こらないんだよ」
「お前そろそろ黙れ」
2人ともおかしくなってずっと笑っていた。
「彼女にあの本紹介された?」
俺はこれが1番気になった。教養のなさそうなコイツに勧めたのか。
「あー、あれね。俺と同じ名前のやつね。紹介されたけど5ページしか」
「だから魅力ないんだよ」
「うるせー!ぶっ殺すぞ」
コイツをからかうと面白すぎる。ずっと腹を抱えて笑った。
「つーか、俺もタツヤなんだよね」
「え、お前も?」
「うん」
「だから寝言で名前間違うことなかったんだな」
「そりゃ俺のことだな」
「いや、俺でしょ」
「くだらね」
「そろそろいい加減にしろ」
本当にくだらなかった。が、これが最高だった。
「お前、3150だな」
「お、タツヤも魅力のない男の第1歩を踏み出したな」
「お前と一緒にすんな」
タツヤとタツヤ、タツヤ同士3150だった。2人の中で何かが吹き飛ぶくらい何かが心の中に割り込んできた気がした。