3150③
「なあ、あの子可愛くね?」
俺がそう言うと
「それな!めっちゃ可愛いわ!」
と、同じバドミントン部のおサボり仲間と話していた。11月とあってとても寒かった。なのに顧問は「試合中はウインドブレーカーを脱いでやれ」と言った。こんな寒さで頭がイカれたのかと思った。だから試合をうまくしないようにおサボり仲間と話していた。
「おい、おい、おいアホ、俺が呼んでるから来い」
「は?アンタみたいにノー勉で赤点回避できない私ですいませんね。アホって言わないでくれる?」
こいつはアホ。勉強しても赤点という信じられない奴だ。が、バドミントンは普通に強い。
「Aコートで試合してる人可愛くね?」
「分かる!あの子めっちゃ可愛い!私LINE交換したの!」
「え?マジで?俺にもちょうだい!」
「何でアンタみたいな奴にあんな可愛い子のLINE教えなきゃいけないの?アンタのせいで穢れてしまったら困るからあげなーい」
「これ一生のお願い!頼む!ちょうだい」
アホは考えていた(フリかもしれない)。LINEをもらえるなら多少無理でもしたい。普段は絶対に嫌だが、今日はアホの条件を飲んでやってもいい。そう思っていた。
「じゃあ、1試合やって勝てたらいいよ。まだ1試合もしてないでしょ?」
「分かった、勝つわ」
俺は間髪入れずに承諾した。思い腰を上げてウインドブレーカーを脱いだ。ゲームは1ゲームのみ。相手は以前対戦したことがある相手でヘアピンが上手だった気がする。だからヘアピンには気を付けなければいけなかった。「こいつに勝てばあの子のLINEが手に入る。」このことしか頭になかった。体育館の空気はいつもとあまり変わらないがどこか緊張感を感じた。高校に入って感じたことのない胸の高鳴りを覚えた。試合中のことはあまり覚えていない。後でアホに聞くと「信じられないくらい集中していた」らしい。結局、俺が5点差をつけて勝った。そして、LINEが手に入った。
結果的に付き合えたが、今となってみればこれが悪夢の始まりであってその元凶は自分で作ってしまうという残酷なものとなって幕を閉じていった。
次の日に学校へ行ったが、3限で保健室へ行き、早退した。もちろんサボりだ。クラスメイトからは心配されもしなかった。どうやらサボってたことがバレていたらしい。理由はまだ言えない。心の整理もしていなければ、あの男と上手くいかなくなってもう1人の方ではなく自分の方に来ることだって有り得る。何故かそのチャンスを捨てられずにいた。
俺は教室に荷物を取りに行き、この後玄関へ向かった。特に具合が悪い訳ではないから帰りとは反対の方向の電車であの街へ行こうと決めた。Suicaには1500円、財布には1000円、これならあの街へ行ってカラオケぐらいはできると確信し、足元が悪い中駅へ向かった。