初めての共闘
「ありがとうございます、パーティーに入ってくださって」
「こちらこそ礼を言う。 冒険をともにできる仲間が3人も手に入った、良い出会いに巡り合えた」
「いや~~、さすが俺が見込んだだけの事はあるぜ~。 冒険者たちの前であんな啖呵切っちまうなんて」
「実力と自信を併せ持つレオン殿にしかできない、見事な宣言であったのだ」
「そんな恥ずかしい事言わないでくれ……受付嬢さんのせいで、最後あまり決まらなかったしな」
俺はいま、マルク、カイン、レスターの3人と外壁の門に向かって歩いている。
ギルドで、白金ランクになって迷宮を攻略すると宣言した……宣言したからには、俺は必ずそれを現実にする。
そのために、まずは鉄ランクから銅ランクに昇格しなければならない。
3人の実力を見ないことには何も言えないが……できれば、今日は『指定モンスター制』で指定されているゴブリンウォーリアー<闘士>とゴブリンメイジ<魔法使い>、そしてゴブリンアーチャー<弓使い>を何匹か狩りたい。
こいつらは僕のゴブリンたちを引き連れて行動しているため厄介なモンスターだが、奇襲を仕掛けて周りのゴブリンたちを最初に始末できれば、あとはパーティー全員で叩くことが出来る。
―――まぁ、俺1人で全滅させることも可能だが。
しかし、それではマルクたちのためにならない。
マルクたちは大切なパーティーメンバーだ。
共に戦いながら、着実に力を付けられるよう手助けする責任が、俺にはある。
実力を伴わないで突き進めば過信が生まれ、過信は人を誤った判断へ導く。
そうなれば、待っているのはどこまでも残酷で冷たい死だ。
マルクたちとはまだ会ったばかりだが、死なせたくない。
そういえば……
「能力強化<フォース・アップ>について何か知っている事があったら、教えて欲しいんだが……」
「能力強化は、自分や仲間のステータスを一時的に向上させる魔法です。 1年前にメイフィールド聖王国の宮廷魔導士が生み出しました」
「聖王国は帝国に匹敵するほどの魔導士を保有しているのである。 帝国に次ぐ大国であるのだな」
「だが帝国の一強には変わりないな~。 なんたって帝国には天才貴族『クラウド』がいるからなぁ~」
「フッ……クラウドねぇ」
「どうかしたんですか?」
「いや、何でもない」
カインの口からクラウドの名前が出て、思わず笑ってしまった。
そうか、クラウドの名前はレスティー王国でも有名なのか。
能力強化の魔法を知っていないのは、当然だった。
1年前は、かの有名な天才貴族『クラウド』様(笑)に禁書の解読作業を押し付けられてたからな。
「それで今日の標的はどのモンスターにするんだ~?」
「うん。 レオンさんが加入して初めてのハントだから、牙狼<ファング・ウルフ>くらいがちょうどいいと思うんだ」
「様子見にはちょうどいいモンスターだな、俺も賛成だ」
「私も賛成なのだ」
「了解! 俺の弓の、驚異の命中力を見せてやるぜ!」
カインは得意そうに親指を立てサムズアップし、二カッと笑った。
しかし、
「カインはこう言っていますが、半分近くは外すので期待しないでくださいね」
「おい、半分は言いすぎだろ!」
「調子が悪い日は半分以上外すこともあるのだ。 今日は調子のいい日であってほしいのだ」
「た、たしかにそんな日もあるが、今日は!」
「……そ、そうか。 まぁ、半分も当たるなら上手い方だろう」
「そ、そうだろ? さすが、レオンは分かってるな~」
マルクとレスターにからかわれ、カインの得意そうな顔はとたんに悔しそうな顔に変わった。
俺はカインをフォローしながらも、心の中では早く冗談を言い合えるような仲になりたいと思った。
実際、半分も命中させれれば上出来だろう。
動かない的に当てることすら難しい、まして、生きたモンスターに当てるのはなお難しい。
マルクは期待しないでと言ったが、これはかなり期待できる。
俺たちは、牙狼を狩るため森へと向かった。
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「くらえ、クソ犬!」
ヒュン―――ドスッ!
『ガァァァッ!』
「よっしゃぁぁぁぁ! 見たか今の!」
カインの放った矢が、見事にファング・ウルフの頭を貫いた。
頭に矢の突き刺さった牙狼が、断末魔の叫びをあげながら勢いよく倒れこむ。
仲間を倒された牙狼たちは、固まって行動するのは危険だと察し、左右に分かれた。
「気を抜くなカイン、まだ4匹いるぞ!」
「左のファング・ウルフは私が相手をするのだ!」
「さっき外したから、今のところ命中率は50%だな。 火球<ファイヤー・ボール>!」
ボォォォォォンッ!
『ググッ!』
「「おぉ~!」」
マルクが手前の牙狼に切りかかり、レスターは一番左にいた牙狼と相対した。
マルクの剣が、牙狼を襲う。
しかし、牙狼は後ろに跳び退き難を逃れ、別の牙狼が剣を振り切ったマルクを襲った。
俺は軽口をたたきつつ、マルクを襲おうとしていた牙狼に火球をぶちかました。
ちょうど飛びかかった瞬間に火球が炸裂し、空中で丸焦げの死体が出来上がる。
先ほど、5匹の群れで行動していた牙狼を見つけ、奇襲することにした。
俺、マルク、レスターが息をひそめるなか、カインが矢を放つ。
矢は牙狼を目指してまっすぐ進み……牙狼のすぐ手前の地面に突き刺さった。
こうして奇襲は失敗し、牙狼たちとの戦闘が始まったのである。
―――よって、今のところ命中率は50%である。
「へっ、もう1度当ててやるぜ! くらえっ!」
ヒュン―――スッ……
カインはもう1度弓をつがえ、狙いを定めて放った。
狙いは良い……だが、筋力が足りていないせいか飛距離と速度がいまいち出ていない。
3発目も、牙狼に避けられてしまった。
「くそっ! 今度こそ―――」
「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」
ザンッ―――!
『グガァァァ!』
カインが弓を引いた瞬間、いつの間にか牙狼を倒していたマルクとレスターが、最後の牙狼を倒してしまった。
「よし、これですべてのファング・ウルフを倒しましたね」
「討伐証明の右耳と素材を切り取って、次のモンスターを探すのだ」
「……そうだな」
「最後は俺がカッコよく終わらせたかったのに……!」
マルクとレスターが、牙狼の死体からポイントを貰うために必要な討伐証明の右耳と、毛皮や魔石などの換金素材を剥ぎ取っているなか、カインは1人ひざをついて悔しがっていた。
……げ、元気を出すんだカイン。
たしかに才能はあった。
狙い通り矢を飛ばすコントロール……簡単に手に入れられるものではない。
マルクもレスターもまだまだ未熟なところがあるが、十分に銅パーティーと言ってもいい実力がある。
これなら今日中に指定モンスターに挑んでも良いだろう。
『ウヲォォォォォォンッ!』
すぐ近くで、牙狼の遠吠えがした。
仲間の血の臭いに引き付けられて、集まってきたのだろう。
ちょうどいい、こいつ等を使ってどれだけ変わるか試してみるか。