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パーティー結成


「あの……良ければ私たちのパーティーに入ってくれませんか?」



 玄関へ向かおうとした俺に、3人の男性冒険者が近づいてきた。

 小競り合いでも起こす気なのかと少し警戒したが、パーティー加入のお誘いだったようだ。


 3人のうちの1人、俺に声をかけてきた青年は皮の鎧を身にまとい、腰には剣を帯びていた。

 短く切った金髪、まっすぐとこちらを見つめる碧眼へきがん、品の良い口調は、自然と好印象を与える。


―――俺も見習うべき所があるな。


 少なくとも、昼間からギルドで飲んだくれている冒険者たちよりは、しっかりとした人物だろう。

 たぶん、この青年がパーティーのリーダーだ。



「あなたたちは……?」

「あ、すみません! わたしは『鋼鉄の鎧』のリーダー、マルク=シュバルベ。 マルクと呼んでください、そして彼が―――」

「狩人のカイン=アーノルドだっ! できればカワイイ女の子に加入して欲しいが、リーダーが言うんじゃ仕方がない。 まぁ、カッコいい俺の引き立て役になってくれ!」

「おい、失礼だぞ! 謝るんだ、カイン!」

「冗談だって。 俺流の挨拶だと思って軽く流してくれ~」

「すみません、カインが失礼なことを……」

「あはは、気にしないでくれ」



 初対面でいきなり「俺流の挨拶」をぶちかましたカインは、マルクと同じ皮の鎧を身に着け、背中には弓と矢の入った矢筒、腰には短剣を挿していた。

 長い金髪を後ろに撫で上げヘッドバンドでとめているので、髪で顔が隠れることはない。

 きっと、「どうだ俺の顔、カッコいいだろ!」とでも言いたいのだろう。

 すまない、マルクの方が美形だ。


 狩人は、中距離にいる敵を弓で攻撃し、取りこぼした敵を剣で処理する、前衛と後衛の役割をあわせ持つ職業だ。

 戦況せんきょうを即座に把握はあくできる頭脳と、瞬時に戦闘スタイルを変える身軽さが必要である。


―――ちなみに、口調まで軽くする必要はない。



「最後に、重戦士のレスター=ランドルフです」

「気軽にレスターと呼んでくれ、よろしくお願いするのだ」

「あ、あぁよろしく……」



 穏やかな声で手を差し伸べられ、握手を交わす。

 まだパーティーに入るか決めかねていたのだが……断りずらいな。


 重戦士らしいガタイを持つレスターだが、優しい面持ちをしていて人の良さが溢れ出している。

 重戦士はパーティーの盾の役割をするので、基本的に重厚じゅうこうな防具を装備しているが、レスターは皮防具の他に鉄製の小手を付けているだけで、防御力の面でいささか心配が残る。

 鉄製の防具は高い……まだ小手の部分しか買えていないのだろう。


 背中に背負っている槌矛<メイス>は、重心が頭部にあるため筋力がないとまともに扱えない武器だが、レスターなら大丈夫そうだ。



「俺の名前はレオンだ、孤児院にいたから苗字みょうじはない。 そのままレオンと呼んでくれ。 それで、冒険者になったばかりの俺をパーティーに入れるメリットはあるのか?」

「そうですね……パーティーの人数が増えると、モンスターを倒して得られる個人のポイントが減るので、冒険者ランクを上げづらくなります。 それに、レオンさんはまだモンスターと戦ったことがないと思うので、最初のうちはスライムや白兎を狩ることになりそうです。 そうなると、余計に冒険者ランクを上げづらくなります」

「……けっこう言うな」

「す、すみません。 それでも、後々のことを考えればメリットの方が大きいです、すごく大きいです! 魔法使いがパーティーにいるだけで、今までは倒せなかった強いモンスターも倒せるようになります! お願いです、私たちのパーティー『鋼鉄の鎧』に入ってください!」

「……そうか」




==========


 冒険者には、ランクというものがある。

 鉄→銅→銀→金→白金の順に上がり、ランクに応じて受けられるクエスト、探索できる地域が変わってくる。

 とうぜん、ランクに比例して収入も増えるので、冒険者たちはこぞってランクを上げようとするのだ。


 では、どうやったらランクが上がるのか?

 ランクの昇格に関して、ギルドは『ポイント制』と『レベル制』、そして『指定モンスター制』を採用している。

 

 まず、『ポイント制』。

 これは、モンスターを倒すとそのモンスターに応じたポイントを得ることができ、ポイントが規定値まで貯まればランク昇格の第一条件をクリアしたことになる。


 たとえば、スライムだったら1ポイント、小型草食モンスターなら3ポイント、ゴブリンなら18ポイントといったところだ。

 

―――ちなみに、鉄から銅への昇格は500ポイント必要である。


 ソロ冒険者の場合は、そのままのポイントを貰えることができるが、パーティーを組んでいる場合、ポイントはメンバー全員で等分しなければならないため、どうしても1人1人のポイントが少なくなってしまう。

 しかし、パーティーを組んでいればその分ポイントの高い強いモンスターを討伐することが出来るので、結果的に1人が得られるポイントはソロ冒険者とあまり変わらなくなる。


 そして、『レベル制』。

 これは、冒険者カードに書かれたレベルが規定値に達しなければランク昇格できないというもの。

 しかし、たいていの場合はポイントを集めているうちに自然とレベルも上がるので、そこまで気にしなくてよい。

 

 「経験値の圧倒的に低いスライムを500匹倒して500ポイント集めました!」とかじゃなければ、ぜんぜん大丈夫だ。


 最後に、『指定モンスター制』。

 ランク昇格するためには、ランクごとに指定されたモンスターを一定数討伐しなければならない。

 これがかなり難しい。

 指定されたモンスターの個体数は少ないことが多く、そして単純に強い。

 大半の冒険者が、この制度のせいでなかなかランク昇格できない。


 これら3つの条件をクリアして、初めてランクが昇格するのだ。 

 

 次に、魔法使いがいた方が強いモンスターを倒せる理由についてだが、これは単純だ。

 魔法使いは、魔力量という制限があるが、単純火力はどの職業よりも上である。

 剣や斧などの物理攻撃だけでは倒すことが出来ないモンスターも、魔法攻撃があれば倒すことが出来る。


―――ここまでの知識は、ぜんぶ帝都の国立図書館で得たものだ。

   

 とはいっても解読作業で忙しくなる2年前に読んだ本に書いてあったことだから、今は少し状況が変わっているかもしれない。

 

==========



 マルクが心の底から魔法使いを欲していることは、痛いほど伝わってくる。

 レスターもマルクとともに、頭を深々と下げてまで俺にパーティーに入ってくれと頼み込んだ。


 ……お調子者のカインは、「頼むよ~」と両手を合わせて笑いかけてくる。


 マルクもレスターも……カインもいい人たちだ。

 できればパーティーに入って、冒険の手助けをしてあげたい。

 

 だが、ソロ冒険者になってなるべく早くランクを上げ、強いモンスターに挑みたい気持ちも大きい。

 金ランクになれば、迷宮の探索が解禁される。

 迷宮には圧倒的な力を持つボスモンスターが存在する。

 オークと戦った時に感じた激情……あれをもう1度感じたい。

 

 3人には本当に申し訳ないが、パーティー加入の話は断らせてもらおう。



「すまな―――」

「そんな雑魚パーティーに入らないで、俺たちのパーティーに入らないか?」

「……!」



 とつぜん話に割り込まれ、喋りかけていた言葉が途切れる。

 マルクたちは、「雑魚パーティー」と呼ばれた瞬間に表情がこわばった。

 声のした方へ振り向くと、酒に酔ってすっかり顔の赤くなった冒険者5人がこちらに体を向け、ニヤニヤしながら椅子に座っていた。



「……雑魚パーティー?」

「そうさ、そいつらはいつまで経っても『鉄』のままのクズ冒険者だ。 そんな奴らの仲間になるより、パーティーメンバー全員『銀』の俺たちのパーティーに入った方が金も、地位も、名誉も手に入る!」

「金と地位と名誉か……」



 5人のなかで1番ふんぞり返って、マルクたちを蔑んだ目で見ていた中年冒険者が、さも得意そうに叫んだ。

 たかだか『銀』のくせにすっかり英雄気取りだな。

 マルクとレスターは唇をかんで悔しそうに地面を見つめていたが、カインは言い返した。



「くっ……俺たちはいつか必ず『金』……いや、『白金』になって迷宮を攻略するんだ!」

「お前に用はねぇんだ! 雑魚のくせにおこがましいんだよ、黙ってろ!」

「くっ……!」

「レオンと言ったか? さっきはパーティーに入れてやると言ったが条件がある」

「条件?」

「当たり前だ、俺たちの精鋭パーティーに入るに足る実力がないと……少なくとも火球<ファイヤー・ボール>と水短剣<アクア・ダガー>、それに能力強化<フォース・アップ>は使えないと話にならん」



 能力強化<フォース・アップ>……?

 初めて聞く魔法だ、たぶんここ1年か2年で新しく作られた魔法だろう。



「火球と水短剣は使えるが。 能力付加は初めて聞く魔法だな……」

「チッ……なんで1階級の能力強化が使えなくて、2階級の火球と水短剣が使えるんだよ。 まぁ、いい。 お前がどうしてもと言うならパーティーに入れてやってもいいぞ」



 ……本当にこういうやからは見てて飽きない。

 こいつらの強欲ごうよく傲慢ごうまん怠惰たいだには目を見張るものがある。

 『鉄』ランクの冒険者たちは自らの頭を下げて、ただひたすら謙虚けんきょてっした。

 かたや、『銀』ランクの冒険者たちは自分自身を虚飾きょしょくしていることに気づかず、俺が頭を下げるのが当然と言わんばかりにふんぞり返っている。


 ソロ冒険者になるつもりだったんだがな……。 

 

 俺はゆっくりとカウンターへと向かった。

 受付嬢はいままでの会話を聞いていたらしく、俺の真意をうかがうかのようにまっすぐと俺の目を見つめる。

 俺が何をするのか……それを確かめようと冒険者たちは会話をやめ、ギルド内が静まり返った。

 ギルドに漂う緊張感を断つように、受付嬢が口を開いた。



「先ほど、スライム討伐に行くと言われたはずですが? どうかなされましたか?」

「……いや、今さっきまではスライム討伐に行くつもりだったんだがな。 パーティーに加入させて貰うことにした」



 俺が言葉を発した瞬間に、ギルド内の緊張感は途切れた。

 『銀』ランクの冒険者たちは当然のことだとほくそ笑んだ。

 成り行きを見守っていた冒険者たちも、いつものことだと途端に興味をなくす。

 なかにはマルクたちを嘲笑する冒険者たちもいた。


 魔法使いの職業を持つ冒険者は、冒険者全体の5パーセントもいない。

 魔法を使うためには、複雑な魔方陣を記憶できるだけの記憶力と、魔法を複数回使えるだけの魔力を持っていなければならない。

 しかし、そんな人間はなかなかいないため、魔法使いは圧倒的に少ないのだ。

 

 そのため、魔法使いはいつも取り合いになる。

 金や銀ランク冒険者がいるパーティーはもちろん、時には白金ランクの冒険者までが新人魔法使いを勧誘する。

 そして決まって、魔法使いたちはより高いランクの冒険者がいるパーティーへと加入した。

 間違っても銀ランク冒険者の誘いを蹴って、鉄ランク冒険者のパーティーに入るバカはいない……。



「ハハハハハ! お前の選択は正しい、俺たちのパーティーは『夕闇の黒騎士』だ!」

「……それで、どのパーティーに加入されるんですか?」

「そんなの決まっている」



 受付嬢の理知的な瞳が、まっすぐと俺を見つめる。

 口調こそトゲがあるが、この人は優しい心の持ち主だ。

 まだ出会ったばかりだが、俺にはそれが分かった。

 

 俺がどんな選択をするのか……それを分かっているのは、たぶんこの受付嬢だけだろう。


 俺は後ろに振り返った。

 視界の端に、銀ランク冒険者たちの愉快そうな笑みが入る。

 こいつらはどうだっていい。

 俺の視界の中心には、



「マルク、レスター、カイン……俺を『鋼鉄の鎧』に入れてくれ」

「「「はっ!?」」」



 マルクたちがしてくれたように、俺も深く頭を下げた。

 彼らの誠意に、俺は答えなければならない。



「レオンさん、どうして……?」

「レオン殿……」

「マジかよ……俺たちのパーティーに入ってくれるのか?」

「だめか?」

「い……いえ、ぜひよろしくお願いします!」

「分かりました。 では、レオンさんがパーティー『鋼鉄の鎧』に加入するための手続きをしておきます」

「よろしく頼む」

「……ハッ! とんだバカ野郎だな、俺たちの誘いを蹴ってあろうことか鉄の冒険者パーティーに入るなんて。 まぁいいさ、効果付与も使えないザコ魔法使いにはザコパーティーがお似合いだ! せいぜいスライムでも狩り続けるん―――」


ヒュンッ―――ダァァァァァァァァンッ!

 


 怒鳴り散らしていた銀ランク冒険者の頬を、氷の短剣がかすめる。

 短剣は冒険者の頬に細長い切り傷を付けたあと、そのままギルドの壁の突き刺さり大きな穴をあけた。


 騒がしかったギルド内は一瞬にして凍り付き、ふたたび静寂せいじゃくが訪れる。



「今のは4等級の氷短剣<アイシクル・ダガー>だが、本気を出せば7等級の炎大槍<ブレイズ・バリスタ>も使える」

「「「……!」」」

「今この場で宣言する。 俺は……『鋼鉄の鎧』は必ず白金ランクに昇り詰め、迷宮を攻略できるほどの最強パーティーになる!」



 マルクたちに目配せをして、ギルドを立ち去ろうとした。

 冒険者たちが見守るなか、ゆっくりと、堂々と歩く。


 玄関の扉に手を触れた時、カウンターにいる受付嬢が声をかけた。



「……レオンさん」

「……なんだ?」



 振り向くと、受付嬢は遠くを見るような目で俺を見つめていた。

 驚き、渇望かつぼう追想ついそう……まるで俺ではない、別の誰かを見つめているような、そんな目をしていた。


 そんな表情をしていた受付嬢は、はっと我に返り、目をつぶりながら一息深く息を吐く。

 そして、今度はちゃんと俺を見ながら言った。

 


「壁の修理代は、レオンさんの報酬金から引かせていただきますね」

「……」



 なんか……締まらないな。


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