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スライム×門番さん×冒険者ギルド


 村を去ってから6時間くらい経っただろうか?

 夜が明けて、道のわきの草花についている朝露あさつゆがきらきらと輝いている。

 すぐ近くでは、スライムが蝶蝶ちょうちょうを捕食しようと元気に飛び跳ねていた。


 俺はそっとスライムの方へてのひらを向け、



「氷短剣<アイシクル・ダガー>!」



―――魔法を放った。


 氷の刃が容易にスライムの半透膜を貫き、青透明の体液が盛大に飛び散る。

 後に残ったのは、青色の水たまりと透明な皮、そして小さな青い石。

 俺はその小さな青い石を拾うと、持っていた袋にしまった。

 そして、スライムに哀悼あいとうの意を込めて合掌がっしょうをした。


 基本的に、俺は殺生を好まない。

 理由もなく、ただ理不尽に暴力を振るうのは卑しい行いだ。

 たとえ、その相手がモンスターだとしても。


 だから、今のスライム討伐にもそれなりの理由がある。

 

 俺はいま、町を目指して歩いている。

 町はたいていの場合、城壁に囲まれており中に入るには通行税がかかる。

 通行税は貨幣かへい、もしくは麦や武具などの商品、そして『モンスターの素材』で支払われる。

 つまり、金も商品も持っていない俺は、モンスターを狩って得た素材を渡して町に入れて貰うしかないのだ。


 もっとも、冒険者になってしまえば通行税を払わなくてもよくなる。

 冒険者たちは町周辺の安全を守ってくれているため、免除されているのだ。

 特権商人や貴族、聖職者も払わなくていい。


 ここが森ならば、襲ってくるゴブリンたちを倒して素材を集めることができた。

 しかし実際は、スライムや小型モンスターが静かに暮らしている平和な草原。

 

 許せスライム、お前に罪はない。

 村を襲ったゴブリンを討伐した時に、素材を剥ぎ取って行けばよかったな。


 スライムから取った青色の石、これは魔石である。

 以前は装飾品としての使い道しかなく価値が無いに等しい素材だったが、俺が禁書を解読して、魔石の有効的な使い道を発見してからというもの、一気にその価値は跳ね上がった。

 

 魔石は2種類存在する。

 魔獣石まじゅうせきと、魔鉱石まこうせきである。

 極論を言ってしまえば、魔獣石はモンスターから剥ぎ取った魔石、魔鉱石は鉱山に埋まっていた魔石である。


 基本的に、魔鉱石の方が大きさも質もだんぜん良い。

 魔鉱石は、太古のモンスターの魔獣石ではないのか?という仮説があるが、魔獣石の質と大きさはモンスターの体格・強さに比例するため、それが本当だったら昔のモンスターたちは、いま生きているモンスターよりも何倍も強いことになる。

 ……太古のモンスターか、ちょっと戦ってみたいな(フラグ)。


 ちなみに、この前拾った魔石は魔鉱石である。

 5つあったうちの2つを使ってしまったので、残り3つしかないが。

 これを通行税として払うこともできるが……貴重な物なので、これは取っておきたい。


 

「……これだけ集まれば大丈夫か」



 魔石がパンパンに入った袋をふところにしまい、本格的に町を目指す。

 村での宴の時に聞いた情報では、この道をまっすぐ行ったところに分かれ道があり、左に行くと小さな村、右に行くと大きな町があるらしい。

 

 聞いていた通り、すぐに分かれ道につき当たり、右に曲がった。

 その数時間後、町の外壁が見えた。


 弱小国家の町だから貧弱な外壁を想像していたが、外壁は思ったよりも頑丈な作りをしていた。

 高さは10メートル程度、きれいに石が積み上げられていて、並みの衝撃では崩れないだろう。

 今歩いている道の先に、町と道を隔てる門が設置されており、鎧を着た門番が立っていた。

 渋い顔をした中年の男で、鍛えられた肉体が威圧感を放っている。


「町の中に入りたい」

「そうか、では大銅貨2枚を払ってもらう」

「スライムの魔石でもいいか?」

「スライムか、なら30個だ」



 袋からスライムの魔石を取り出し、門番に手渡す。

 門番はそれを受け取ると、ほらよと道を開けた。

 


「この町に冒険者ギルドはあるのか?」

「あぁ、あるぞ……あんた、冒険者になりたいのか?」

「そうだが……なにか問題でもあるのか?」

「問題か……冒険者からは通行税を取れないから俺の収入が減るのと、態度がデカくて品性の悪いやからが1人増えるくらいだな」



 俺が冒険者になりたいと言った瞬間、門番は心底嫌そうな顔をした。

 最初はどうしてそんな顔をしたのか分からなかったが、次の言葉で理由が分かった。


 門番にとって、いや、少なくともこの町において、冒険者というものは嫌われる存在なのだろう。

 


「すまないな、あんたの給金の一助にはなれないみたいだ……だが、俺はあんたが思っているような冒険者にはならない。 それは誓おう」

「……そうか。 門を抜けた大通りをまっすぐ進めば、ギルドの看板が見えるだろうさ、ほら、行きな」

「あぁ、行ってくる。 ありがとう」



 門番は俺の言葉に一瞬驚いたが、嬉しそうに少しだけ笑ったあとギルドへの道を教えてくれた。

 俺は門番に感謝を告げ、外壁を後にした。





==========






 露店の立ち並ぶ大通りを抜け、冒険者ギルドに着いた。

 竜が弧を描き、その中心で剣と杖が交差している紋章……冒険者ギルドの紋章だ。

 その紋章が描かれた看板をぶら下げて、堂々と建てられた漆喰しっくいの建物。


 ここから俺の物語が始まる。


 俺は深呼吸をしたあと、堂々と胸を張って扉を開いた。


 扉を開いた瞬間、鼻の中に酒の臭いが広がった。

 思わず顔をしかめてしまう。


 噂には聞いていたが、冒険者ギルドには酒場が併設されている。

 建物の中では、冒険者たちがバカみたいにはしゃぎながら酒をあおるように飲んでいた。

 

 これが冒険者か……まったく夢のない職業だ。

 門番の愚痴ぐち至極当然しごくとうぜんだ。


 騒がしいギルドの建物は、俺が扉を開けたあと少し静かになった。

 冒険者たちのまるで品物を見定めるような視線が一斉に集まる。

 

―――うっとおしい。


 俺は冒険者たちのことなど一切気にせずにカウンターへと向かった。


 カウンターでは、受付嬢が書類の整理をしていた。

 肩でそろえた茶髪、眼鏡の向こう側にある瞳には青色の理知的な輝きが見える。

 しっかりとギルドの制服を着こなして仕事をしている姿は、好感が持てる。


 こんな場所にも、しっかりした職員がいるんだな。



「すまない、冒険者登録をしたいのだが」

「はい……スライムも倒せなさそうな見た目をなされていますが大丈夫ですか?」



 …………ふぁっ!? 

 突然の「見た目、『スライム>俺』宣言」で、俺の思考はしばらく停止した。


 

「どうかしました?」

「……あ、いやなんでもない。 大丈夫だ」

「分かりました、冒険者登録ですね、ちょっと待っててください」

「あぁ……」



 受付嬢はすっと立ち上がると、カウンターの奥へ消えていった。

 後ろの冒険者たちは俺のことをクスクスと笑っている―――お前ら覚えとけよ。


 確かに俺は筋肉質な体型ではない。

 別に体を鍛えていたわけでもなく、ただ禁書庫で黙黙もくもくと禁書の解読をしていただけなのだから。

 しかし、だからといってスライムも倒せないほど非力ではない。

 実際、倒してるし。


 奥から書類を持った受付嬢が帰ってきた。


 

「登録料として金貨1枚貰いますがよろしいでしょうか? 無ければこちらの方で貸し付けることもできますが」

「生憎、今は金を持っていないので貸付で頼みたい……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「そうですか、スライム()倒せるんですね。 今後はスライムでレベルを上げたあと、小型の草食モンスターに挑まれることをお勧めします」

「……」

「では、貸付という形で冒険者登録させていただきます。 毎回のクエスト報酬金の1割を返済にてさせてもらいます。 職業は何にしますか?」



 オークですら一撃で倒せる魔法を使える俺が、スライムで経験値稼ぎだと……?

 そして、スライムの次に挑むのが小型の草食モンスター。

 過小評価されすぎではないだろうか?


 もしかして、この受付嬢は俺の身を案じてくれているのか?

 冒険者稼業には危険が付き物だ、十分に慎重になる必要がある。

 でもなぁ……。



「魔法使いで頼む」

「分かりました。 では、こちらのパンフレットと冒険者カードをお渡しします」



 冒険者カード、持ち主の素質を数値で表してしまう無粋な代物しろものだ。

 例のごとく、これも俺が作ったのだが今更ながら後悔している。

 

 まず、冒険者に明確な格差が生まれてしまった。

 そりゃそうだ、これさえあれば簡単に力の差が分かる。

 冒険者たちは、自分よりステータスの低い冒険者を見下し、嘲笑うようになってしまった。

 

―――こんな紙切れなんかで、真の実力が分かるはずがないのにな。


 例えば、経験や知識。

 たとえステータスやレベルの点で劣っていたとしても豊富な経験や知識があれば、それだけで生存確率やクエストの成功確率は格段に上がる。


 そしてもう1つがスキルの存在。

 俺も話でしか聞いたことはないが、冒険者の中にはステータス以上の実力を発揮できる者がいるらしい。

 常人離れした剣術を持つ者、普通より少ない魔力で魔法を行使できる者。

 彼らの持つ力を人々はスキルと呼んだ。

 いくつかのスキルはすでに発見されて研究が始まっているが、まだまだ分からないことの方が多い。


 そう言えば、簡単に魔法が使うことが出来たのはスキルのおかげかもしれないな。

 もしかしたらスキルについて書かれた禁書があるかもしれない。

 また今度、記憶した禁書の内容を解読してみようか。


 冒険者カードとともに貰ったパンフレット、そこには初心者用の魔法が載っていた。

 魔法名と簡単な説明文、そして魔法を発動するための魔方陣の絵柄が書かれている。


 魔法にはそれぞれ階級がある。

 火球<ファイヤー・ボール>なら2階級、氷短剣<アイシクル・ダガー>なら4階級など。

 階級は1~10まであり、数字が上がるにつれ効果や威力が高くなる。

 まぁ、それに比例して消費魔力や魔方陣形成の難易度も上がってくるが。


 どうやらこのパンフレットには1~3階級までの魔法が載っているようだ。

 あとでじっくり確認しよう。


 

「あちらにクエストボードがありますが、あいにく、スライム討伐のクエストはありません。 スライムの魔石は買い取っていますので、集まったらこちらに持ってきてください」

「……やっぱりスライム討伐から始めないといけないのか?」

「そうですね、何事も地道にコツコツと進めていくのが一番です。 ……焦って強敵に挑めば、待っているのは死ですから」



 一瞬、何を考えているのかさっぱり分からない受付嬢の無表情な顔つきに、暗い影が宿った。

 悲しい過去を思い出すように、視線をカウンターに落とす。


 彼女はたぶん……冒険者がどんな職業であるのか、誰よりも理解しているのだろう。

 そして、冒険者になろうとカウンターにきた俺を見て、傲慢ごうまんあせりといった感情を感じ取り、少しトゲのある言葉で忠告した。

 まだ目の前の受付嬢と出会って間もないが、俺はそんな気がした。



「……それもそうだな。 じゃあ行ってくる」

「いってらっしゃいませ」



 早く強い敵と戦いたい気持ちもあるが……まぁ、スライムから始めるのも悪くはないか。

 許せスライム、またお前を倒すことになりそうだ。


 受付嬢に別れを告げ、ギルドから出ようと玄関へ向かった。



「あの……良ければ私たちのパーティーに入ってくれませんか?」



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