依頼と謝罪
4000字=12時間強……ヤバすぎィィィィッ!
遅筆の原因:
「君が待ぁっていてもいなくても~♪ はっしるよぉ~♪
このまま足を動かせばぁ~♪ 光になるっ♪」
(/・ω・)/ ひゃっほい!
……投稿遅くて、本当に申し訳ございません_(._.)_
「では、国王様のご依頼をお伝えします。 エルシア殿とレオン殿には、私とともに迷宮『魔女の霊廟』を攻略していただきたいのです」
魔女の霊廟……帝都の図書館に所蔵されている『世界の迷宮辞典』に詳しい詳細が載っていたのを覚えている。
レスティー王国の最北端に位置する小さな町『ポルン』。
町を見下ろすことができる丘の上には、およそ霊廟の名にふさわしくない、城塞のごとき巨大な建築物が建てられている。
その建築物こそ『魔女の霊廟』。
外観は名前負け……いや、どちらかと言うと名前勝ちしているが、建物の中に入ってみれば『霊廟』の意味が分かるだろう。
真っ暗な霊廟内は、道が複雑に入り組んでいて、所々に小さな部屋がある。
その小部屋の床に、木棺やら石棺……死体をしまう棺桶が整然と並べられていて、その様を見た冒険者が、町『ポルン』に伝わる魔女伝説と合わせて『魔女の霊廟』と名付けたのだ。
まぁ……棺桶の中身は、いまも元気に霊廟を徘徊しているのだが。
出現する主なモンスターは、死霊、骸骨、骸蜘蛛、擬宝箱。
死霊や骸骨は通常、自然発生するものではない。
やつらは魔力の満ち溢れた魔鉱石の鉱山や、傀儡竜の縄張りなど、何かしらの条件を満たした場所で発生する。
つまり『魔女の霊廟』には何かがあるわけで……まぁ、それが何なのかはまだ分かっていないが。
ちなみに、『魔女の霊廟』に入った冒険者の生存率、帰還率は1~2%と驚くほど低い。
高級アイテム『帰路導のお香』を持った白金ランクの冒険者でさえも、帰還率5%……この迷宮に潜る奴は正気の沙汰じゃないと、『世界の迷宮辞典』にも載っていた。
「魔女の……霊廟」
「ん? どうしたんだ?」
ふと、隣に座っていたエルシアが小さな声で何かを呟いた。
振り向くと、震えながら怯える世界屈指の剣士、『剣姫』が目に入る。
「たしか『魔女の霊廟』って……ホラー系迷宮の1つだったわよね?」
「そういった類に属する迷宮ではありますね」
「ホラー系迷宮か。 他に、『人形館』や『悪魔の棲む町:ジェンタイル』なんてのもあったな……それがどうかしたのか?」
「べ、別に……それで、どうして国王様がそんなご依頼を私たちに?」
「ふぅ」と息を整えて、エルシアは話を元に戻した。
まだ顔はどこか青白い……が、とりあえず震えは治まっている。
怖いのが苦手なのか?
「色々と事情はあるのですが……『魔女の霊廟』がある丘の下に、町があるのをご存知ですか?」
ヴィルヘルムさんの質問に対して、エルシアは申し訳なさそうな表情で首を横に振り、「知らない」と返答した。
「いえいえ、お気遣いなく……」と、紳士的な微笑みを浮かべたヴィルヘルムさんは、今度は紫色の隻眼を俺の方へ向ける。
「貿易町ポルン……隣接する『セヴェロスク』共和国との交易で生計を立てている小さな町ですよね」
「おぉ、よく知っていますね。 レオン殿は地理についてお詳しいのですか?」
「たまたま、知る機会があっただけです」
「……そうですか。 では、ポルンの町に伝わる魔女伝説は?」
ほんの僅かに、白髪の青年は俺に値踏みするような視線を向けた……気がしたが、ヴィルヘルムさんはすぐに笑顔でそれを隠してしまった。
「えぇと、たしか……『月光降る澄み切った晩刻に、丘の上から流れ落ちる霧は魔女の吐息。 凶兆たる霧が町を覆う前に、家人は玄関を固く閉ざし、妻子を物置の奥に隠せ。 霞み深き暗闇を、命無き死霊たちが仲間を求めて彷徨い歩く。 墓地にはけっして近づくな、魔女に肉体を奪われたくないのなら』だったかと」
これは『世界の伝説集』に載っていた、ポルンの町に古くから伝わる魔女伝説の原文である。
世の中には様々な伝説が残っている。
それらは胸躍る冒険話だったり、子供が泣き叫ぶような怖い話だったり……夢が膨らむと言うものだが。
『竜騎士の正体見たり赤小竜と仲良くなった小鬼』とはよく言ったものだ。
「……素晴らしい、完璧です。 おや? エルシア殿、どうなされましたか?」
ヴィルヘルムさんが感嘆の声を漏らしてくれたので、「ありがとうございます」と簡単に会釈。
そんな俺の横でエルシアは、両手でしっかりと耳をふさぎ、縮こまるように体を曲げて、小さく震えていた。
「おい、大丈夫か……?」
「…………はっ………なんでもないわ、大丈夫よ。 話の続きをお願いします」
声を掛けるとエルシアは一瞬大きく体を震わせ、その後、まるで何事もなかったかのような毅然とした顔をあげた。
まぁ、透き通るような黄色の瞳は、少し涙で潤んでいる。
続きも何も……聞いてなかったよね?
「分かりました、話を続けましょう。 その魔女伝説なのですが……おそらく本当の話です」
「それは……どういうことですか?」
「深い霧が町を包みこむと、決まって失踪事件や墓荒らしが起きるのです。 他にも、黒いローブを着た巨大な影の目撃情報……町の住民はみな怯えています。 特にひどいのが失踪事件で、年に200件以上起きているのです」
「200件以上ですか、それは異常な数字……耳ふさぐの早いな、おい」
すでにエルシアは、耳をふさいでNO聴覚状態。
なるほど、怖いのが苦手なんだな。
「フフフ、まぁいいでしょう。 ……レオン殿、失踪事件の被害者には偏りがあるんです。 どういった人達が狙われやすいか分かりますか?」
果たしてこの質問は、今回の依頼に関係があるのだろうのか?
分からないが……そうだな。
「冒険者と……セヴェロスク共和国から訪れる行商人でしょうね。 町の人々は伝説を信じて、霧の夜には家に立てこもる。 外を歩いているのは、伝説を信じていない気位の高い冒険者たちと、長旅の疲れを癒そうと開いている酒場はないか探しまわっている行商人……どうでしょうか?」
「その通りです。 ポルンはセヴェロスク共和国とレスティー王国をつなぐ貿易の町……行商人と彼らを守る冒険者たちは、町に着いたらまずお祝いの酒盛りをするでしょう。 旅の途中では、カチコチに固まったパンか、良くて干し肉しか食べることが出来ない。 町の料理はおいしいですし、久しぶりのお酒は体に染み渡る……そんな気分の良いときに『魔女が出る』なんて言われても、どうせ小鬼か牙狼の仕業だろうと、呑気に町を歩き回る。 そして―――」
「そして彼らは姿を消してしまう……か。 そういえば、レスティー王国とセヴェロスク共和国は昔から仲が良かったですよね。 そして、今回の依頼主はレスティー王国の国王陛下……なるほど」
「……レオン殿は、本当に察しが良いですね」
「仲良くしていきたい友達との間には、煩わしい問題などあってはならない」
レスティー王国は……弱小国家だ。
ソファーにゆったりと腰を下ろす白髪の美青年、『隻眼の戦曲師』がいてくれるおかげで辛うじて存続できているに過ぎない。
ヴィルヘルムさんがいなくなれば、アルムス帝国もメイフィールド聖王国も即座に大軍を動かし、レスティー王国を攻め滅ぼす。
そんなレスティー王国の国王は、セヴェロスク共和国……(自称)民主制の軍事国家と親密な関係を築いていたままでいたい筈だ。
共和国まで攻め込んできたら……1日もかからないうちに消し飛ぶ。
だからこそ、共和国との貿易のかなめであるポルンの町で、共和国の行商人、冒険者が相次いで失踪することなどあってはならない。
各地に点在する自国の行商人・冒険者ギルドから納められる税金は計り知れないほど高額で、それを損なうことは共和国にとって大きな痛手……ともすれば、失踪事件に王国の関与があるのではないかと疑われてしまう。
よって、事件の元凶であろう迷宮『魔女の霊廟』の攻略を、国王陛下は望んでおられる。
―――しかし、
「ですが……俺は銀ランク冒険者。 迷宮が解禁されるのは金ランクからです。 ですから―――」
「それについては心配ございません。 ご依頼をお受けしていただけるのであれば、国王陛下と私の権限で、レオン殿には金ランクの称号を授与します。 まぁ、『魔女の霊廟』の推奨ランクは白金ランクですが……金ランク冒険者も探索可能ですからね」
「金ランク授与……たしかにそれなら問題ありませんね」
「レオン殿は妖樹を倒した功績もありますし、白金ランクでも十分な実力をお持ちですが、まぁひとまずは金ランクということで。 ご依頼……受けて貰えますか?」
差し伸べられる手……所々に古傷のある掌は、冒険者という職業の過酷さを重々しく物語っていた。
誰よりも冒険をして数多の困難、苦難を乗り越えてきた『英雄』と、まだまだ経験は浅いが類まれなる才能を持つ『剣姫』……まぁ、『剣姫』は隣でまだ耳をふさいで震えているが、この2人がいれば、迷宮攻略はきっと達成できる。
俺も微力だけれど、2人の助けになれるだろう……冒険者になってから、それはもう色々な魔法を試して臨機応変な対処ができるようになった。
アメジストのような紫色の隻眼でこちらの様子をうかがう青年の手を取れば、俺も晴れて金ランク冒険者……。
「申し訳ございません……そのご依頼を受けることは出来ません」




