付け足し その2
「ゴブリンから離れてくれ、一気に片を付ける!」
残っているゴブリンは7体。
ゴブリンメイジと、それを守護する2体の通常種。
3体の通常種に援護されながらも、片腕だけでマルクたちと渡り合っているゴブリンウォーリアー。
今まではマルクたちのレベル上げを邪魔しないために、あまり手を出さないで魔法使いらしく援護目的の攻撃しかしてこなかった。
一瞬、マルクたちは困惑した顔をこちらに向けたが、すぐに後ろに飛び退き、ゴブリンたちから距離を取る。
隙をついて、ゴブリンウォーリアーが追撃しようと足を前に踏み込んだ。
―――だが、
「まだまだ遅いな、雷縛<サンダー・バインド>!」
追撃する暇など与えない。
地面に手を触れ魔力を流し、魔方陣を刻み込む。
暗き森の苔や草が生える荒々しい大地に浮かび上がる、黄色に輝く魔方陣。
そこから白い閃光が7つ、地面を這うようにゴブリンへ向かい、ゴブリンの足元まで行くとバリバリと音を立てながら雷の柱を打ち上げた。
『『『アガァァァッ!』』』
「あ、ちょっとだけ俺もピリッと来た」
ゴブリンの薄い体毛が焦げて、煙をあげる。
生きてはいるが、紅い瞳は虚ろに揺れ、口は半開き状態。
ゴブリンウォーリアーは危険を感じ取り身をよじって回避しようとしたが、持っていた鉄剣に電撃が吸い寄せられ、他のゴブリンたちと同様に痺れて動けなくなった。
そして、魔方陣に触れていた俺にもピリッと指に電気が走る。
「この魔法は少し改良した方がいいな。 まぁ、いい。 氷結領域<アイス・フィールド>」
身動きの取れないゴブリンたちの周りに、凍てつくような白い魔方陣が無数に浮かび上がる。
魔方陣はゴブリンたちを取り囲み、外の世界と隔絶した。
嵐の吹き荒れるような音が中から聞こえてくる。
数秒後、すべての魔方陣がガラスを勢いよく割ったように弾け、それとともに極小の氷の粒が霧散した。
キラキラと輝く氷の粒は、森を漂い消えていく。
周りの気温が一気に下がる。
魔方陣に包まれていたゴブリンたちの姿は、今はもうない。
それだけでなく苔や草、枯れ木などもすべて消え、無機質な地面が円を描くように広がっていた。
―――ゴブリンたちは氷の塵になったのだ。
「……跡形もなく消えてしまいましたね」
「……凄まじい魔法なのだ」
「というか、凄まじすぎるだろ!」
「いや、この魔法はまだまだ未完成だ」
一変した絶景を目の前にしたマルクとレスターは、恐怖で少し顔を引きつらせながら驚いた。
驚きすぎて、武器を構えたまま立ち尽くしている。
カインは……いつものカインだ。
毎度、大げさに驚いてくれるので見てて面白い。
通常の魔法は体のすぐ近く、掌の前に魔方陣を出現させ発動する。
魔方陣を体から遠く離れて出現させるには、特別な術式と高い魔法操作力、そして時間が必要になるからだ。
そんな発動するのが大変な魔法が、この氷結領域<アイス・フィールド>だ。
「特別な術式」を禁書の解読によって得た俺が水・風・火属性の魔法と組み合わせて作ったのだが、あまり評判は良くなかった。
たしかに、威力はすごい。
当たれば必殺、敵は跡形もなく消滅することだろう。
だが、発動するのが難しすぎる。
魔力もかなり消費するし、魔方陣を作り出すのがアホみたいに難しい。
しかも、魔方陣形成に時間がかかりすぎて、バインド系の魔法を使ってからじゃないと、敵に避けられて終了だ。
まさに「ロマン砲」、漢の夢。
あまり実用的ではないので、これと言った理由がないときは炎大槍<ブレイズ・バリスタ>を使った方がいいだろう。
「気配探知<サーチ>―――騒がしすぎたか、こっちに向かってくる」
「何がですか?」
「なんかめっちゃ嫌な予感がするんだが……」
「なかなかいい感を持ってるな、カイン。 みんなは素材の回収をしててくれ、俺1人で行ってくる」
マルクたちには消えなかった5体のゴブリンの死体から素材を剥ぎ取って貰い、その間に俺がオークを倒す。
オーク討伐の推奨ランクは金。
まだマルクたちには早すぎるモンスターだ。
……今気づいたのだが、ゴブリンウォーリアーもゴブリンメイジも塵と化してしまったため、換金素材はおろか討伐証明部位もサラサラとどこかに行ってしまった。
ポイント貰えないじゃん。
ランク昇格できないじゃん。
何やってんだ、俺は。
「ロマン砲」なんて使うもんじゃないな。
(作者もいま気づきました、クソワロタ。 イイ感じにランク昇格しておきます)
「待ってください!」
気配探知の導きに従って1人歩き出す俺の肩をマルクが掴んだ。
振り向くと、マルク、レスター、カインの3人がじっとこちらを見つめていた。
「レオンさん1人で行かせるわけにはいきませんよ」
「何が出てくるのか分からねーが、俺様が片付けてやるぜ!」
「4人で戦った方が安全だと思うのだ」
「……いや、今回の相手は今までとは違うんだ」
パーティーを組んだなら、いついかなる時でも共に冒険をしなければならない。
冒険者の心得みたいなものだ。
パーティーメンバーの安全を保障できない場合、できるだけ戦闘を避けて撤退するのがセオリー。
俺1人なら簡単にオークを倒すことが出来るが、マルクたちのレベル上げのために援護役として行動するとなると、いささか安全面に欠ける。
かと言って、討伐せず放置するには勿体ないモンスターだ。
討伐ポイント250、ゴブリン約14体分のポイントを逃すのは惜しい。
……何より、強敵を屠りたい衝動をもう抑えられない。
―――ドォォン……ドォォォン
地鳴りが近づいてくる。
オークの体は、自身の巨体を支えるために驚くほど筋肉が発達している。
木の幹のように太い四肢、刃を通すのが困難なほど硬い筋肉。
しかも、岩のようにゴツゴツとした外皮が覆っている。
……マルクたちの攻撃では、この防壁を破ることは出来ないだろう。
「なんだこの音は!?」
「森の王者、オークだ。 ……まだオークは早い、俺1人で殺る」
「オーク……たしかにレオンさんなら勝てると思います。 ……私がいては足手まといになることも分かってます。 それでも……私も一緒に戦いたいです」
マルクの碧眼がまっすぐと俺の目を見つめる。
強い決意……『鋼鉄の鎧』リーダーとして、彼にも譲れないものがあるのだろう。
……困ったな。
「……2人はどうなんだ?」
「そ、そんなの決まってるぜ! お、俺だって戦う!」
「私も戦いのだ」
「そうか……ちょっと待っててくれ。 能力強化<フォース・アップ>」
自分を含む4人に能力強化の魔法をかけた。
オークはもう、すぐそこまで来ている。
俺は地鳴りのする方へゆっくりと向かった。
「レオンさん!?」
『ガァァァァァァァッ!』
森の奥で大きな黒い影が揺れる、オークと目が合った。
その瞬間、オークは重心を前に倒し、勢いよくこちらに向かってきた。
邪魔な木々をなぎ倒しながら、手に持った棍棒を振り上げる。
そしてそのまま、突っ立ったままの俺に一撃、振りかぶった棍棒を横に振り切った。
だらんと下げていた腕が、バキバキと音を立てながらぐにゃりと有り得ない方向へ曲がる。
そのまま俺は吹き飛ばされ、砂まみれになりながら地面に倒れ込んだ。
『ウガァァァァァァ―――』
「痛ぇぇっ!」
『ガッ!?』
「あ~~、やっぱり無傷とはいかないな。 ……片腕の複雑骨折、あと肋骨も何本か逝ったか。 だけど能力強化はすごいな、ちゃんと生きてた。 回復!」
「……レオンさん、大丈夫ですか?」
「なんとかな。 頭を打たれればたぶん即死だが、それ以外なら回復でどうにかなる」
身を張って分かったこと。
以前は、飛び散った石礫だけでも瀕死の重傷だったのに、能力強化をかけた今は直撃を受けても生き残れる。
能力強化……この魔法を開発した奴は天才だ。
これなら、マルクたちも注意して戦えば大丈夫だろう。
『ウォォォォォォォォォッ!』
「十分気を付けて立ち回りながら戦うぞ」
「―――分かりました!」
殺したはずなのにピンピンしている俺を憎らし気に睨みながら、オークが雄叫びをあげる。
「うおぉぉぉぉぉぉ―――」
―――ガキンッ!
「くっ!」
マルクが背後に回って切りつけたが、岩のように硬い外皮によって刃が跳ね返される。
能力強化で攻撃力が上がっていても、外皮の防壁を破ることは出来ない。
『ガァァァッ!』
「私がパーティーの盾なのだ!」
背中に違和感を感じたオークは俺から目をそらし、後ろに振り向きながら棍棒で背後を薙ぎ払う。
棍棒の重い一撃をレスターがメイスで受け止め、マルクを守った。
「俺のことも忘れるんじゃねぇぞ!」
カインが、オークの弱点である目や口めがけて矢を放つ。
オークは頭をずらして矢を回避した。
マルクが剣で攻撃し、レスターが敵の攻撃から仲間を守り、カインが敵の注意をそらす。
チームとしての連携は完成されつつある。
しかし、このままでは決定打のないマルクたちの方が不利。
「敵を倒す突破口を、風鳥刃<フェザー・ナイフ>!」
血がわずかに飛び散る。
風の刃がオークの外皮を切り裂き、内側の肉を少しだけ傷つけた。
場所は胸、傷ついた外皮に剣をねじり込めば心臓を破壊できる。
『グオォォォォォォォォッ!』
「マルク、やっちまえ」
「はいっ!」
マルクは俺の意図を理解し、胸の傷に狙いを定め走り出す。
オークは向かってくるマルクに棍棒を振り下ろしたが、レスターがメイスで軌道をそらし直撃を防いだ。
棍棒の一撃を防がれたオークは、今度は空いた左手でマルクを握りつぶそうと、大きな掌をマルクに伸ばす。
右目に走る激痛、カインが矢で弱点の目を射止めてオークを怯ませた。
そして、
「倒れろ、オークッ!」
―――ザクッ、ググ……ブシャァッ。
『グァァァァ……ァッ』
冷たく光る刀身が、オークの中に埋もれていく。
硬い筋肉を突き抜け、何か柔らかい物を貫いた感覚。
マルクは思い切り剣を引き抜いた。
オークは鮮血を吹き出しながら膝をつき、消え入るような声をあげた後、ドスンと背中から倒れ込んだ。
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「ちょっと待ってくれ!」
「いきなりどうしたんだ、カイン?」
本日の戦闘を終え町に戻った。
露店や人で賑わう大通りを通り抜け、ギルドへと向かう。
ギルドの扉を開けようと手を伸ばすと、突然、カインが俺の動きを制止した。
子供が悪さをするときの笑み……こいつは何を考えているのだろうか?
「オークの耳を出してくれ」
「まぁ、いいが……何をする気だ?」
「フフフ……こうするんだ!」
俺は素材を入れた袋からオークの耳を取り出し、カインに渡した。
耳の端を掴みながら、にやりと笑うカイン。
カインは勢いよくギルドの扉を開けると、周りの冒険者たちに見せつけるようにオークの耳を掲げて、
「見ろ! 俺様が森にすむ強大なオークを倒してやったぜ!」
と、カッコつけながら言い放った。
せっせと仕事をしていたギルドの職員も、狩りを終えて仲間たちと酒を飲んでいた冒険者たちも、みな一様に静まり返る。
「な、なんだいきなり……?」と言いたげな視線が俺たちに集中した。
「なに馬鹿なことやってるんですか、バカイン!」
「ヘブッ!」
「もの凄く恥ずかしいのだ……」
「……バカインってなんか響きがいいな、今度から俺も使おう。 レスターとバカインはいつものように酒場で待っててくれ。 俺とマルクで精算に行ってくるから」
マルクが思い切りカインの頭を叩き、持っていた耳が宙を舞う。
俺は吹っ飛んだ耳をキャッチし、そのまま受付カウンターへと向かった。
銅ランクの時点でオークを倒せたのはすごく嬉しい事なのだろうが、もうちょっと自重して欲しい所ではある。
カウンターでは、受付嬢さんがじっとこちらを見ていた。
相変わらずの、肩で切りそろえた茶髪、縁の細い眼鏡、品のある碧眼。
いつものクールな無表情なのだが……少しだけ違和感を覚えた。
……あ、いつも無表情な受付嬢さんの眉と眉の間に、一筋の小さな皺ができている。
たぶん、ちょっと怒っていらっしゃる。
「あの……オークは討伐推奨ランク『金』なのですが」
「いや、その……たまたま遭遇したんで、4人で協力して……な?」
「はぁ……危険ですので今度からは遭遇しても逃げるようにしてください」
「困った人だ」と小さなため息をつく受付嬢さん。
すみません、たぶんこれからもランクに反した強敵に挑むことがあると思うので、心配をお掛けすることになりそうです。
討伐証明部位と換金素材をカウンターに並べる。
250Pのオーク、18Pのゴブリン5体……そして、12Pのファング・ウルフ6体の耳。
高ポイントのゴブリン上位種2体と、5体の通常種ゴブリンを塵と化してしまい、「ランク昇格できないじゃん」と悲観していた俺だったが、良いことを思い出した。
オークは俺たちに倒される前に、牙狼の群れと戦っていた。
―――オークが倒してくれた牙狼たちから、討伐証明部位を剥ぎ取ろう!
モンスター同士の闘争に遭遇した場合、生き残ったモンスターをちゃんと討伐すれば、闘争で死んだモンスターからも討伐証明部位を剥ぎ取っていいことになっている。
だから、別に違法ではない。
ポイントの取り方として少々ダサいのは認める。
「……この牙狼の耳、ぺちゃんこに潰れていますね」
「いや……まぁ、そうだな」
「オークが倒した牙狼ですね」
「いや………まぁ、はい」
「合計412ポイント、4人で割れば103ポイント……そういえば、レオンさんは残り102ポイントで銅ランクに昇格でしたね。 おめでとうございます、これでレオンさんも銅ランク冒険者です。 それに、1週間でランク昇格は新記録です、おめでとうございます」
「いや……まぁ、ありがとう」
「ですが……」
受付嬢さんの口元が少し緩み、口角が上がる。
こうしてみると、受付嬢さんは案外、表情に感情が出るタイプなのかもしれない。
受付嬢さんは少しだけ微笑みながら言った。
「オークのおかげでギリギリランク昇格というのは少々カッコ悪いですね」
「……言ってくれるな、俺もちょっと気にしてるんだ」
世界各国に散らばる冒険者ギルド、そのすべてにパーティー『鋼鉄の鎧』と俺の名が広まった。
低ランクパーティーにもかかわらず、オークを倒した冒険者集団。
そしてそのパーティーの一員である、最強の剣士である『剣姫』の記録を打ち破り、7日間で銅ランクに昇格した魔法使い。
彼らの冒険はまだまだ続くが、とりあえずこれで2章は終わりにしようと思う。
byマッツィーニ




