88.嫁と一緒に露天風呂に入るには。
「え、じゃないわよ。嫌に決まってるでしょ?」
「なんでだよ、家ではいつも一緒に入ってたじゃないか。」
「家は家、外は外よ。」
「何が違うっていうんだよ。」
「何もかも違うでしょ。特にここじゃアリスちゃん達に丸見えなのよ?一緒になんて入れるわけないじゃない。」
「.........ん?つまり俺の裸を他の女に見せたくないと?」
「.....................一緒に入ってるのを見られたくないのよ。」
その間は図星だと言っているようなものだ。
「とにかく駄目よ。」
「いや、そういう事ならなんとかさせて貰おう。」
どうしようも出来ない理由ならともかくそれなら対処の仕様はいくらでもある。
少し対処するだけでイザナと一緒にお風呂に入れるなら安いものだ。
「なんとかってどうするの?」
「ん、ちょっと待ってくれな。」
要は俺達が入っている時に周りから見られなければいいのだ。
それならば、
「不可視結界。」
唱えてから俺とイザナの周り、浴槽ごと魔法で包み込むように結界を張った。
「これは?」
「戦争中には見せる機会無かったな。まぁ、名前の通りだよ。これは内側からは普通に見えるが、外からの視界を遮る結界だ。」
今頃外から見れば俺達の周りは真っ暗で何も見えなくなっているはずだ。
「ふーん。ありがと。」
「お、おう。」
俺がただイザナと一緒にお風呂に入りたいが為にやった事で、お礼を言って貰えるのは少し驚きだ。
「まぁ、これなら周りからの視線に注意するら必要もないだろ。」
イザナは俺と一緒に入ってくれるといっても、まずアリス達と一緒に入るだろうからな、我が家の美少女達が揃って裸になるのだからないとは思うが辺りに注意をしなければならない。
覗き魔がいようものなら即刻消し炭にしてくれる。
「まぁ、一番覗きそうなのは今私の目の前にいるけどね。」
............誰のことやら。
「でも周囲への警戒を解いて入れるのは悪くないわ。」
まぁ、お風呂は体を洗う、そしてリラックスする場所だからな。
辺りに警戒しながら神経尖らせてなど、到底リラックス出来ないだろう。
「あれ.........おにいさん、どこです?」
「パパ......?、ママ......?」
と、結界の中でイザナと話していると、子供2人の俺達を探す声が聞こえてきた。
「おっと、そろそろ出ておくか。これに壁としての効果はないからそのまま出入りしてくれればいいぞ。」
「ん。」
俺とイザナは不可視の結界をすり抜けて外へと出た。
我が家に張っている結界や、今回の不可視など、こういう実体を持たない結界は効果を持たせるのに少々の魔法技術が必要ではあるが、圧倒的に消費魔力が少なく済むし、出入りする時にいちいち魔法を解かなくて良いから便利なものだ。
「はるとぉ!」
「.........おう、飯食べ終わったみたいだな。」
そして目も覚めたみたいだな。
「あれ凄い美味しかったよっ!初めて食べた!」
「そうか、それは良かったな。」
イザナも満更でもなく嬉しそうな顔をしているし本当に良かった。
きっとイザナが作ったと言えば意見を翻して余計な事を言うだろうしここは黙っておくのが一番だろう。
「さて、それじゃあ皆で風呂に入ってくれ。もうお湯は張ってるからさ。」
「はい。」
「うん。」
「分かりました。」
サヤナ、アリス、フィオルの三人はイザナに促されて恐る恐る外部から見ると真っ暗な結界の中へと入って行った。
「さて、ほら、リンジュも行けよ。」
「あたしは入らないよっ!?」
「なんでだよ、昨日あれだけ動いたんだから汗もかいてるだろ。」
「かいてないもん!それに狐なんかと一緒になんて入れるわけっ「別にその貧相な体を笑ったりしないから早くしなさいよ。」なんだと、この女狐ェッ!お前だって大して大きくないくせにっ!」
......ちがうぞ、リンジュ。
大きさが全てじゃないんだ。イザナの胸は大きくこそないが、俺の手にちょうどすっぽりと収ま............とこんな事を言っていたら変態だと思われてしまう。
「私は鳥と違って自分の身体に自信があるから構わないわ。」
「あ、あたしだって自信あるもんっ!」
「ふーん。」
「か、かか、可哀想な物を見るような目で見るなぁっ!」
「とにかくさっさとお風呂に入るわよ。あんまりグズグズ言ってると明日ここに置いていくよ?私達の家の場所知らないでしょ。」
「うぐっ.........は、はるとぉ......。」
俺に助けを求められても...。
今の俺の頭の中はリンジュの事よりも、リンジュ達がお風呂を済ませた後のイザナとのお風呂だからな。
正直、イザナと同意でさっさと入ってもらいたい。
「まぁ、せっかく俺が魔法でお湯を張ったんだしさ。気持ちいいと思うから入ってくれないか?もしイザナ達と入ってくれなかったら例の約束を守れる保証が無くなってしまうぞ?」
「う、うぅ、入るぅ.........。」
途中まで優しく説得するつもりだったが、聞き入れそうにないリンジュの表情に手っ取り早く切り札を使う。
リンジュは俺の脅しという名の切り札に目にじわりと涙を浮かべながらもしぶしぶ不可視の結界の中へと入って行った。
毎度脅していくのは心苦しいものがあるが、イザナと早く打ち解ける為にもこういう事は避けるべきではない。
「じゃあ私も入るから周りの見張りをお願いね。」
「あぁ。任せてくれ。」