87.初めての野営食
「出来たわよ。」
アリスとフィオルの2人とツイスターで戯れていると、美味しそうな匂いを漂わせてイザナが知らせに来た。
「いい匂いだな。」
「初めて作る料理だからあまり上手くは作れなかったけどね。」
イザナはそう言いながら6人分が入った鍋から各皿へと盛り付けた。
「お、それってもしかしてカレーライスか?」
「そうよ。作り方分からないから味を再現させてみた。食べてみて。」
「いただきます。」
味見のつもりで皆より先に一口、口へと運ぶ。
料理の出来ない俺からすれば一度食べたものの味を思い出して再現するなんて到底無理な話だが、この香辛料の効いた良い香り、そしてほんのり甘くそして辛いこれは当然全く同じとはいかないまでもとてもきちんとカレーライスになっていた。
「美味いっ!」
「おいひぃ!」
「はいっ、とっても美味しいですっ!」
俺とアリス、フィオルの三人はそう言って子供のようにカレーをカツカツと口へ早足で運び、イザナとサヤナはそんな俺達を母親のような暖かい目で見守りながらゆっくりと食べていた。
そして皆食べ終わって5人揃ってごちそうさまをすると、アリスとフィオルがここぞとばかりに皿洗いの手伝いを申し出て、4人はそれぞれ分担して片付けを始めた。
俺も手伝いをすると言いはしたのだが、ずっと馬車を引いていたのだから休めと言われた。
そもそも片付けに5人もいらないらしい。
何もする事がなく、馬車へ乗り込んでリンジュの向かいに腰をかけると、俺の気配で目が覚めたのかリンジュが目を覚ました。
「う、うにゅぅぅう。」
「起こしたか?どうだ、少しは良くなったか?」
「..................。」
ずっと眠っていたから寝ぼけているのだろう、リンジュは何も言わずに少し頭を横へ傾けて俺の服を掴んだ。
ちょっと脅かせばすぐに頭も覚醒するだろうが、その必要もないだろう。
俺がトントンとリンジュの背中を叩くと、叩いた所からひょこっと翼が姿を表した。
「少しは回復しているみたいだな。」
リンジュほどの魔力量ならもっと回復してもおかしくないが、寝ていてこの程度という事は魔力操作のセンスはほんとに絶望的だ。
フィオルに魔法の使い方を教えて欲しいと頼まれ、家に帰ってからということになっているが、これはリンジュも一緒に教えた方が良さそうだな。
「......おはよぉ。」
「お、ようやく目が覚めたか。」
やっと頭が働きだしたリンジュは眠そうに目をコシコシと手で擦った。
「腹減ってるだろ。カレー用意してるから食べてこいよ。」
「......うん。」
リンジュは惜しそうに俺の服から手を離すと馬車を降りていった。
寝起きが静かで大人しいのは昔からの事で、毎度寝起きのリンジュを見る度に思う。
素がこれならとっても可愛い女の子なのにな、と。
「さて、片付けも時期に終わるだろうし、風呂の準備でもしておくか。」
馬車を降りるとリンジュがカレーを食べているのを横目に既に作っている結界へお湯を張る。
「お湯入れたのね。」
「ああ、もう入るだろ?」
「鳥が食べ終わったらね。」
「そっか、そうだな。それで、えーっと。」
「なに?」
「......俺は?」
「後で入ればいいでしょ?」
「............そうだな。」
もはや期待すら殆どしていないが僅かな可能性でも一応聞いておくのは大切な事だ。
だがまぁ、サヤナ達の裸は諦めるとして、せめてもの救い、イザナとのお風呂は楽しませて貰うとするか。
「じゃあ後で一緒に入ろうな。」
「嫌よ。」
「......えっ?!」