86.外でのお風呂事情
そしてサヤナ、アリス、フィオルの3人がサヤナの指示の元に野営の準備をしている間、俺とイザナはこれからの方針について話していた。
「何日で着く予定なの?」
「うーん、どうだろう、急げば5日くらいじゃないか?」
ハウサラスまで俺達の家から行ったのは今回が初だったし、それも一人で全力で走っての話だからな。
いまいち正確な日数は分からない。
「ふーん......。」
「ん、何か急ぎの用事でもあるのか?」
あ、いや、急いで帰らなくてもいいとは言っていたし問題は馬車での移動日数か。
「うん、寝るのは馬車でアリスちゃん達を寝させて私達は外でいいんだけど、問題は、」
「問題は?」
「お風呂どうしようかなって。」
「..................シャワーなら出せるぞ?」
右手を誰もいない方へ向けていつも風呂でやっている通りにお湯を出して見せる。
「うん、それは分かってるんだけど、アリスちゃん達も洗ってあげないとでしょ?」
「よし、もういっその事みんな一緒に洗ってしまうかっ!」
「そんな期待に満ちた顔で言われても同意なんてありえないし。だから今日はともかく明日からは近くの村とかを経由しながら宿に止まった方がいいかなって。」
くっ、この状況でも一緒にお風呂は駄目なのか......。
「はぁ。まぁ、でもお風呂に関しては問題ないぞ。」
「どうして?」
「食料なんかの事もあるから街には寄るが風呂に関しては魔法でどうにでもなる。」
俺はそう言うとお得意の結界を浴槽を模して作り、そこへお湯を流し込んだ。
「これで問題ないだろ?」
「.........結婚して初めて感心した。」
結婚220年も経っていてっ?!
まぁ、嬉しいけれどもっ!
「あ、ちなみにリサが厨房に作ってるように下に空間を作ることも出来るぞ。」
結界に溜まっお湯を少し持ち上げて一層増やす。
これで下からの見学スペースの出来上がりだ。
「...............。」
「あ、はい、視線だけで十分に理解しました。ごめんなさい......。」
イザナの瞳に写っていたのは怒りなどではなく、それは呆れだった。
「ハルト様、準備出来ました。」
「おわった!」
「お手伝いしましたぁ。」
俺がイザナの視線から目を逸らしていると言葉の通り、野営に必要な粗方の荷物を下ろした3人が戻ってきた。
「おつかれ、ありがとうな。さて、準備も出来たことだし夕食作り頼む。」
「うん。食材と調味料は料理が出来ないハルトが準備したせいで色々と足りないけどなんとか作ってみるわ。」
「............ご、ごめんなさい。」
馬車を引いている最中、イザナに気付いて言われたのだが、色々と足りなかったそうだ。
サヤナくらいは買い出しに付き合わせた方が良かったな。
「じゃあ私とサヤナちゃんは夕食の支度するから子供3人は遊んでて。」
「うんっ!」
「はいですっ!」
「おう。............ん、子供3人?」
まぁ、いいか。
「さて、それじゃあ......って、そういえばリンジュはどうしてるんだ?」
馬車に乗り込んでから少しの間は声が聞こえていた気がしたがそれからかなりの時間あの騒がしいリンジュの事を俺がすっかり忘れる程に静かだ。
「リンジュ、寝てるよ。」
「あぁ、どうりで静かなはずだ。」
アリスに言われてちらっと中を覗きに馬車へと乗る。
そこにはクカー、クカーと城の時と同じようにいびきをかきながら大きなぬいぐるみに抱き着いて眠るリンジュの姿があった。
「......寝てるとほんとに可愛いんだよな。」
普段はうるさく、そして鬱陶しすぎて可愛さなんて掻き消えてしまっている。
「にしてもこんなに長い間寝てるって事はやっぱり相当無理してたんだろうな。」
俺のように魔力を上手く動かして治癒速度を上げられるなら一番良いが、それが出来ない魔族は大抵寝ている時が無意識下に治癒速度が上がる。
故に身体への損傷が激しい場合は一度眠りにつくと眠りが深くなりなかなか目覚めなくなるのだ。