82.敵か味方か。
「も......もうむり......はぴゃっ。」
俺達がアリスとフィオルのゲームの行く末を見ていると、アリスの上で苦しい表情をしていたフィオルが遂に力尽き、アリスと一緒に潰れた。
「...はぁ、はぁ......勝ったぁ......。」
フィオルの下敷きになりながらも勝利を掴んだアリスは弱々しい拳を少しだけ浮かせた。
「アリスは強いなぁ、それにフィオルもよく頑張った。」
「...うん!」
「は、はいっ!」
褒めて頭を撫でると二人とも嬉しそうに俺の手を触った。
「さて、リサの目の保養が済んだ所でそろそろ帰ることにするよ。」
「そっかぁ.........。でも絶対また来てねぇっ?!」
「おう。」
「はるっちも、まぁ、いいけど、女の子達は絶対だよっ!?」
ちょっと失礼すぎないかっ?!
「.........まぁ、善処するよ。」
次いつ来るか...。
戦争中ならアリス達は当然連れてこられないし、観光目的なら皆連れてくる。
それはこれからの展開次第だろう。
あ、そういえばリサにも一応勇者について知らせておいた方がいいか。
「イザナ、悪いがリサと話があるからここの荷物を外に運び出しててくれるか?」
「ん。じゃあ、外で待ってるね。」
「あぁ。」
イザナはそう言うと重ねられている木箱をひょいっと持ち上げた。
そして、さっきまでツイスターで疲れきっていた2人もお手伝いしたいとの事で一つづつ手に持ち、残りをサヤナが持って四人で一度に全ての木箱を持つと部屋を出ていった。
「で、話って何かなぁ?!もしかしてサヤナちゃんをうちで働かせる気に「なってねぇよ。」.........じゃあなに?」
さっきまでサヤナがお手伝いしていた事もあり、割と期待していたのか俺の言葉を聞くなりリサのテンションはガクンと落ちた。
「期待してるとこ悪かったな。話は勇者召喚についてだ。」
「勇者召喚?」
「あぁ、昨日の夜、新たに人間の手によって勇者が召喚された。知ってたか?」
「っ?!............んーん、初耳だよぉ。そっか、急用っていうのはそれだったんだぁ。」
「まぁな。でもお前の所に話が届いてないって事は2世代勇者を使って戦争って事じゃないんだな。」
「私は戦争反対派だしねぇ。そんな話がもしあっても断わってるよぉ。」
「だろうな、一応確認しただけだ。」
そもそも、ツァキナやフェルと同じく、人間達も先代勇者がまだ生きていて魔界にいるなんて誰も想像しないだろうからな。
だがそれもリサが敵で無ければの話。
そもそもリサが今回の人間の動きに関係があって、戦争を踏まえた上で魔界に拠点を築いているのだとすれば...。
そうなれば魔族側は圧倒的不利な展開を強いられる。
「まっ、お前の女好きで純粋なところが嘘じゃないと願っておくよ。」
「うん!女の子の笑顔の為なら私は後輩勇者だってちょちょいのちょいだよ!」
ふふん、とリサは自慢げに胸を張った。
まったく、頼もしい限りだ。
そしてその言い分だと、後輩勇者が女じゃない事を切に願いたいところだ。
「とりあえず話はそれだけだ。すぐに動くとは考えにくいが、一応そういう事だからお前が動くにしろ、そうじゃないにしろ、気をつけてくれ。」
「うん、忠告ありがとうねぇ。」
「この店が無くなってしまうのは嫌だからな。さて、それじゃあそろそろ行くか。」
「見送りするよぉ。」
「あぁ、ありがとな。」
見送りしてくれるというリサと一緒に店の外まで行くとイザナ以外の3人は木箱を地面に置いて待っていた。
「待たせたな。レンエル達への挨拶はいいのか?」
さっきまで短い間とはいえ一緒に働いたサヤナに一応聞いてみる。
「はい、先程済ませました。」
「そっか。なら良かった。さて、それじゃあほんとに色々と世話になったな。」
「んーん、私もとっても楽しかったよぉー!」
「ありがとう!」
「ありがとうございましたぁ!」
「お世話になりました。」
アリスとフィオルには随分と懐かれているようで、リサに抱きつく2人にリサは心底嬉しそうにその頭を撫でた。
「お世話になったのは私のほうだよぉ。はるっちのとこのメイドに飽きたらいつでもうちに来てねっ!大歓迎だからっ!」
「おい、勧誘するなっ!」
そしてなに自然にサヤナの胸を鷲掴みしてるんだよ、くそ羨ましいっ!
「でも、本当にお世話になったわ。戦争の事以外で会って話せて凄く楽しかったし。」
「うん、私もだよ。イザニャンとはるっちとは話すよりも戦ってる時間の方が長かったもんねぇ。」
確かにリサの言う通りだ。
今でこそこうして楽しく話しているが戦争時は殆ど話してる時間は無かったからな。
「次もまた敵としてじゃなく友達として会いたいわ。それに料理も教えて貰いたいし。」
「そっかぁ!じゃあ次は一緒に裸エプロンで料理作ろうねぇ!!」
イザナの裸エプロンか......悪くないな。
絶対に着てくれないだろうけど。
「さて、それじゃあ店前だしこの辺で。ほんとにありがとうな。また近いうちに遊びに来るよ。」
「うんっ!こちらこそだよぉ!また来てねぇ!!」
「おう。」
そして、店前で賑やかに別れを済ませた俺はアリス達が持っていた衣類の入った木箱を代わりに持ち、街の外れまで歩いた。