79.パンツを履かない美しさ
「おじゃまします。」
俺の背後、引戸の方から声がすると、すぐに開かれてそこからイザナが入ってきた。
「ねぇ、私の服何処にあるの?」
「ん?あぁ、イザニャンの服なら......はいこれっ!」
「.........何これ?」
「イザニャンせっかく可愛いのに服装が地味だったからさ、ちょっといじっちゃった、てへ。」
あざと可愛く言うリサの手には原型は留めているものの、可愛さのパラメータが爆上がりのまるで別物な服とスカートが持たれていた。
「まぁ、とりあえず着てみてよ!嫌だったらすぐに直すからっ!」
「もう嫌なんだけど......。」
イザナはそう愚痴を零しながらも、スルスルと着物の帯を緩めた。
そして肩をすぼめるとスルリとイザナの綺麗な肌が露わになった。
「.........えっ、パンツはっ?!」
「着物は下着を付けないのが普通みたいよ。」
「そうだよぉ。下着のラインが出ちゃったら恥ずかしいんだよねぇ。」
「......夫の立場から言わせてもらうと不安でしかねぇよ。」
まぁ、丈も長いしそうそうに見えはしないだろうけどさ。
「で、これを着るの?」
「うん、絶対可愛いよぉ。それにはるっちも喜ぶよぉっ!」
「別にこんなの着なくても、ハルトはちょっと体触らせておけば喜ぶし。」
「くっ、なんか馬鹿にされてる。」
そりゃ嫁の体を触れば誰だって喜ぶだろ......。
「とか言いつつ着てくれるイザニャンかっわいいっ!」
「これしか着替えがないから仕方ないでしょ。」
イザナはリサから受け取った服に袖を通しながら、はぁ、と小さくため息をついた。
「んー?別にここにある服ならどれでも着て帰ってくれてもいいよぉ?ほらこのメイド服とかどうおぉ?」
「どれも似たようなものばかりでしょ。あとそれだけは絶対にいや。」
「えー、なんでぇ?絶対可愛いのにぃ。」
「メイド服はサヤナちゃんだけで十分よ。それに動きにくそうだし。......ん、着れたわよ。」
イザナはそう言うと可愛らしい装いに少し恥ずかしそうにスカートの裾をつまみ上げた。
今まで地味だったイザナの服は肩の生地を無くし細く綺麗な肩が見える事で色っぽさを出し、袖は七分までの長さに短くされ、袖口を広くする事でイザナの嫌う窮屈さを軽減。
そして胸元や袖に程よいバランスで添えられたフリルがイザナの可愛さを引き上げている。
スカートにも勿論フリルを添えて可愛さを増し、そして色味を若干派手にする事で全体のバランスを崩さない程度に華やかに仕上がっている。
まさにイザナの可愛さ、そして華奢なその体格、そして性格を理解しているからこそのイザナの為だけに作られた服装だ。
「可愛い。可愛いすぎる。リサ、お前本当に天才だよ。」
「眼福ぅ......。」
リサは自分でデザイン、制作した服を身にまとったイザナの姿にデローンと顔を蕩けさせて見とれていた。
「ママかわいー!」
「はいっ!とっても綺麗で可愛いですっ!」
「.........うん、二人ともありがと。」
ぴょんぴょんと跳ねて喜ぶアリスとフィオルに、イザナは小さく笑みを浮かべながらその頭を撫でた。
「それでそれでっ、着心地の方はどうかなぁっ?!窮屈さと動きにくさは出来るだけ減らしてるつもりだけど!」
「......そうね、」
イザナは服のデザインには少し不服そうながらも肩を上げたり大股で何歩か歩いたりと、戦闘面重視に体を動かした。
「うん、動きやすいし、ゆったりしてて窮屈さもない。......着心地は前よりも良いかも。」
「そっか、気に入ってくれて嬉ぃよぉー!じゃあ、はいこれっ!」
リサは近くにあった木箱を取ると俺の方へと差し出した。
「ん、これはなんだ?」
「今イザニャンが着てる服の色違いや少しだけデザインが違うスペアだよ。とりあえず10着作ったから着回しで使って!」
「......お、おう、ありがたく貰っとくよ。」
イザナの場合、食料調達で毎日動き回るから替えがあるのは有難い。
......それにしても、イザナが服を預けたのは着物に着替えた昨日の夕方だ。
徹夜して皆の服を作ってたって言ってたが、一体一晩でどれだけ服を作ったのやら。