70.助ける為に。
「魔法陣は絶対に消すなよ。」
もし消してしまえば魔力のない獣人のイザナでもどうなるか分からない。
「うん。」
「じゃ、行くぞ。」
俺はイザナの手を掴むと、翼を全力で振り抜いた。
バンッ!!
短く破裂音にも似た音を立てて俺とイザナの身体は村の中、魔法陣を消してしまわないように狙った通りの場所へと突っ込んだ。
俺達がつっ込んで全壊し、大きく土煙が舞う中、俺とイザナは一瞬の迷いもなく二手に別れて駆けた。
魔法陣の中なら何処にいても生贄としての役目は果たせる。
問題は人間共が何処にエルフを隠すか。
普通なら外部からの襲撃に備えて中央付近だろうが、そうとも言いきれない。
なんたって前の勇者召喚、リンジュの時は外周ギリギリだったのだ。
つまり下手な推測で範囲を絞ってる暇があれば全力で叫んだ方がマシだということだ。
「どこだぁぁああああ、助けに来たぞぉぉぉぉおおお!!!返事しろぉぉぉぉおおお!!!」
.........名前を聞いとけば良かった。
身体強化で耳を中心に全力で強化し、そして次々と家を破壊していく。
離れた所からも家の倒壊する音が聞こえる辺り、イザナも俺と同じように破壊して回ってるのだろう。
「返事をしろぉぉぉぉおおおお!!!」
村に入ってから幾度と声を上げるが返事はない。
くそっ、こんな時に探索系の魔法でも使えれば.........ん?
よくよく考えれば先にテイリにエルフの位置を割り出して貰っとけば一番良かったんじゃ.........。
自分の頭の足りなさに歯を噛み締めながら一層強く建物を蹴り飛ばした。
だが、こればっかりはイザナだって忘れていたんだ、仕方が無い。
それよりも今は出来る事を、だ。
倒壊し、土煙がモクモクと立ちのぼる中で立ち止まった。
俺はテイリほど魔力探索が得意で無ければ、母さんの様に馬鹿みたいに耳が言い訳でもない。
無いものをねだってもしょうがない、俺は俺に出来る、俺なりの方法でやるしかないんだ。
「オラァアッ!!!」
腹の底から声を張り上げ、俺は己の魔力を飛ばせるだけ全力で広範囲へと飛ばした。
人の魔力を探索するのに比べて自分の魔力が他の魔力に触れた事を感じ取るのは天と地ほど難易度が下がる。
かなり魔力は使うが魔力量に自信のある俺にとってはそう大した量でもない。
「.........見つけたっ!!」
合わせて10の魔力が密集している。
まず間違いないだろう。
時間もなく、翼を振り抜いて幾つもの建物を突き抜ける。
そして、目的地の前まで来ると少し優しく壁を殴り壊した。
「ひぃっ.........。」
「いやぁああああっ!!」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。」
そこに居たのは10人のエルフ達。
エルフ達は首に太い首輪を付けられて10人まとめて鎖で繋がれていた。
そして一同は皆同じ様に恐怖に身体を震わせていた。
人間共に攫われてから既に1ヶ月。
きっとかなり苦しい思いをしたのだろう。
「落ち着け、俺はテイリに頼まれてお前達を助けに来たんだっ!」
「......っ?!」
「......テ、テイリ......様?」
「あぁ、説明は後だ。もう時間がない、すぐにここを離れるぞ。」
急いで邪魔な首輪を外そうと手をかけると、一瞬力がぬけるような感覚に襲われる。
「...こ、これは魔力を操作出来なくする首輪なんですっ!」
捉えられたエルフの一人が涙目で説明してくれる。
あぁ、どうりで何の見張りもないのにエルフ達が逃げられない訳だ。
生贄として強制的に魔力を吸われるのであれば魔力を操作出来る必要はないからな。
「ったく。」
バギンッ!!
人間共にイライラしながら両手でグイッと引っ張り首輪を外す。
「.........え、」
「......どう、やって......。」
エルフ達は驚くが、どうやって、という程のものでもない。
確かに魔力操作はしにくくなるが、全く出来ないという訳でもない。
魔力操作が得意なら身体強化くらいであれば出来る。
そして、数秒と立たずして全員の首輪を外すと入ってきた穴から外へと目を向ける。
ここから魔法式の外まではかなり距離があるな。
転移魔法が使えない以上は今最速の移動手段は俺のこの翼。
一度に10人は少しキツいが何往復もしてる程の時間はない。
尻尾でも何処でもいい、意地でもしがみついて貰うとしよう。
「よし、これから飛んで脱出する。皆何処でもいいから俺に.........。」
それから先の言葉を言いかけて途中で俺は口を紡いだ。
.....................なんで......。
どうしてこうなるんだ...。
......後少しだっのに.......。
特に意味もなく2日に1回投稿していたのだけれど、年末でドタバタしてたらついうっかり逃してしまった.......。
何となく始めた事でも長く続けてきた事が途切れてしまうとモヤモヤ.....。
明日も投稿します...。