64.妹
それから暫く空を飛び、やがて魔界の東側の国境となる大きな森が見えてきた。
「ハルトの実家って随分離れた所にあるのね。」
「何処かの国に属せば関わっただけ少なからず面倒事が起こるからな。それが嫌で誰も近寄らない所に住んでるんだよ。」
「へぇ、私達と同じなのね。」
「だな。」
俺がイザナと暮らす時に人里離れた魔物だらけの森に家を建てたのも二人だけの時間を過ごしたいというのと他に、これも理由の一つだ。
「さて、そろそろ森に入るな。リンジュ、お前が1番分かってるとは思うが気をつけろよ。」
「......うん。」
「何の話?ここも強い魔物がいるの?」
「いや、母さんはあまり騒がしいのを好かないからな。この森には大人しい魔物はいても血の気の多い魔物は1匹もいねぇよ。俺が言ったのは、」
と、俺が言葉を続けようとした時、
ズパァァァァァンッ!!
「あぎゃぁぁぁぁぁあっ!!」
何かが衝突するような音がしたと同時にリンジュは大きく声を上げ、その身体はぐらりと傾いた。
「な、いったい何事ですのっ?!」
「.........敵?」
かなりの衝撃だったが、大慌てのテイリに対してイザナは落ち着いた様子で辺りを見回した。
「やっぱり来たか。リンジュッ!高度を上げろ!」
「分かった!」
リンジュがそう言って高度を上げる間も下からの攻撃は続き、リンジュの腹部に貼った俺の結界にバンッ!バンッ!と幾度と衝撃が走った。
「ねぇ、降りて戦おうか?」
「いや、もう少しで家だからその必要はない。あいつらも家に近づくと流石に辞めるだろうしな。」
騒音を嫌う母さんはあまりに騒がしいとかなり本気で怒るからな。
あの人を怒らせてはならないのは俺達が1番良く知っている。
「なんか相手を知ってる口振りね。知り合いなの?」
「あぁ、俺の妹だ。」
「えっ?!」
「ん?」
俺の返事にイザナは何となく理解したようだが、懐にいるテイリは随分と驚いた様子だ。
「ハルト様、妹いたんですのっ!?」
「あれ?言ってなかったっけ?」
「聞いてないないですわ!」
「あー、そっか。」
確かにイザナにはたまに話す事はあったがテイリには話した事なかったな。
「まぁ、とにかく下にいるのは妹だからもう少し我慢してくれ。家に着いたら紹介するからさ。」
「そう。」
「そ、そもそもどうして攻撃してくるんですの?ハルト様だって事に気付いてないんですの?」
「いや、流石にそれはないだろ。別に俺は魔力隠してないしそもそも前にリンジュには会ってるしな。」
「なら、何故、」
「んー、遊び......かな。別にあいつらも本気で攻撃してきてる訳でもないし、少し激しいじゃれあいみたいな物だ。」
「激しすぎますわっ?!」
そして下からの魔法やら投擲の攻撃をしのぎつつ森の上空を飛んでいると次第に攻撃は止み、そして俺の実家が見えてきた。
「随分大きな家ね。」
イザナの言う通り家はかなり大きい方だ。
俺達の家も割と大きく作ってはいるが、周りが高い塀で囲われた4階建てのこの家はもはや家というよりは城に近い。
「リンジュ、高度落としてくれ。」
俺の指示通り高度を落とし庭にズシンと音を立てて着地すると、門があるにも関わらず高い塀を飛び越えた2人が駆け寄ってきた。
地面に着くギリギリの長さまで伸びた透き通る水色の髪の少女に、肩の辺りで切りそろえられた綺麗な銀髪の少女。
最後に会った時から既に200年以上の時が経っているがそこには昔と殆ど変わらない懐かしい姿があった。
「おにぃ、おかえりなの!」
「兄さん、おかえりなさい。」
「あぁ、ただいま。さっきは随分と派手にやってくれたな。」
「ママから聞いてお迎えに行ってたの!」
「無理やり付き合わされた。」
「相変わらずだな。っと、紹介するよ。この2人は双子の妹で、こっちの水色の髪が姉のレミ、でこっちの銀色の髪が妹のルミだ。」
「よろしくなのっ!」
「ルミです。先程は姉さんが失礼しました。」
......さっきの奇襲、確かにレミの魔法が殆どだったのは分かるがシラを切ってるルミも何発か撃ってたのは分かってるんだが...。
「初めまして。私はハルトの妻のイザナよ。よろしくね、レミちゃん、ルミちゃん。」
「...............。」
「ん?レミ、どうしたんだ?」
「......思ってたよりもとっても美人なの。」
レミは目をトロンとさせてイザナの顔に見惚れていた。
「おうおう、そうだろう!俺も毎日そう思ってるんだ!」
「ありがと、嬉しいわ。」
イザナはレミの言葉に少し照れながらも蛋白に返した。
「さて、それで紹介の続きだがこいつはエルフの族長、テイリだ。」
「初めましてですの。よろしくお願いしますわ。」
「んで、こっちはリンジュ。前に会った事あるだろ?」
「はい、頭の足りない竜ですね。」
「うにゅっ?!」
ルミ、それをノータイムで言ってやるのは流石にリンジュが可哀想だぞ...。