63.情報
「勇者召喚の日程は私の情報網でもはっきりとした事は入って来ていません。ですが、もう日がないのは確かです。」
「あまりゆっくりはしてられないな。」
位闘に続けてまったく忙しい。
「エルフの居場所、多少の推察は出来るって言ってたがそれが当たりだって確率はどれくらいだ?」
「そうですね、我々魔族に見つかりにくい事を大前提に、幾つか絞り込む要素はありますが、情報が足りませんね、多く見積もっても10%を切るでしょう。」
「そんな.........。」
テイリは絶望的な表情で涙を浮かべながらうなだれた。
「よし、ならあまりここに長居はしてられないな。この借り、いつか覚えてたら返すからな。ほら、リンジュ行くぞ。」
リンジュの腕を引っ張って扉ではなく窓の方へと向かう。
「行き先は決まってるの?」
「まぁな。行き先云々は飛びながら話す。リンジュ、早速頼む。」
「...............。」
「使えない鳥はただの家畜。」
イザナはそう言うと正気に戻らないリンジュの横っ腹にゴスッ!と蹴りを放ち、リンジュを窓ガラスごと外へと吹き飛ばした。
「ふぎゃぁぁぁぁぁあああっ!!」
と、途端に人化を解き、バンッ!と翼を大きく広げるリンジュ。
「この女狐ぇえっ!」
「うっさい。ぐずぐずしてる鳥が悪いんでしょ。あんたが味わった苦しみをエルフちゃんにさせたくないならこんな所で怒ってても無駄なだけ。自分に出来る事をしっかりこなしなさい。鳥は飛ぶ事でしか役に立てないんだから。」
強く蹴られ、割と痛そうにしていたリンジュがかなり強く怒るも、イザナはそう言ってひょいっとその背中に飛び乗った。
「............ぅぅ。」
リンジュもイザナの言葉に改心したようでバンッバンッ!と翼を羽ばたかせながら黙って割れた窓へと近づいた。
最後あたりはただの悪口だったと思うが。
「窓壊して悪いな、これも借りに付け加えといてくれ。」
借りを良いように使いながら俺とテイリもイザナに続いてリンジュの背中に飛び乗る。
そして、ここに来る時と同様、テイリを抱き寄せた瞬間、リンジュの巨体は上空へと舞い上がった。
「リンジュ、とりあえず東に向かって飛んでくれ。」
「う、うん、分かったっ!」
リンジュは上空を2週ほど旋回すると、東へ向かって羽ばたいた。
「最悪、勇者は召喚されても構わないけど、人間がエルフちゃんを殺すのだけは何としても阻止したいわね。」
「いや、それじゃダメだ。」
「えぇ、エルフはドラグーンとは違いますの。それでは誰も助かりませんわ。」
「どういう事?」
「これはややこしい事になるんだが、ドラグーンは魔獣で、魔力が空っぽになっても魔法が使えない状態で普通に動ける。それに大してエルフや、俺達魔族は魔力が減ると魔力欠乏でまともに動く事すら難しくなる。そして魔力が空になれば生きることさえ出来ないんだ。」
本来、魔法を使っても身体が自動的にセーブして魔力欠乏で動けなく事はあろうとも、それ以上魔力を使う事は出来ない。
だが、自分で使うのではなく生贄として魔力を勝手に使われるのであればセーブなんてものは当然効かない。
「そんな......。」
「だからこそ、無駄な時間を使ってる暇はない。」
「そういえばまだ聞いてなかったんだけど、今どこに向かってるの?」
「あぁ、それは勇者召喚がどこで行われるのか1発で分かる場所、俺の実家だ。」
「「「......えっ?!」」」
3人は揃って驚くが、中でもリンジュはガクンと高度を落とすほどだった。
「あっぶねぇな。」
テイリを片手に抱いてるから下手したら落ちる所だ。
「じ、実家って......じゃあ、また......。」
リンジュはそうボソボソと零しながら飛行中の体をガクガクと震わせた。
「鳥はハルトの両親に会った事あるの?」
「あぁ、随分昔に1回だけな。たまたま近く通りがかったついでに寄っただけだけど。」
「ふーん。ハルトの両親ってどんな人なの?」
「どんな......か。そうだなぁ、親父は殆ど家に帰らないで遊び回ってるような奴で、母さんは逆に家から1歩も出ない引きこもりかな。」
俺が産まれるよりも前から外に1歩も出ていないという引きこもりを極めたような人だからな、母さんは。
「......そんな2人がよく結婚したね。」
「確かにこれだけ聞けばどう考えても一緒になれないよな。まぁ、でもかれこれ何百年と連れ添ってる夫婦だからそれなりの理由もあるんだよ。」
そう、いろいろあるのだ。
例えば淫魔なのに、他の異性と交わる事一切を監視、そして遠く離れた場所から邪魔され、最終的に我慢の限界で唯一交わる事の許される妻の元へ帰ってくるように仕向けられたり......。
.........俺よりマシじゃねぇか...。