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58.今までとこれからと。


「さて、それじゃあそろそろ店回りに行くか。」


「そうね。」


あまり長居していると店の邪魔だろうしな。


「えぇー、もう行っちゃうのぉ?」


「あぁ。祭りが始まってもうここにも客が入り始めたからな。邪魔になる前に出てくよ。」


「邪魔になんかならな「リサ邪魔っ!」ぐぅえっ!...ちょっとレンエルゥ。」


「触るなっ!働かないなら邪魔なだけ!」


「ひどいっ!ねぇ、みんな!私邪魔じゃないよねっ?!」


「「「............。」」」


リサがそう言った瞬間、店員皆が一斉にシンと静まり返り、むしろレンエルによく言った!という眼差しすら向けていた。


「...リサ、お前.........。」


「......私のこと邪魔だって思ってる子には給料あげない。」


「店長、邪魔なはずないじゃないですか!」


「そうですよ!店長がここにいてくれるだけで私達は頑張れるんです!」


「ですです!いてくれなきゃ困ります!」


リサの言葉を聞くやいなや店員達は表情を変え、さっきまでの反応が嘘のようにリサに駆け寄り、その手を掴んだ。


そしてリサは俺へと自慢げに胸を貼る。


「ふふん。」


「.........まぁ、お前がそれでいいのなら俺は何も言わないが。」


俺が呆れながらリサを見ていると俺と同じ視線を送るただ1人の店員、レンエルは小さくため息をついてリサを置いて1人足早に仕事に戻るのだった。


「...じゃあ、もう行くよ。また後でな。」


「そっか。うん、いってらっしゃーい!」


リサの店を出ると、既に街全体は多くの魔族が行き交い、ワイワイと楽しげな雰囲気が広がっていた。


「凄い賑わいですね。」


「まぁ、10年に1度の祭りだからな。皆欲しいものがあったら遠慮なく言えよ。なんたって今日は飲食店は全てタダだからな。」


「はい!」


それから俺達は祭りで大賑わいの大通りをお腹1杯になるまで食べ歩いた。


普段は遠慮がちなサヤナも無料だからか、或いは祭りだからか、色んな料理をつまんでいた。


そして街の活気が最高潮に達した頃、街の中央、その上空へ魔法による光が照らされ、そこに綺麗なドレスに身を包んだツァキナがゆっくりと飛んで光に包まれた。


「我が愛しき国民よっ!!!!」


第一声、ツァキナが放ったその言葉は街中の至る所に配置された兵を仲介して魔法で余すこと無く街中へと響いた。


「この国を思い、そして信じ待っていてくれた事、心より感謝する。この度の位闘、代理を立てはしたが見事我らは勝利したっ!」


祭りも始まり、既に国民の殆どは聞き知っている事だが、魔王ツァキナの口から聞いた勝利に辺りは拍手と歓声で盛り上がった。


暫くの拍手と歓声を待ち、そしてそれらが鳴り止んだ頃、ツァキナはさっきまでと一転、小さく言葉を綴り始めた。


「妾は弱い......。まだ未熟で到底母上には適わぬ...。今回も藁が出ていれば位闘で勝つことは出来なかった......。」


位闘勝利を祝しての祭りに余りにも相応しくないその言葉に辺りの魔族は皆ざわつく。


何より今まであれだけ自分の弱みを周りに見せなかったツァキナが自ら弱気な言葉を国民へ向けて放つ。


その事に付き合いの短い俺ですら違和感を覚えた。


だが、次の瞬間にはツァキナの顔は一転、凛々しく何か覚悟のようなものを感じさせるものへと変わった。


「じゃがっ!妾はここに誓い宣言するっ!いつまでもこんな情けのない王でいられるか、妾は絶対に強くなるっ!強くなってこれからは妾自身の力で何回、何十回と位闘で勝ち続ける!もう二度と皆に不安な思いなどさせぬ!じゃから............、」


ツァキナは少し声をつまらせ、そして絞り出すように最後を締めくくった。


「だから、皆...私に着いてきて......。」


ツァキナの口から発せられたその言葉は、先代魔王オロボアの真似ではなく、正真正銘彼女自身の心からの声だった。


ツァキナの言葉が終わると、今までの盛り上がりが嘘のようにシーンと辺りは一瞬静まり返り、そして次の瞬間、今度は街中から国民の歓声があがり、大地を震わせた。


「凄い歓声ね。」


「だな。まぁ、人一倍努力してたんだ。それが国民に伝わってないはずないからな。」


きっと今までオロボアというどうしようもなく大きな背中しか見えてなくて不安だったのだろう。


「ったく、これだけ皆に好かれてりゃもう立派な魔王だな。」


さて、それじゃあ俺も自分のすべき事をするかな。


「イザナ、悪いが少し用が出来たからアリス達の事頼んでいいか?」


「ん、別にいいわよ。」


「ありがとな。」


そして俺はついでにリンジュも任せて一人町外れの木々が並ぶ丘までやってきた。


ツァキナが出てきた時、一瞬だけ感じたテイリの魔力の元へ。

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