57.着物
位闘での俺を見て影響を受けたのか、それからも魔法やら格闘術の事で盛り上がりあっという間に祭りの開始時刻へと近づいていった。
「そろそろ祭りの時間だな。」
「みたいね。祭りってどういう事するの?」
「まぁ、俺が最後に参加したのは随分と昔だけど、その頃と同じなら飲食店が全品無料で振舞って皆で盛り上がりながら色んな店を食べ歩くんだ。あとは魔王が演説したり強力な魔法を盛大に披露したり。」
「その通り。今でも昔と祭りの内容は変わっとらんはずじゃ。みんな楽しんで来ると良い。」
こっちに戻って以来全く顔を出さなかったツァキナが部屋に入りながら言う。
「お疲れ。お前は祭りに参加しないのか?」
「うむ。演説前に位闘に勝った事で色々と話をせにゃならん相手が居ての。あまり遊んどる暇はないのじゃ。」
「忙しそうだな。まぁ、程々に頑張れよ。」
「ツァキナ様、そろそろ。」
「うむ。ではの。」
フェルに呼ばれツァキナはあっという間に部屋を出ていった。
余程忙しいみたいだな。
............位闘の後、演説まで俺達と食べ歩きしてたオロボアはいったい......。
「さて、じゃあ俺達もそろそろ行くか。」
「そうね。」
「あの、もし余計な御世話でなければお二人で「却下。」.......。」
余計な御世話というか、気が利きすぎるというか.......。
俺とイザナの事を考えて発したのだろうが、サヤナの言葉が終わるよりも早くイザナが却下した。
「あのね、そんな気遣いはいらないよ?ハルトと二人で過ごしたい時はちゃんと言うし、それにお祭りなんだから皆でいた方が楽しいでしょ?」
「.....は、はい!」
そうだ、せっかくのお祭り、そしてせっかくのサヤナの着物姿だ。
これを逃すのは余りにも惜しすぎる。
そして俺たちはリサの作った着物が待つ店へと向かった。
「いらっしゃーい!」
「出来てるか?」
「もちっ!」
店に入ると真っ先にリサが駆け寄ってきた。
「こんな感じでどうよっ!」
デデン!と突き出されたリサの手には綺麗なオレンジの生地に白で花の柄を装飾された着物が持たれていた。
「おぉ、めちゃくちゃ綺麗だな。」
「あ、ちなみにこれはイザニャンの分ね。」
「おぉ、似合いそうだ。」
「あ、私は着ないわよ?サヤナちゃんに着させてあげて。」
「だめっ!これはイザニャンのサイズで作ってるんだから!それに、」
リサはそこまで言うと後にチラチラ見えていた何着もの着物を持ち上げた。
「きっちり全員分用意してるからねぇっ!」
「なぁ、イザナ。せっかく作ってくれたんだから着てみたらどうだ?」
「.........分かった。」
その言葉を聞いた瞬間、俺とリサは小さく拳を固めた。
それから男の俺は客席で待たされ、イザナ達は揃ってリサに着付けて貰うために店の奥へと入っていった。
そしてしばらく。
外が段々と賑やかになってきた頃、まずはアリスとフィオルが二人、店の奥から出てきた。
「パパ、どう?似合う?」
「おにいさん、どうですか?」
アリスはピンクの着物でフィオルは黄色の着物。
サイズ感も流石なものでピッタリだ。
「おう、二人とも凄く似合ってて可愛いぞ。」
そして奥からは続けてサヤナとリンジュ、それにイザナが出てきた。
サヤナだけ妙に色っぽい感じがしてたまらないが、リンジュとイザナに関しては普段なら絶対に着てくれない装いなだけあってかなり新鮮だ。
「3人ともめちゃくちゃ可愛いぞ!」
「あ、ありがとうございます。」
「......えへへ。」
サヤナは少し照れ、リンジュは無理やり着せられた事に少し不満そうな顔をしていたが可愛いと言われたのが嬉しかったようで頬をにまぁと緩めた。
だが、一方のイザナは、
「ねぇ、これ凄くキツいんだけど。」
そう言って顔を顰めた。
そしてそんな俺達を後ろで見守るリサは、
「うへへ、眼福眼福ぅ。」
そう言って頬をつり上げるのだった。