56.魔法
「あ、パパ。」
サヤナ達と一緒に部屋へと戻ってくると俺を見たアリスが駆け寄ってきた。
「ん、どうした?」
「みてみてっ!」
アリスはそう言うとまるで踊っているようにステップを踏み、最後に「やっ!」という掛け声と共に右手を開いて突き出した。
「おっ、近接格闘術か。アイリスに教えてもらったのか?」
「うん!」
「そうか、凄い上手だぞ!大きくなればイザナよりも強くなるかもしれないな!」
「えへへへ。」
アリスは嬉しそうにサヤナの方に報告しに行くとサヤナはアリスの頭を優しく撫でた。
まったく、見ていて本当にほっこりする姉妹だ。
「ところでフィオルの方はどうなんだ?」
そもそも言い出したのはフィオルらしいが、当の本人はあまり楽しそうには見えない。
「.....魔法難しくて全然出来ないです.......。」
「まぁ、初日なら皆できなくて当然だ。どれくらい出来るようになったか見せてくれないか?」
「うぅ.......はぃ。」
フィオルは自信なさげにそう言うと、親指と人差し指を近付けて力を込めた。
魔力は高密度に集まれば形になりそれを魔法陣でコントロールすれば魔法となる。
フィオルが今やっているのは魔法を使う際の第一段階、魔力の操作だな。
ある程度魔法が使える人なら魔力が目に見えるほど集められるが、今のフィオルの指先には何も見えない。
というか、若干の変化はあるが、殆ど誤差というレベルでしか動かせていない。
「まぁ、普段魔力を意識してなくて初めてだったらこんなもんだろうな。」
「ぁう.......。」
フィオルは悲しそうに肩を落とす。
「フィオル。」
「は、はい。」
ベッドに腰をかけた状態の膝をポンポンと叩くとフィオルは素直に膝の上へちょこんと座った。
「いいか、自分の中にある魔力を意識するんだ。まだ魔力がどんなのかは分からないかもしれないけど、意識する事が大事だからな。」
「はい!」
「どうだ?分かるか?」
「...........。」
「今はどうだ?右手に少し集まってきたぞ。」
「.....ぁ、少し温かいです。」
「そう、それだ。その感覚をより深く感じて。」
「ぅぅ.....はいです。」
「じゃあ、火の玉を意識しながら唱えるんだ。火玉。」
「ふぁ、火玉!」
フィオルがそう唱えた時。
グウァンとフィオルの掌に魔法陣が浮かびそこから小さな火の玉が現れた。
「ふぁわわ、す、凄いです!」
「あぁ、凄いぞ、流石フィオルだ。」
俺がフィオルの頭を撫でている周りでアリス達も「すごい!」と盛り上がっている。
「今は魔法陣を俺が作ったけど、1発でこれが出来るのは本当に凄いぞ。練習したらあっという間に上級魔法が使えるようになるかもな。」
「が、頑張りますっ!!」
「おう。」
フィオルがぴょんと飛び降りると、隅で見ていたフェルが珍しく神妙な顔をして近づいてきた。
「ハルト様、今のはどうやったんですか?」
「ん?」
「まだ全然魔力を使えなかったフィオル様にどのようにして...。」
「あぁ、あれは別に大した事はしてないぞ。フィオルの体に触れて俺の魔力を少し流し込んでからフィオルが魔力を右手に集めやすいように誘導しただけだ。あとはフィオルの代わりに魔法陣を構成すればフィオルは唱えるだけで魔法を使えるからな。」
実際問題、その後に魔法が簡単に使えるという訳では無いが、一度、こうして魔法が使えたというだけで後後のやる気や自信は随分と変わるものだ。
「そんな方法が......流石ハルト様です。」
「まぁ、母親にして貰った事をそのまましただけだがな。」
あぁ、そういえばもう随分と会ってないな。
娘も出来た事だし今度会いに行くか。