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55.祭り前


「で?何か用事があったんじゃないの?」


「なんでそう思うんだ?」


「そんなの簡単だよぉ。はるっち今日店に来た時の顔寂しそうだったもん。イザナニャン達と一緒にいられないの寂しんでしょぉ〜?」


「うっ.....。」


あぁ、そうだ、まさかリンジュまで着いて来なかったのは想定外だった。


「で?どうしたの?」


「ん、少しお前に頼みがあってな。」


「頼み?」


「あぁ。昔、お前が戦争中にやけに場違いな服装してたろ?えーっと、きもの...だったか?」


「あー!着物、着てたねぇ!」


「あれが今もあるなら売ってくれないかなと思ってな。」


「今夜のお祭りで着せるのぉ?」


「あぁ。あるか?」


「任せて!今から作るっ!」


「......は?いやいや、なければいいって。それに、もう祭りまで3時間を切ってるぞ。」


「むふふ、300年もの間、鍛えに鍛えた私の裁縫技術(ゴッドハンド)なら5人分の着物くらい2時間もあれば作れるのだよぉ〜。」


と、言葉が終わらないうちに仕立ての準備を始め、言い終わった頃には物凄い速さで針を裁いていた。


......もともとサヤナに着せるつもりで頼みにきたのだがまさか5人分仕立ててくれるとは。


イザナは着てくれないだろうと思っていたが、わざわざ仕立ててくれたとなれば話は変わってくる。


「じゃ、じゃあ頼んだぞ。また後でイザナ達を連れてくる。」


「うん!楽しみに待ってるよぉー!」



リサの店を出ると寄り道せずにまっすぐ城へ戻り、イザナ達がいる部屋の前で一つ息を整え落ち着いた様子で扉を開いた。


「ただいま。」


「おかえり。」


部屋へ入ると想像以上に静かでイザナだけがベッドに腰をかけた状態で出迎えてくれた。


「ん?他の皆はどうしたんだ?」


「皆、裏の闘技場に行ってる。」


「...ん、え?闘技場?」


「フィオルちゃんが自分も魔法を使いたいって言い出してその流れでサヤナちゃん達もフェルさんとアイリスさんに色々教えて貰う事になったの。」


「へぇ、フィオルが魔法を...ね。」


皆を危険に晒す気は毛頭ないが、何せ家に帰れば1歩でも外に出れば危険が付き纏う地域。


万が一に備えてある程度、自己防衛出来るようになってくれるのは俺としても不安が少し減るというものだ。


「リンジュはイザナと2人っきりが嫌で付いて行ったってとこか。で、イザナは何で残ったんだ?ていうか、ちょっと元気ない?」


「まぁ......ね。」


イザナは笑顔こそ見せるものの、小さく返事をするとそのままベッドへと倒れ込んだ。


「おいおい、どうしたんだ?どこか調子でも悪い......はないか。」


結婚して今日まで1度として体調を崩した事がないイザナ。


正直、イザナが元気を無くす要因というのが全く思い浮かばない。


あるとすれば、


「もしかして俺に惚れ直しちゃったとか?」


なーんて......、


「そうかも。」


............はっ?!!


「久しぶりに本気で戦ってるハルトを見ちゃったからかな......。」


イザナは少し頬を紅くしながら隣に座った俺の顔を横目でチラリと見た。


正直、素直過ぎて気持ち悪い所ではあるが、この機を逃す程俺は余裕のある男ではない。


くるりと身体を反転させると、イザナを覆うようにベッドへと手を付きイザナの目をまっすぐと見つめた。


「エッチ...するか。」


「やだ。」


.......................................は?


「......エッチしよう。」


「やだ。」


.......................................。


「は?いや、ちょっと待ってくれ。今のってそういう流れだったんじゃないのかっ?!」


「どういう流れよ。そんなマジな顔で言われたって嫌なものは嫌よ。」


「ぇ......ぁ............。」


絶対いけると確信して自分の中でのとびっきりのいい顔をしただけに息が詰まる程の羞恥心に見舞われながら、ゆっくりとイザナの上から身体を起こした。


「でも、俺に惚れ直したってのは合ってるんだろ?」


「うん、でも惚れ直すのとエッチしたくなるのとは全く違うからね?」


「うっ。」


喜ぶべきなのか悲しむべきなのか分からん。


「それじゃあ何で元気ないんだ?」


「うーん、なんていうか......またハルトと本気で戦いたい...かな。」


「........は?」


ここ220年で一度も言わなかったような事を言い出せば誰だってこんな反応になるだろう。


「どうしたんだよ、急に俺と戦いたいなんて......。」


「だってハルトも私と戦ってた頃、楽しいって思ってたでしょ?」


っ...。


表情一つ変えずにケロッとそんな事を口にするイザナ。


確かにウガルと戦ってた時にも思い出したが、それは否定出来ない。


命を掛けての殺し合い、それでもイザナとなら己の全力をぶつけてなお、それに応えてくれて、まるで戦闘の中で相手と心を通わせていく、そんな感覚すら覚えていた。


「もう200年以上戦ってなくて、すっかり忘れてたけど、ハルトが位闘で戦ってるの見てたらムズムズしてきちゃって。」


イザナは少し顔を紅くして意味深に体をもじらせた。


「じゃ、じゃあ、条件として戦った時間だけ俺とエッ「やだ。」...........。」


「.................。」


「.................。」


「.................なに?」


「いや。いつになったらデレてくれるのかなと思ってさ。」


「私は結構デレてるでしょ?発情はしてないけど。」


「そうですね。」


たしかにアリス達が来て以来、イザナはデレという表現が合う態度を幾度ととっている。


だがそこから一歩先へ進む事がいつまでたっても出来ない虚しさがこれまた辛いところだ。


「すぐにじゃなくてもいいから、またいつか戦おうね。」


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