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53.帰り道


「ハルトよ。お主は本当に......本当によくやってくれた!ウガルのあの姿、アイリスに任せておっては確実に負けておった。」


「そっ、そんな事は............。」


ツァキナの言葉にアイリスは反論しようとするが、否定するだけの自信が持てずに言葉を濁らせた。


「ツァキナ様、確かにハルト様だからこそ勝てた事には違いありませんが本人を前にそれを口にするのは失礼かと思いますよ。」


それを口にするフェルも大概失礼だと思うがな。


「さて、それでは帰るかの。」


「そうですね。ハルト様がお疲れでしたらもう少し休んでからでもいいのですがどうですか?」


「ん、いや。別に全然疲れてないが。早く帰って用でもあるのか?」


まぁ、ここに長居する必要もないが。


「はい。勝ったことを知らせてお祭りの準備をしなければなりませんので。」


「あぁ、そういえばそうだったな。すっかり忘れてた。リンジュ、また頼めるか?」


「うん!いいよぉ!私は優秀な従者だからぁ!」


ここに来る前に言ったご褒美が影響しているのだろう。


いつもならイザナを拒むリンジュが一言もごねる事なく素直にドラグーンの姿へと戻って腰を落とした。


「アリス、フィオル。」


俺もバカではない。


サヤナをイザナに任せてアリスとフィオルを呼び寄せて抱き抱えるとリンジュの背中へと飛び乗った。


「サヤナちゃん。」


「あ、あの、イザナ様。」


「ん?」


「これくらいなら背負って貰わなくても大丈夫です。」


サヤナはそう言うと少し屈んでぴょんと軽々リンジュの背中まで飛び上がった。


「おぉ。」


不意に口から声が漏れてしまったが翌々考えれば当然といえば当然だ。


人間のフィオルと違って身体能力に優れた獣人。アリスはまだ幼いにしてもサヤナ程になればこれくらいは朝飯前だろう。


ここに来る時は言い出せなかったのだろう。一方でおんぶを断られたイザナはムスッと頬を膨らませながらサヤナに続いてリンジュの背中へと飛び乗った。


ツァキナ達もイザナの後に続き飛び乗り、全員が乗ると随分と楽しげなリンジュが大きく叫んだ。


「それじゃあ!!シュッパァーッツ!!」


バンッ!バンッ!と羽ばたくとウガル達の姿はあっという間に小さくなりやがてアイザンドも小さく見えなくなった。


帰りも疲れているだろうとフェルが魔法壁を張ってくれて、1人休んでいると飛び立ってから5分ほどした頃。


アリス達と話していたイザナが話を終えたのか俺の元へ近づいてきた。


「ねぇ、ハルト。」


「ん?」


「膝枕、してあげようか?」


「......めちゃくちゃして欲しいけど、どうしたんだ?」


俺から頼めばたまにしてくれる事はあるが、イザナから言ってくれるのは初めてだ。


「別に。我慢しないで少し休んだらいいよ。」


「.........そっか。ならお言葉に甘えるよ。」


俺はそう言うと正座しているイザナの太股へと頭を乗せるように体を倒した。


今まで殆どの奴にはバレなかったのに流石は俺の嫁だ。


人体構造から作り替える俺の擬態は元の姿に戻すのはまだいいが、再び人化すれば多大な魔力を消費する。


周りに悟られないようにしていたつもりだったがイザナの目は誤魔化されなかったようだ。


固くゴツゴツした鱗と違って、柔らかくいい匂いのする枕に疲れていた俺の体はすぐに眠りにつき、


「お疲れ様。ゆっくり休んでね。」


俺の耳にはそんなイザナの優しい言葉が残っていた。


そしてそれからどれ程の時間寝ていただろうか。


「ハルト、もう着いたよ。」


「...ん、そうか。」


イザナの声に目を覚ますともう城の前でサヤナ達は先に降りてリンジュの背中には俺とイザナだけが残っていた。


余りに気持ちの良い枕にぐっすりと寝てしまっていたようだ。


リンジュも俺のためにわざわざ待っていてくれたのだろう。


名残惜しい枕から顔を離すと眠っている間に固まった身体を伸ばした。


「さて、じゃあ俺達も降りるか。」


「ん。」


ぴょんと飛び降りると同時にリンジュも人の姿へと戻った。


そしてすぐさま擦り寄るように俺の腕へとかきつく。


「ねぇ、はるとぉ!」


「ん?」


「あたしは優秀な従者だよ!」


「あ、あぁ。」


「ご褒美あげる気になった?」


「......はぁ。あのな、お前が優秀だって事はもう何百年も前から分かってるよ。ご褒美、何がいいか考えとけよ。」


「うんっ!!」


「さて、祭りまではまだ時間があるだろうしあいつの所にでも行くか。」


「あいつってリサちゃんの事?」


「ん、まぁな。イザナも行くか?」


「やめとく。私はアリスちゃん達と城で休んでる。......浮気、しないって信じてるからね?」


「大丈夫だよ。俺が愛してるのはイザナだけだから。」


「愛は無くても性欲を私以外の女で満たしたらそれは浮気だからね?」


「わ、分かってるよ。」


そこは私も愛してるって言う所だろうよ。


言われた記憶など殆どないが。


「リンジュはどうする?一緒に行くか?」


「.....................。」


「ん?」


「......あたしも城で待ってる...。」


メイド服を着せられていた事もあったしリサに対して相当の抵抗があるのだろう。


むむむぅ、と悩みこんだ後にリンジュは力なく俺の腕から手を離した。


こいつだけは絶対に付いてくると思ったがリサへの抵抗が勝ったようだ。


「そっか。じゃあまた後でな。......あ、そうだイザナ。」


「なに?」


「膝枕ありがとうな。凄い柔らかくて気持ちよかったよ。」


「......そう。また気が向いたらしてあげるわ。」


「その時を楽しみにしとくよ。」


俺はそう言うとイザナ達と別れて1人街の方へと向かった。


街へ着くと以前のような活気はなく、みんな祈るような面持ちで固唾を飲んでいた。


「ま、当然か。」


1度として負けなかったオロボアのお陰で未だに位闘で負けるという事を経験した事がない。


オロボアは他国へ対して基本的には何も要求はしなかったが、他の魔王がそうだとは限らない......いや、むしろ要求しないなんて事は有り得ないだろう。


フェルが危惧していた事も含め良くない事が起こるのは間違いない。


そんな状況で普段と変わらずにいられる奴なんていないか。


「.........あ、ここにいたな。」


一際目立つリサの店。


その前では今日も変わらず元気なメイドさんが客引きをしていた。

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